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日本国民参加型ゲーム  作者: two
第六章 CONTINUE 四国編 道半ば
10/88

10th Game

 4月25日 愛媛県高知県 県境


 4:44


 ブー、ブー


「ヒデ、また定期連絡きたよ。今生き延びてるのは…350,998人だってさ。全国で見てももう4千万人近く死んでるってさ。」


「だいぶ減ったな。このゲーム始まった時は200万人近くいたのにな。」


 ヒデがそう言いながら、車のフロントガラスにくっついてくる『人喰い虫』をワイパーを動かして振り払った。


「生き残るためとはいえ、この虫を喰うのはちょっと抵抗あったよな…。」


「しょうがないだろ。喰わなきゃああなってたんだから。」


 ヒデが視線をやった先には、黒い塊がいくつも転がっていた。後部座席のマツナミはそんな外の様子を見る気もなく俯いている。マツナミはいまだにハセガワ、イワキを引き留められなかったことを悔やんでいた。

 おれは運転中のヒデに助手席から言った。


「ヒデ、おまえ頼れるやつになったよな。大学もサボってばっかりで、サークルでも酔い潰れてばっかりだったのに、ホントに今は頼りがいがあるよ。」


「変なこと言うなよ。今は生き延びることだけを考えるんだよ。あと24日で徳島県の霊山寺まで辿り着かないといけないんだからよ。」


 と言いつつも、ヒデの口元はうっすらとにやけていた。あの時もそうだった。鳴門大橋で毒ガスをまかれ、この『八十八ヶ所逆回り』のゲームが始まった時だ。ヒデは毒ガスの悲惨な光景に頭を抱え、頭を垂らしていたが、腕の隙間から見えたその口元は鳥肌が立つくらい不気味だった。

 ゲームが始まるとヒデの助言により、おれらは携帯と貴重品だけを持って、車ではなく自転車を奪った。幹線道路はヒデの言うように車で溢れていたため、自転車での行動の方が断然速かった。

 幹線道路から外れると車を奪った。道路が車で立ち往生している時は、線路に入り込みそこを走った。そんなことをヒデの指示でタイミングよくこなした。結果、ゲーム参加者の中でも先頭集団に食い込むことができた。

 ゲーム開始から10日程経つと競争相手も減って来て、ある程度スムーズに動けるようになった。それは全てヒデのおかげといっても過言ではなかった。


「車盗んだり、お金盗んだり、人も殺したり…もう、やだよ…。」


 マツナミがやっとの思いで声を絞り出して言った。


 カタ、カタ、カタ、カタ


 しばらくワイパーの音だけが車内に響いた。バックミラーからマツナミの様子を見ようとしたが助手席からだとうまく見えない。


 ブー、ブー


 沈黙を破るきっかけをくれるかのように緊急速報が流れた。


『6:13 北海道紋別市が囚人達の手により陥落。囚人達の勢力は日に日に拡大していっている。また、それを支持する若年層を取り込みさらに巨大な組織へと姿を変えている。自分達の意思をしっかり持ち、騙されないこと。』


「自分達の意思…か。政府はそう言うけど、今の若い者は面白半分、好奇心だけで囚人達についていってるんだろ。こんな文書じゃ、なんの抑止力にもなんないよな。」


「まあ、アキオの言う通りだよ。逆に増えるだろうね。北海道は戦争かぁ。おれらは後戻りできない人生ゲーム中。負ける気はないけどね。」


 おれは人生ゲームかぁ、と思いながら昔を思い出した。小学生の頃に親に買ってもらったボードゲーム。何回やっても一番にはなれなかった。うまいやつ?運のいいやつ?はいつもガッポリ儲けて、なんの障害もなく、悠々とゴールしていた。

 いつもビリのおれは無駄に子供が生まれ、出費がかさみ、不慮の事故に見舞われ…。それでも、今思い返して見ると、結婚して子供が生まれて平凡に過ごすということがおれには合っていたのだと思う。それが幸せなんだとこの状況になるとつくづくそう思う。



     ☆



 7:00


 おれはヒデと車の運転を代わった。バックミラーを見ると、マツナミはまだ俯いたままだ。


「マツナミ…無事にこのゲームが終わったら、みんなで海に行こう。」


 おれは何か気が晴れる前向きな話をしようとした。本当は二人でと言いたいところだったが、その気持ちはすっと収めた。おれはバックミラー越しにマツナミの応答を待った。


「…みんなって…みんなはもういない…。」


 ヒデが助手席からおれの足を蹴ってきた。おれは小さい頃の人生ゲームを思い出し、一人で納得した。軽くため息をつき、運転に集中した瞬間、おれは一瞬だったがあるものを見た気がした。


「うわぁっっ!?」


 おれが大きな声を出し、急ブレーキを踏んだため、シートベルトをしていなかったヒデは助手席で前につんのめっていた。


「おわっ!アキオ、急になんだよ!」


 おれはヒデに言葉を返さずに後ろを振り返った。走ってきた道路、脇道と体を大きく右に捻って、あいつを探した。見つからない。おれは逆に助手席側に体を捻り、後部座席に身を乗り出し通り過ぎた左後方も探した。


「おい、アキオ、どうしたんだよ?なんだよ、なんなんだよ?」


 おれはシートベルトを外し、人喰い虫が飛び交う中、車を降り、今来た道を振り返った。薄日が差す中、うごめく人喰い虫。木々は新緑に溢れているが、人影はなく薄汚れた人工物が廃墟のように建ち並んでいる。


「…タカハシ。」


 おれはたしかに見たはずだ。


「アキオ、なんなんだよ?なんかあったのか?」


「いや、今ちょっと…ヒデ、今タカハシ…見なかったか…?」


 おれはずっと遠くの後方を見ながら、ヒデに聞いた。


「タカハシ?タカハシってあのタカハシか?」


「あぁ…。」


「いや、タカハシも何も見てないけど…そもそもタカハシは、あの時アキオが…。」


 たしかに、あのウッド・ベルのゲーム予告があった日の朝、タカハシはおれが車で轢き殺してしまったはずだ。生死までは確認していないが、サイドミラーに映ったタカハシはもう人間とは思えないものだった。たとえ死ななかったにせよ、この20日程度で怪我が治り歩けるようになるのか?さらにいうと、あの車に轢かれてひん曲がった体でこのゲームに参加し、ここまで生き延びることはできるのか?

 おれはこの人生ゲームが始まった時、見るのは未来だけにし、過去は振り返らないと決めていた。しかし、遠く続いている抜け殻のようなこの来た道を見ていると、その決心はあっという間に吹き飛んでしまった。


 ブー、ブー



『7:11 網走刑務所囚人らに紋別市と同じように攻撃を受けていた旭川市も陥落。これにより、北海道の北西部はほぼ囚人らの支配下におかれ、札幌侵攻への足掛かりとされた模様。』


 ブー、ブー


『7:12 政府は網走刑務所囚人掃討作戦を発表。囚人服を着た囚人ならびにそれに協力する者の殺害を許可。空爆も開始するとのこと。』

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