これはトレーニングではない
「行くぞ!」
「了解です! 隊長!」
任務のため、本拠地を発った部隊を見送る。隊長と隊員一名だけの、ごく小さな部隊だ。教育の時間も圧倒的に不足していた。
しかし、近い内に隊員を追加する予定があり、現在の能力を測るために初の実戦に出てもらうこととなった。そのため、私も彼らに気付かれないよう同行する。
任務の内容は、遠く離れた拠点にいる、ある人物への物資輸送であるが、彼らには荷が重かっただろうか。
私は、未熟な彼らの背中を不安を抱きつつ見守る。
出発して間もなく、彼らはネコ科の猛獣に遭遇した。猛獣は彼らを警戒するような姿勢をとり、彼らも緊張した様子で身動きも取れずにいる。
睨み合いは続いたが、猛獣は二人を相手にするのは分が悪いと判断したのか、どこかに去っていった。
緊張から解き放たれた彼らは安堵の溜息を吐いた。
隊長は隊員を励ますように肩を叩くと、彼らは再び歩き出した。
しばらく進むと、彼らの前方から友軍の女性が現れた。もちろん私は彼女を知っているし、彼らとも僅かながら面識はあったはずだ。
だが、彼らはその動きを止めてしまった。無理もない。彼女は一頭の犬を連れていた。その体格は、先ほどの猛獣に勝るとも劣らぬ立派なものだ。
人類の不断の努力により改良された、強靭にして従順な犬だが、そのような情報を持たない彼らにとっては恐怖でしかないのだろう。
友軍の女性は、彼らに何か声をかけるとすれ違った。犬は彼らのにおいを確かめるような動きを見せたが、すぐに彼女に従って歩き出した。
こちらに向かってきた彼女は私の存在に気付いたようだが、私が、黙っているように、と合図をすると、その意を汲んでくれたのか、一つ頷くとそのまま歩き去った。
彼らに視線を戻すと、隊員は恐怖のためか未だ動かないままだが、隊長が声を上げ、肩を叩いて、彼を鼓舞している。
隊長の励ましが奏功したのか、隊員も顔を上げた。彼らはお互いの顔を見て大きく頷くと、前進を再開した。
とうとう目的地である拠点が見え、彼らは走り出した。
想定よりはやや遅れていたが、初の実戦であり、予想外の事態が連続したことを考えれば、充分だろう。彼らの部隊であれば、新規の隊員も安心して過ごせることと思う。
拠点の入口では、目的の人物が彼らを待っていた。
彼らがその人物の腕の中に飛び込むのを見て、私も彼らのもとに走り寄った。
私の愛しい小さな二人は、私に気付くと満面の笑みを浮かべた。
「お母さん!」