~Loss~
もう少し待って欲しかった。せめて、この気持ちが何なのか解るまで…。
道路に横たわる深紅に染まった肢体。苦痛に歪んだ顔。
「ひなた…?」何が起きたのか、わからずというか、わかりたくなくて、呆然と呟いた。
「…っ…あぁ……賢か。」血の気の失せた顔で微笑むひなた。
「『あぁ』じゃないよ!…どうして…。」膝がガクガクして力が入らない。混乱する頭で何ができるかを必死に考えた。
「…こ、光とっ…コイツ…た、のむ…。」苦しそうに言うひなたの白衣の下から出てきたのは仔猫だった。
人が死ぬところなんて見たことは無かったが、あぁもうひなたは助からないんだと思った。
「…わかった。オレがひなたのひなた代わりに、ひなたが守ってきたものを守るよ。」仔猫を抱いた。涙で目が霞んだが、なんとか笑えただろうか。
「へっ…なまいき、…。」ふんっと笑い、頭に伸ばされた手は、すぐに力が抜け、地に落ちた。
「うあぁぁあぁぁあああぁあァァあああああぁぁぁ!」空に向かって思いきり叫んだ。心が空っぽになるっていうのはこういうことだろう。
葬儀の日。
「猫を庇って轢かれたそうよ。ひなたちゃんらしいと言えば、らしいけど…。」
「えぇ。…ご両親もいなくて、弟さんもあんなに小さいのに…。」
本当に心配して言っているのかもしれないが、所詮近所の人の声は、憐れみを含んだ皮肉だ。
「光?…平気か?」体調もそうだが、精神的にも心配だった。
「けんちゃん!大丈夫だよ?」腫れぼったい目で微笑む光。泣き虫のくせに、俺の前では結局一回もひなたのことで泣かなかった。
「そういえば…アイツ…。」
「ん?」光の笑顔が不自然だ。しかし、本人が元気を装いたい様だから、敢えて何も言わない。
「ひなたが、…庇った猫…オレがもらっていいのか?」少し躊躇いがちに言う。
「いいよ!だって、ひなねぇが、けんちゃんに任せたんだもん…。きっと、オレじゃ世話できないとか思ったんだろうなぁ。」クスクスと笑う光。
「そうじゃない。ひなたはお前のこと大切だったんだ。それに任せられたって言っても、オレだって何も出来ない。」ひなたならもっと上手いこと言うんだろうけど、オレにはこれが精一杯だ。
「本当…?」少しだけ光の瞳が揺れた。
ひなたには、ああ言ったけど、ひなたの代わりなんて一生オレには出来ない。だって、ひなたは、ひなたにしか出来ないから。だからオレは、オレのやり方で守ろう。ひなたの守りたかったものを…。
ていうか…あ、れ…コメディのはずが…?すみません(>_<)