第六話 星海絢夜と投票結果
1,2,3,...よし。集計が終わった。いよいよ結果の発表だ。朝日奈の顔が青白くなってる気がする。藤川の様子はいつもと変わらない。
「集計が終了しました。皆さん顔を上げてください。今年度の学園祭実行委員長になったのは...」
「朝日奈未織です!」
あからさまに朝日奈は嬉しそうにしていた。飛び跳ねんばかりの勢いで、彼女の長い髪が揺れている。大きな拍手に包まれながら彼女は嬉しそうにペコリとお辞儀をした。藤川は微笑みながら拍手をしている。悔しくないだろうな。後で話しておこう。
「決まったの?」
先生が確認に来た。一年生の副委員長も決定したのだろう。最近掛け始めた眼鏡の位置を直しながら僕は答える。
「はい。委員長が朝日奈さんで、副委員長が僕です」
「では、前でみんなに向けて挨拶お願いします」
あーそりゃそうか。こういうのは苦手なんだけどな。朝日奈といっしょに教室の前の方に進んでいく。もう一人の副委員長は...あの子かな。話したことはなさそうだ。名前も知らないし。
朝日奈委員長が話し始める。
「こんにちは。私は2-αの朝日奈未織といいます。今回の文化祭をみんなといっしょに素晴らしいものにしていきたいと思っています。よろしくお願いします。」
次は僕達副委員長の番だ。
「2-βの星海絢夜です。皆さんといっしょに文化祭を盛り上げていけるように、精一杯がんばりますので、どうぞよろしくお願いします。」
「1-αの光藤永遠です。初めての実行委員で緊張していますが、委員長をしっかり支えていけるように頑張ります。よろしくお願いします!」
もう一人の副委員長は光藤さんと言うらしい。なかなか珍しい名前をしている気がする。星海が言えることではないかもしれないけど。髪型はショートカットで、背がなかなか高い。明るそうな子だ。仲良くしていけると良いのだが...
「では、朝日奈さん、星海くん、光藤さん、これからよろしくお願いします。今日はこれで終わるので次の集会のときにまた会いましょう。」
先生の話も終わったので、これで解散となる。これからは副委員長として頑張ろうかな。ぱっと朝日奈の方に目をやるとすごく驚いている。
「どうした?委員長さん」
「あー、絢夜。実はねこの風景...」
おもむろに朝日奈が口をぱくぱくし始めた。すぐに本人も気づいたようで、言い直そうとしていたがまたぱくぱくしてる。
「どした?ぱくぱくしてるけど」
「私にも...いや、なんでもない。これから頑張ろうね副委員長さん...」
よくわからないが本人もこう言ってるし大丈夫だろう。それより藤川に一言言っておかないと。
「藤川!」
一足早く廊下に出ていた藤川に駆け寄る。
「どうしたよ星海?」
「どうしたじゃないだろ。ズルしようとしただろう?」
「なんのことだい?」
「副委員長の立候補を待つ時、藤川は完全に主導権を握ろうとしていただろう」
まじで舛田さんが動いてくれなかったらまずかった。彼はあのタイミングで場の主導権を完全に握って、
委員長になろうとしていたのだろう。藤川が場を仕切っていたら、みんなは彼がリーダーシップに溢れた人だと考えて投票していただろう。スピーチはどちらも良かったのだし。
僕は副委員長として立候補する事もあって舛田さんみたいに止めることはできなかったし。
「やっぱり星海には見抜かれたか〜。舛田さんにもバレてたけど。」
にやにやと笑いながら藤川は言った。少し長めの彼の茶髪が窓から入ってきた光を反射している。
「流石にあのやり方は良くないだろう」
藤川は少しも申し訳無さそうにしていない。
「いやー委員長になりたくってね〜」
「どうしてだ?」
彼にはそこまでする理由がないように思えた。そもそもあまりこういう活動に参加するようなやつじゃないし。
「今回は朧も星海も...もしかしたら二年生全員が文化祭を本気でやろうとしているんだよ。それなのに俺が参加しないのもなんか嫌でね。朝日奈さんには申し訳ないことをしたと思ってるよ。多少は。」
彼の言葉に反して、全く反省していないようにも見える。彼は時々こういうところがある。この前の体育祭でも生徒会長の相川と色々しようとしていた。ヤバそうなやつは僕が止めといたけど。
それでもいくつか僕が事前に気付けなくて止めれなかったやつもある。借り物競争で"好きな人"とか入れ
やがって。そのせいでうちのクラス負けたんだからな。
「まぁいいさ。結局勝ったのは朝日奈だし。」
「彼女になにか思い入れでもあるのかい?」
藤川が不思議そうに尋ねてきた。
「彼女みたいに頑張ってる人のほうが応援したいだろう」
これは本音だ。彼女はいろいろとがんばりやさんなのだ。傍から見てると応援したくなる。
「あはは!星海がそこまで言うとは...委員長になれなかったら実行委員に参加しない予定だったんだけど...参加しようかな。平社員として。」
そうしてもらわないと困る。委員長でなくても色々働かせるつもりだし。
それから数日がたった。今日が二回目の実行委員の集会で、副委員長としての初仕事だ。隣の朝日奈も張り切っている。光藤さんとは一対一では話していないがこちらから話すのもなんかな...
「では、後は委員長さんたちにお任せします。」
そう言って先生は教室を出ていった。
さっきまで三人で話し合った結果、基本的に会話をするのが朝日奈、内容をまとめる書紀をするのが僕、そしてホワイトボードに書いて会議を円滑に回すのが光藤さん、ということになった。
「こんにちは。朝日奈です。今日は実行委員の大体の仕事内容や、これからどういうスケジュールで何を決めていくか、とかを話していこうと思います。」
実行委員の子たちを見ると、この前より少し減ったような気がする。組織を作るとどうしても一定数は働かなくなるのは世の常だ。とはいえ思ったよりみんなやる気に満ち溢れてそうだ。
「えーっと。実行委員の主な仕事は2つあります。一つは実行委員企画。これは毎年実行委員が実施する企画で、去年はバルーンアートの配布をしました。あれはめっちゃ外部の子どもたちに人気だったんですよ〜」
彼女の目が少し恍惚としたようになる。彼女は小さい子どもが好きなのだ。よく幼児が戯れている動画をおすすめしてくる。将来変なことをしないといいのだが。
「...そんな感じの企画を考えます。これはみんなのうち半分ぐらいに担当してもらうつもりです。もう一つは、装飾です。装飾は主に、学園内のいろいろなところの装飾をします。例えば、ステージとか、食堂とか。こっちは残りの半分くらいの人たちに担当してもらおうかな。なにか質問ある人?」
「はい」
一年生らしき眼鏡をかけた男子が手をあげた。
「どっちの仕事のほうが大変とかはあるのですか?」
「う〜ん。どっちも忙しいけど...装飾の人たちは前日がひたすらに忙しいかな。企画の人たちはずっと忙しい。ごめんね。これくらいしか言えなくて。」
「ありがとうございます」
そう言って男子の質問は終わった。
今の質問の内容をパソコンに打ち込みながら生徒を見る。もう質問がある生徒はいなさそうだ。
「じゃあどうしようかな。今日はまだ決めれるようなことはほぼないかな。次回までにいま言った装飾と企画のどっちを担当したいのか、決めといてほしいかな。あと、校外でも話せるように実行委員のトークグループ作っといたから、入れる人は入っといてほしい。基本的にここで集会の日時を連絡します。」
基本的に校外でも話すタイミングがないときつい。そもそも授業の関係で集まれるのが一日に10分ほどしか取れないのだ。
「そういうわけで今日はここまでです。ありがとうございました!」
藤川や舛田さんを含めてみんな立ち上がって教室に戻っていく。とりあえず最初の仕事はこれで終わりかな。
「えーっと。星海先輩?」
「どうしたの?光藤さん?」
いきなり光藤さんが話しかけてきた。
「あの、これからよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね」
僕はあまり後輩と関わることがないのでどういう対応をしたらいいかわからない。僕は基本的に初見の人には敬語を使うのだが、後輩に使うのもいかがなものか。とりあえずタメ口で話すことにしよう。
「先輩はどうして副委員長になったのですか?」
「やっぱり最後の文化祭は頑張りたくってね」
そんなことを話しながら教室を後にする。もうすぐ掃除の時間なので掃除場所に向かうとしよう。
学園祭まで後24日。早くないか?