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習作  作者: 深草みどり
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不思議の潜水艦

 潜水艦が現れた。

 海沿いの小さな漁村の沖にである。

 私は少しでも近くで見ようと港に行くと防波堤に二十人ばかりの村人が集まっていた。

「あれは何だ? ちょんまげ付きの鯨じゃないよな?」

「潜水艦みたいだな。でも自衛隊が事故にあったのか?」

「おい、ちょっと様子を見に行こうぜ」

 村の力自慢の男が数人、漁船で潜水艦に向かおうとした時、潜水艦の上で蓋のような物が開き中から兵隊が頭を出した。兵隊は一人ではなく、五,六人はいた。ボートを広げ、オールで漕ぎながら海辺に向かってくる。力自慢の男達は漁船から下り、シャツの袖を巻くって鍛え上げた筋肉をだし、銛や網を手にした。誰かが呼んだ村の駐在がパトカーでやって来て、村長も軽トラックで駆けつけた。

 兵隊達は港の近くまで来ると防波堤の階段部分にボートを着けた。下りてきたのは将校らしい男だった。力自慢の男達と駐在を引き連れた村長が前に出ると、将校らしい男は村人が知らない言葉で話しかけた。村長に話が通じないとわかると身振り手振りで要求を始めた。だが村長は突然現れた正体不明の外国人への警戒か、あるいは緊張からかその意図を読み取ることができなかった。

「水が欲しいんじゃないか」

私は思わず助け船を出した。

 村長が将校に向かって「水? ウォーター?」と言いながら何かを飲む動作をすると、彼は大きく頷いた。

「雑貨屋から水のペットボトルを箱で持ってきてくれないか。代金は私が出す」

村長の指示を受けた雑貨屋の娘が駆け足で自転車に乗った。村長の後ろでは警官と力自慢の男達が将校や兵隊を警戒していた。私が見たところ、突然現れた彼らは丸腰だ。鉄砲を持っているようには見えない。

しばらくして雑貨屋の主が軽トラックの荷台にペットボトルや炭酸ジュースのケースを載せてやってきた。力自慢の男達が荷下ろしをし、それをボートに乗っていた兵隊が受け取る。全てを受け渡し終えると将校らしい男が財布のようなものを出し中から紙幣を取り出した。十枚ばかりのそれを村長に強引に渡すと、将校は兵隊と水と共にボードで潜水艦に戻っていった。兵隊達は潜水艦によじ登り、蓋のような部分が閉じる。しばらくして潜水艦は水の中に沈みはじめ、すぐに見えなくなった。

村人達が解散しはじめた時、空から甲高い音が聞こえた。翼に赤い丸があるので自衛隊の飛行機らしい。飛行機は村の上を二、三回旋回した後、沖合に向かって飛んで行った。

さらに自衛隊の車が来て、大勢の警官もやってきた。海には海上保安庁の白い船も見えた。だが結局、だれもあの潜水艦の行方を知ることはできなかった。村人は誰も潜水艦の写真を撮っていなかったが、港に設置されていた防犯カメラにわずかに艦影が残っていた。

ところが、その形に一致する潜水艦は世界中のどこにもなかった。将校らしい男から受け取った紙幣もどの国のものでもなく偽札と判断された。だが紙幣としての品質は十分で、偽造防止の技術まで使われていたそうで、妙に凝っているので調べて警官は首をかしげていたという。

 結局、あの潜水艦と兵隊達の正体は誰にもわからなかった。

 ごく希に、海はこういうことをする。私もそうだった。ただ、私はこの土地に根付き、彼らは故郷を目指した。

 私は彼らが無事に帰れたことを願うだけだった。

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