都市伝説好きな女子大生に誘われた夜のドライブ
挿絵の画像を生成する際には「Ainova AI」を使用させて頂きました。
畿内大学文学部文化学科でも美人と評判高い二回生の先輩にドライブに誘われ、喜び勇んで待ち合わせ場所に行った僕は直ちに後悔する事になってしまった。
「お待たせ、福泉君。早かったじゃない。」
颯爽とスポーツカーから降りてきたのは良いけど、問題なのはスポーツカーのデザインなんだよなぁ…
「あの、鳳先輩?この車でドライブするんですか?何なんです、このデザインは…」
「何って、般若心経よ。それとも、真言密教の御経か神道の祝詞の方が良かったかしら?」
般若心経とか真言密教とか、そういう問題じゃない。
白いボディにビッシリと御経が書かれたスポーツカーの姿は、まるで耳無し芳一だ。
「フィルムを使ったカーラッピングだから、用が済んだら剥がせばよいのよ。ほら、些細な事は気にせず乗りなさい。レディに恥をかかせるんじゃないの!」
「いや、恥ずかしさなら御経ビッシリな車に乗る方が余っ程…うわあっ!」
こんな変な車に乗るなんて、正直気が重かった。
だけど先輩の強引さと異常な目の光に押し切られ、僕は助手席に押し込められてしまった。
そうして恐怖のドライブが始まってしまったんだ…
外見に違わず、鳳飛鳥先輩がハンドルを握るスポーツカーは何から何までおかしかった。
仏教だの神道だの道教だのの御守りや御札はアチコチに飾ってあるし、芳香剤の代わりにお線香の匂いが充満しているし。
「知ってる、福泉君?この高速道路で語り継がれる怪談都市伝説の事を。大昔に事故を起こした大型トラックの幽霊が、時々現れるんだって。」
「な…何なんですか、その話…」
そう言えば鳳飛鳥先輩は、怪談や都市伝説が大好きなオカルトマニアとしても学部内で有名だったっけ。
夜の高速道路で怪談話を語られるのも勘弁願いたいのに、オマケに御経がビッシリの耳無し芳一カーだもんなぁ。
むしろこのスポーツカーの方が、何かの都市伝説の題材になりそうだけど。
「深夜の高速道路で、前方を走るトラックのテールランプを追いかけていたら、いつの間にか目の前から消えていた。またある時は、前方に急に現れた大型トラックの車体が透けて見えていた…こんな話、聞いた事がない?それで驚いて事故った人も結構いるんだとか。」
僕としては、この御経で埋め尽くされたスポーツカーの方が恐ろしかったよ。
事故か霊障かは分からないけど、何らかのトラブルを起こしそうで。
だけど本当の恐怖は、すぐそこまで迫っていたんだ。
「おっ、噂をすれば影!あれが私の言っていた幽霊トラックよ!」
「ヒイイッ!トラックが透けてる!?」
嬉々とした先輩が指差す先には、半ば透き通って向こうの景色がうっすらと見える怪しい大型トラックが現れていたんだ。
恐ろしい程に古びた大型トラックの車体はボロボロで、アチコチが無残にも欠損していた。
大事故を起こした車両の幽霊だというのは、一目瞭然だったよ。
「よし、ミュージックスタート!楽しいドライブは盛り上がらなくちゃ!」
「えっ、先輩!これって御経じゃないですか?!」
ボディの一面に書かれていたのと同じ般若心経が、カーステレオから爆音で聞こえてくる。
正直言って、異常極まりない状況だった。
だけど一番異常なのは、ドライバーである鳳飛鳥先輩なんだよなぁ。
「やっと会えたわね、幽霊トラック…この日をどれだけ待ち望んだか!」
狂気に満ちた笑顔を浮かべながらハンドルを握る姿は、正しく鬼気迫る有り様だったよ。
「追い越し車線に入るわよ!準備は良いわね、福泉君?」
「は…はい!分かりました!」
鳳先輩がスポーツカーを幽霊トラックにピッタリ並走させると同時に、数珠を構えた僕は助手席のパワーウィンドウを全開にしたんだ。
カーステレオから爆音で流れる般若心経が夜の高速道路に響き渡る中、僕はそっと顔を上げた。
半ば透き通った大型トラックの運転席に座った骸骨の空っぽの眼窩と目があってしまったけど、もう後には引けなかったよ。
「仏説摩訶、般若波羅蜜多心経…」
数珠を構えて合掌し、カーステレオに合わせて般若心経を一心不乱に唱える。
それしか出来なかったよ。
すると半透明の幽霊トラックがキラキラとした光に包まれ、そのまま消えてしまったんだ。
完全に消滅する直前に運転席の骸骨が小さく頷いた気がしたんだけど、あれはもしかしたら感謝のつもりだったんだろうか。
「ふ、ふう…」
「お見事!よくやったわね、福泉君。自分では気づいてなかったと思うけど、貴方には霊感の素質があるのよ。鍛えたら私みたいに色々楽しくやれるかもね。」
運転席の先輩は楽しそうに笑っていたけど、精根尽き果てた僕にはそれどころじゃなかった。
お陰で帰りの車中では、助手席のシートに背を預けてグッタリする事しか出来なかったよ。
そんな僕が、まさか後に鳳飛鳥先輩の率いる都市伝説研究会に入部する羽目になるだなんて。
この時には予想さえ出来なかったなぁ…