婚約破棄された。まあ復讐して幸せになりますけど?
人生を幸福に導きたい場合、この王国には格好のアイテムがある。
それは……ギザナ石と呼ばれる魔石である。
その魔石は……どのようにしたら、幸福になれるかを教えてくれる。
代償はない。
つまりいいことしかない最強の石だ。
なので、早速婚約破棄されて不幸な私も使ってみたってわけ。
すると……。
ギザナ石が文字を映し出した。
『婚約破棄されてから、制限時間以内に復讐できれば幸せになれます』
え?
どういうこと?
制限時間があるの?
戸惑う私にその通りだと告げるかのように、何とギザナ石が今度は数字を映し出した。
そして数字が減り始める。
……カウントダウンだ。
残り、72:10:38。
つまり……72時間10分38秒。
ほぼ三日。
ギザナ石を信じるなら……この時間内に復讐をすれば、私は幸せになれるみたいだ。
きっと……お金が有り余って、紅茶を飲みながらゆったり過ごす感じかしらね?
といっても、どうやって復讐をすればいいのか全然わからない。
ただ、言えることとしては、私には、復讐心がある。
それは、私が婚約破棄された経緯を話せば、共感してくれるんじゃないかと思う。
私は、スパイスの取引を司る権威ある貴族の次男、レルドと政略結婚することになった。
私は下流の貴族であるけど、それなりに上品に振る舞い、また元々農産物の流通管理をしている家系というのもあって、接点もありかつ、向こうの家族に気に入られたってわけ。
しかし、レルドはダメな男だった。
まず、完全に仕事、社交、日常生活、全て手を抜いている。
どうやら甘やかされて育ったみたいで、なんでもかんでも、人にやらせようとするのだ。
そんな彼は、私に全てを押し付け、自身は優雅にスパイスの瓶を眺めながら、別になんのスパイスも入っていない紅茶、夜には酒を飲んでダラダラしていた。
私がしびれを切らして、レルドに改善を求めると……酒瓶を叩きつけて割って、怒鳴った。
そして……私は、彼がやるべき仕事を押し付けられてやらされていただけなのに、私が彼の仕事上の機密情報を盗もうとしていたということにされた。
流石に懲り懲りね!
と思っていたけれど、私が悪事を働こうとしたことを理由にレルドの方が婚約破棄をし、私は巷で悪事を働いたことになり……
レルドは別の女性を頼り始めた。
知らん。その女性は口が割と上手いレルドに洗脳されてるか、謎に心が広いからのどっちかじゃないかな。
そこはほんとに知らんけど、とにかく私が悪事を働いたことになってるのが納得いかない。
あんな性格の悪い男でも、権威のある家系だからってみんな信じてるのかしら。
などとキレ気味で私は貯金をはたいてギザナ石を買い、制限時間がスタートしたというわけだ。
ふう。
思い出したりしてたら、制限時間がさらに減っている。
残りは……
72:07:52
まあまだ相変わらず三日はある。
三日あるとメンタルが安定するので、あと7分52秒の間に、簡易的に計画を立てようかなと思う。
まず、あいつがダメな男っていうのをちゃんと知らしめないとね。両親と、頼っている女性がカバーしてるから、うまくやれてることになってんだと思う。
私も騙されたわほんと。
でも、復讐……なぜそれの制限時間が設定されてるんだろう……
それがわからなかったけど、ちょっと考えてみたら分かった。
そうだ。ちょうど三日後に終了するイベントがある。
市場に特設の屋台が並び、スパイスに特化した商人たちが店を構える。
今やかなりの高級スパイスもメジャーになっていて、スパイスにお金を使う金持ちも多数。
一方庶民的なスパイスも多くあり、様々な人たちが市場を訪れるという。
で、それが三日後まで開催ってわけ。
これ、絶対制限時間の設定と関係あるよね?
スパイスという共通点だってある。
ということは……市場に行ってみる一択ね!
私は自分の決断に改めて大いに賛成して、早速市場に行ってみることにした。
市場に着くと、たくさんの人が買い物をしていて、特製の屋台がどこにあるのかもすぐに分かった。
匂いで。
いやなんかね、明らかに刺激のある香りが色々混ざってしてくるのよ。
向こうの方から。
「いらっしゃい! 魚はいるかい?」
途中で魚屋のおじさんに声をかけられた。
「いえ大丈夫です。私、向こうに行きますので」
「スパイス目当てか。ここのところ多いな。でもね、スパイスだけ買っても料理はできないんだから、ここで魚買ってった方がいいんじゃない?」
「あ、私スパイス目当てってわけではないんです。スパイスを売ってるところに行きはしますけどね」
「え、どういうことだ……?」
不思議がっている魚屋のおじさんとお別れして、いよいよスパイスが売っているところにやってきた。
もう鼻がいい香りをかぎすぎて、復讐したいという気持ちが和らいでしまう。
でも、私は決めたんだよ。復讐するって。
制限時間も減ってる。
見てみたら、
70:15:08
ああ、意外とどんどん時間がなくなる……。
私はとりあえず、スパイスの屋台を歩きまわってみた。
歩いていても、何も起こらない。
ここからどうやって復讐すればいいの……?
こしょうを振り撒いてくしゃみさせるとか?
いやいやいや、そんな漫画みたいなことしてもねー。
それに、そもそもレルド本人がいない。
よくわからないから、とりあえずぶらぶらしてますかー。
私は意味もなく歩いて、でもお金がないのでスパイスを買えるわけでもなく、不審者になっていた。
ダメだ。このままじゃ何も起こらず三日間経ってしまう。
そう思った私は、スパイスを売っている商人に話しかけることにした。
「すみません」
「おほほ。どうしました? うちのお店ではね、健康にいいスパイスをたくさんそろえているのよ。例えばこのカレーに入れると最高に美味しい唐辛子由来の粉末は……」
色々解説を始めた商人のおばさん。この話が三日間続く可能性がゼロではないしゃべりっぷりだったので、私は告げた。
「すみません。私お金ないんです」
「お金がない!? お金がないのに市場に来たの? どういうこと? もしかして、レルドの手下か何か?」
「レルド!?」
話しかけてみて超正解だったじゃん。
出てきましたよ。おばさんの口から、レルドって名前が。
そして……手下?
言い方的に、レルドにいい感情は持ってないんじゃないかしら?
そんな気がしますけど。
というわけで、レルドに関して深掘りするための一手。
「私はレルドの手下じゃありませんが……。レルド一味はなんか悪い人たちなんですか?」
「そりゃそうよ! 私たちが頑張ってスパイス売ったってね! 手数料とか言ってほとんどのお金をあいつらが持っていくんだから!」
「なるほど……」
レルドは人に仕事を押し付けるような人だった。
そして今、自分たちの取り分を増やすような行為をしている。
つまり……レルドが頼ってる女の入れ知恵じゃないかしら。
「そのレルド本人ではなく、手下の方に会ったことはありますか?」
「ないわよ! でも女性らしくて、そいつも私たちにろくに利益の取り分をよこさずに働かせてる共犯者よ!」
「なるほど……」
「私はスパイスが大好きで売ってるのよ。レルドの両親が仕切っていた頃は、本当に幸せで、利益もみんな納得する取り分だったのに……本当にどうしてこんなことになったのかしら。改善を訴えるにも、本人たちがなかなか現れないのよ! かと言って、私たちが勝手に取り分を変えてお金をくすねたら、私たちが監獄送りになっちゃうからね!」
「大変な状況なんですね……」
「ええ、ほんとにそうなのよ。あなた、もしかしてレルドを懲らしめることができる立場なのかしら?」
「も、もしかしたらできるかもってくらいです……ちょっと頑張って調査してみます」
「救世主だわ! 応援させて! はい、スパイスの小瓶一個差し上げるわ」
「あ、ありがとうございます……!」
その後、おばさんとは別れた。
色々たくさん情報が手に入った。
残り時間は……。
68:25:11
うん。さらにどんどん動いていきますかね。
私が次に向かったのは、港。スパイスが輸入されてくる場所のはずで、それこそレルド本人がいたりしてもおかしくない。
「すみません。スパイスを輸入しているところはどこですか?」
とりあえず話しかける。なぜか正しい方向に進んでいる気がして、不審者っぽいことも平気でできてしまう。ギザナ石の効果だったりするのかな?
「え、スパイス? あっちの倉庫は全部スパイス入ってた気がするけど」
「そうなんですね! ありがとうございます!」
私は早速港のおじさんが教えてくれた方向の倉庫に行ってみた。
確かに、スパイスの匂いするわ。
うん、こっちであってるんだろうな。
でも倉庫に着いても、レルドはいなかった。
しかし……港で作業するには浮いた、派手な格好の女性がいた。
私は直感で分かった。
あの人がレルドが頼ってる女だ……。
でも、私と目が合うと、急いだそぶりで去ってしまった。
追おうにも、元から用意してあった馬車に乗って行ってしまったので追えなかった。
でも、あんな馬車を配備できる人はかなり身分の高い人のはず。
それに、あの馬車。見たことあるわ。確か王国の中心部のお屋敷街の……あっ。大通りの角かなにかによく止まってなかったかしら?
それなら、明日、そこにもう押しかけちゃいましょうか。居場所はわかってるんだから。
残り時間は……。
65:58:34
なんかたっぷりある気がするわね!
だがしかし……。
なんと残り時間が、
17:25:41
この時点で新たな進捗なし。
レルドが頼ってる女の居場所がわかってから丸々二日経ったのに……。
原因は、馬車の場所はわかって、そこには確かに大きなお屋敷があって、この二日の間、多くの時間近くで見張ってはいるんだけど(もうホームレスの気分よ)、あの時の女が現れない。
レルドももちろん現れない。
ということは……私と目が合ったあの時以降、私を警戒しているのかもしれない。
だから現れないんだと思う。
どうすれば……。
私は焦り始めた。もうそろそろ復讐を実行開始しないといけないっていうのに……。
とっさに考えたことが何個かある。
ここは私が見張ってる恐れがあって、それで来ないなら、逆に裏をかいてここにはいない方がいいんじゃないか……?
あと、制限時間がなくなるのと、市場でのスパイスのイベントの終了が一致しているってことは、市場に行けばいいのでは……?
制限時間がなくなるギリギリに、市場に行けば、きっと復讐の絶好の機会が訪れる……。
それがギザナ石のお告げってことなんじゃない……?
そうと予想が立てば……。見張りすぎてて寝不足なので、一旦帰って寝ます。
で、目が覚めたら、なんと、
2:15:38
まずい!
急いで市場に行かないと。
市場まで急いで向かって着いた時の残り時間は、
1:37:53
そして……
「あら、この前のお嬢ちゃん!」
スパイス売りのおばさんに声をかけられた。
「すみません。調査の進捗がないんです」
「あら、そんなこと気にしないで。それより今日が調査のチャンスかもよ! レルド一味が来るかもって噂されているの」
「本当ですか!?」
「ええ。隣国のお偉いさんが来るらしいから、ここを案内するんじゃないかって言われてるわ。いくら現場に顔を見せたくないレルド一味でも、実際にスパイスを売ってるここを案内しないわけにはいかないでしょ」
「なるほど……」
よし、それならレルド一味はここに来ると思って待ち構えていた方がよさそうだ。
そして私はおばさんとおしゃべりを少ししてから、スパイスを売ってるエリア全体を見渡せる、屋台街の横の塔に登って待っていた。
すると……護衛隊に引き連れられた御一行がこちらに。
あれだ……!
目がいい私は気がついた。
レルドもいる……!
そして、レルドが頼ってる女も。どこに隠れてたし!
でも私はついに見つけたんだ。
そして、私は、脳筋なところがある。怒涛の勢いで勝利してみせるから見ときなさい。
私は御一行に向かって走った。
おそらくだけど、レルドの性質上、大事な書類は常に手元に持つ修正がある。人を信用していないからだ。誰かに頼っていたとしても、書類や契約書はすぐ自分が奪い取る。
これは私がレルドに色々やらされていた頃と同じ。
もしこの習性が変わっていないとしたら……レルドが持っているあの大きなカバン!
あのカバンに、何かが入っているはず。
よし、突撃しよう。
「レルド! 久しぶりね」
「お、お前は……」
レルドは驚いていた。
そして、レルドの隣の女は、私を睨んでいた。
さて……どうしようか。
「この方は誰ですか?」
隣国のお偉いさんが、レルドに質問する。
「この国の問題人物です。申し訳ないです。今追い払いますから」
レルドが答える。そんな嘘を通したままにするわけないでしょうが。
「聞いてください。この人たちは、スパイスの取引において、利益の取り分を、自分たちにモラルに反するレベルで多くしているんです」
「は? そんなことしてないぞ。すみません。てきとうな嘘をついてクレームを言って居座る迷惑系活動家なんです。ほんとすみません」
「まあ、どこの国にもそういう人はいますわな」
レルドが護衛隊に命令した。
「こいつを捕らえて遠ざけよ」
ま、まずい!
私、戦闘能力はそんなにないってのに!
私は身体を抑えられ、さらに荷物も引っ張られた。
絶対絶命か……
そう思った時、荷物から何かが飛び出た。
あっ。
入れっぱなしだった、おばさんからもらったスパイスの小瓶……!
その小瓶は、護衛隊の鎧に当たって割れ、中のスパイスは、派手にそこらじゅうに舞った。
「な、なんだこれは! はっくしゅん!」
護衛隊が次々にくしゃみをして苦しみ出す。
そしてその影響は、レルド、レルドの頼る女、隣国のお偉いさんまで……。
ちょっと待って、影響でちゃダメな人がいるじゃん。
「こっちです!」
私は隣国のお偉いさんをスパイスから離した。
そして私もくしゃみを三回くらいした後……。スパイスがもくもくと舞う中、事態が起こっている中心をよく見てみたら……。
あ。レルドのカバンが落ちて、中のものが出ている……!
あらあら。なら拾って差し上げなきゃいけませんね。
そして……。
あら、うっかり。渡す人を間違えてしまいましたわ。
私は隣国のお偉いさんにレルドのカバンに入っていた紙を渡してしまった。
「こ、この書類は……!」
隣国のお偉さんはそれを見つめる。
よし、なんかよくわからないけど、レルドたちの悪事が露わになってる書類なんじゃない……?
隣国のお偉いさんが宣言した。
「今すぐこのスパイスの悪徳商売をしている奴らを捕らえよ。スパイスは輸入物だからこの国の問題だけではない国際裁判にかけるんだ!」
護衛隊がやっとくしゃみから解放されかけていて、同じくくしゃみから解放されかけていたレルドと女を捕らえた。
私はギザナ石の時間を見た。
00:00:01
ちょうど、復讐完了だ。
でも思った。
私は幸せになったかしら?
まあ国や困っている人のためにいいことをすること自体が幸せだものね。
それでよしとしましょう。
私はそそくさと帰ろうとした。
すると……。
「あなたよくやったわね! 素晴らしいわ!」
「スパイス売りのおばさんが褒めてくれた」
「あなたほど勇敢で素敵な女性、初めて見たわ。よかったら息子と結婚してくれないかしら?」
「ありがとうございます。で、でも息子? ど、どんなお方でしょう……」
「うちの息子は国王につかえる騎士団の団長なのよ。割といい子だとは思うんだけど……でもあなたには敵わないかもしれないわ」
「ぜ、ぜひ会わせてください!」
これがギザナ石の言う、幸福、だわ絶対!
私は確信していた。
楽しみね! 素敵な騎士団の団長と結婚するのが……!
☆ ◯ ☆
そして、ギザナ石の導き通り、私は騎士団の団長、ローレイと婚約し、幸せな生活を送っていた。
ローレイは体育会系の人間だったけれど、優しくて心が広く、笑顔は結構イケメンで、朗らかさはきっと母親ゆずりだった。
そんな私とローレイの新婚生活だけど……幸せっていうのは、ゆったりしていないのね!
「ローレイ! ちょっと助けてちょうだい」
「任せてくれ」
ローレイはマッチョなので、赤ちゃん用ベッドをひょいと片手で持ち上げて、もう片方の手で哺乳瓶を持ってきた。
そう、実はもううちには赤ちゃんがいる。私が産んだんだけど。
それで子育てで大忙しよ。
でも。
私が当初想像していたような、お金が有り余って、紅茶を飲みながらゆったり過ごすという幸せより……
こっち幸せの方がずっといい。
お読みいただきありがとうございます。
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