表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしの道  作者: ゆず
2/2

一人暮らし

だいぶ一人暮らしにも慣れてきた。

最初は、今考えれば笑ってしまうようなことでよく泣きながら親に電話をした。よく覚えているできごとが2つある。まず一人暮らし初日の夜、夕飯を作っている途中で包丁で指を切ってしまったときに、絆創膏の前に私は母親に電話をした。はじめは母も驚いていたが、事情を知ると私の混乱のしようにこちらの耳がキンキンしておかしくなりそうなくらいに大声で笑い、それからその混乱を心配し、指の心配は一切しなかった。

そしてもう一つは、「虫」だ。その日、学校が終わるといつものように私は家に帰りドアを開けた。そしたら部屋のどこからか虫が羽をこすらせる音がした。わたしは何かと思いその音のするほうへ目をやり虫の居所を探すと、私のベッドの枕元に確かに虫がいた。だがわたしは小学校のときから虫が嫌いで、コオロギとケムシの区別ができなかったくらい虫に触れてこなかった。よって私は、それが何虫なのか特定できなかった。そしてアパートの廊下で私は泣き、今度は父親の携帯へと電話した。私は今のこの状況とそれはどんな虫なのかを泣きながらマシンガンのように熱弁した。その熱弁を仕事帰りだった父はかったるそうに聞き、一通り聞き終わるとめんどくさそうに、

「いいか、お前虫が怖くて泣いてるみたいだけどよ、本当に怖がってるのは虫のほうなんだぞ。殺されるかもしれないって泣いてるかもしんねえぞ。俺は虫がかわいそうに思う。逃がしてやれ。それができないなら、ほら殺虫剤あるだろ?あれで殺せ。じゃ、まあ頑張ってね~。」

といって、私の反論がはじまる前にそそくさと電話を切った。

私は彼の対応に唖然として少しのあいだその場に立ち尽くした。しかしそのおかげで涙も枯れた。これは一人でやるしかない、と思い決死の覚悟でおそるおそるドアを開けてみた。そしたらもう虫はいなくなっていた。あれっ?と思い部屋中を見回したがやっぱり虫はいなくなっていた。それでも念のため殺虫剤を部屋に軽くふりまき、私と虫の戦いは終結した。結局何もしてないのに達成感と自分の成長を感じ、根拠のない自信が湧いてきたのを覚えている。

まあ、何かあってもその時になれば何とかなるのだ。

そう思ったときずっと入りっぱなしだった肩の力がすこしだけ、抜けた。

そんな感じであれ以来今のところ虫は出ていないし、最初は料理を作るのに一時間はかかったのが、七か月たった今では三十分もかからない。スムーズにひとつの料理を作れるようになった。が、手の込んだ料理もしなくなったともいえる。料理にかかる時間が三十分少なくなったのだから、理屈でいえば三十分自由な時間が生まれたはずだ。だが、それが生まれないから不思議でしょうがない。家事をやってシャワーを浴びてレポートを終わらせると大体時計は十二時をまわっている。

 友達と飲みにでかけることは滅多にしない。集団が苦手で変に緊張するからだ。遊びに行くと体調が悪くなることがなんとなく予想できるため、誘われただけで鼓動が速くなるのを感じる。なので誘われても断ったり流していたりしたら、最近はもはやあまり誘われなくなった。

そんなわけで学校が終わったら家に直帰する私は毎日家でこんな生活を送っていた。「一人暮らしって寂しくないの?」と聞かれるが全然寂しくはなかった。むしろ誰からも干渉されないこの生活を心地よく感じていた。

 家は大学からは目と鼻の先にあった。でもそれ以外は延々と田んぼが続く田舎だった。家から一番近い店は1キロ先のコンビニだった。すごく遠いわけではないが、コンビニならではの手軽さというものは存在しなかった。でもわたしは、この不便さが嫌いではなかった。どこへ行くにも時間がかかるが考えてみれば時間に追われるようなこともなかった。むしろ田んぼ道を自転車で走っていると、何にも追われていない自分への‘余裕’のようなものを感じることができ、とても穏やかな気持ちになれた。

そして、わたしはそんな自分が少し誇らしかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ