melancholy
あの頃の自分はと言えば…。
「ひなたー、このねこのケガみてくれ!」ケガをしたノラを、馴染みの動物病院に連れて行く。小さい頃の俺の日課だった。
「あぁ?まだ診察時間前だけど。ていうか、毎度毎度ノラ連れてくんな。慈善事業でやってるわけじゃねぇし、アタシは、診察前でもやることはあんだよ。」忌々し気にひなたが言うが、心からではないことを知ってる。
「じぜんじぎょー?」きょとんとする。
「純粋に動物たちの為思ってやってるわけじゃない。商売なんだよ、商売。…アタシはそんな優しくない。」言いつつも、手早く傷を消毒し、包帯を巻いてくれるひなた。
「でも…いつもノラみてくれんじゃん。」ノラだってきちんと診察してくれる。ひなたは優しいのに…。
「ガキはいいんだよ。細かいこと気にしなくて。」ひなたにコツンっとゲンコされた。
犬飼ひなた。光の姉で、俺の従姉。光の面倒を見ながら獣医をやっていた。女性で、しかも若い人が中々いない獣医師会の中で一目置かれた存在だった。全ては過去のことだが…。
「…ひなた、こうは平気?」光はあまり外へ出なかったので、外へ連れ出すのは俺の役目だった。
「あぁ…昨日の夜中高熱出してな…。今朝も熱は下がったけど、寝てろって言ったんだ。でも賢が来るから起きてるって聞かなくて、さっきぶっ倒れたよ。」溜め息まじりにひなたが言う。
「おみまいしたらダメ?」ひなたの様子からすると大したことは無さそうだが、心配になる。
「ここにいても邪魔なだけだ。行ってやれ。」そっけなくひなたは言うが、嬉しそうだ。
「こうー?」小声で呼びながらドアを開ける。
「ひなねえ?…あ、けんちゃん!」少しだるそうな様子だが、身体を起こし、笑顔を見せる光。
「ん。げんき…ではないみたいだな…だいじょうぶか?」無理に笑っている感じが、余計心配にさせた。
「へいきだよ。ただひなねえがねてろ…って…。」息苦しそうな光。
「オレがいしゃならびょうきをなおしてやれるのに…。」そしたらひなたにもあんな表情させない。グッと唇を噛む。
「おいしゃさん?けんちゃんが?」光が目を真ん丸にする。
「おかしいか?」笑われると思い、恥ずかしくなった。
「おかしくないよ。ただ、けんちゃんはいつも『だれかのために』なんだなって。」光が嬉しそうに言う。
「バ、バカ!そんなんじゃねぇよ。ほんとうはひなたに…。」口ごもる。
「ひなねえがどうしたの?」首をかしげる光。
「なっなんでもない!」
会えると楽しくて、会えない日は苦しい…こんな気持ちは初めてだ。