第五話 朝日奈未織と実行委員
「いよいよ今日だよ。絢夜!」
珍しく同じ電車に居た絢夜に声をかける。普段彼は一本遅い電車で来るのだ。
「あーそうだね。朝日奈は委員長志望だっけ?」
「もちろん!やるからには委員長しないとね」
「なら僕は副委員長をしようかな。委員長は柄じゃないし。ああ、あと...何を言うかは考えといたほうがいいぞ」
「どういうこと?」
「昼になったらわかるさ」
今日は相榻高校学園祭実行委員の志望者で集まりがある。実行委員は高校生しか入ることができないので私は二回目だ。去年も絢夜は参加していた。今日で委員長、副委員長が決定する。絢夜は何を伝えようとしていたのだろうか?
四限目が終わるまでの時間はいつもより長かった気がした。昼休憩の途中から集まりがある。なんだか少し緊張してきた。教室で親友の舛田音羽ちゃんと一緒にご飯を食べる。音羽ちゃんとは小学校の時から同じ塾で仲良くしている。小柄な体型に少しウェーブしてる髪がとても似合っていて可愛らしい。
「いや〜緊張してきちゃった。」
「大丈夫でしょ。未織なら心配ないって。私も立候補はしないけどちゃんと見に行くし。」
「やった〜!一緒に頑張ろ!」
そう口にした瞬間、視界がぐわんと変わった。気づくと私は三十人ぐらいの人を後ろから見ていた。ここは...予備室だ。再テストとかで時々寄るところだ。三十人くらいをよく見ると、全員うちの学生だ。よく見ると音羽ちゃんなどの見知った顔もいる。彼らが見ているのは前にいる人...ってあれ私?
私によく似た人と絢夜と私が知らない女子が一人前に立っていた。どういうことだ。すぐに前に走って絢夜に声をかけようとした。
「未織?どうかしたの?」
「へっ?」
気づくと眼の前は音羽だけになっていた、というかここ教室だ。
「なんかぼーっとしてたけど大丈夫?」
「なんか変な夢見てた気がする...」
「っていうかもうすぐ行かないとやばいでしょ!ほら、急いで!」
さっきのあの映像は何だったのだろうか?そんなことを考えながら私は実行委員の集会が行われる予備室へと向かった。
「なんとか間に合ったね...」
部屋に入るとすでに三十人近くが座っていた。絢夜は後ろのあたりに座っていたので、その近くに座った。
「どうした?なんかギリギリだったね」
「ちょっとボーっとしちゃってて...」
「これから立候補するんだろ。シャキッとしときなよ。」
絢夜にもすこし注意されながら私は席につく。そのとおりだ。今は変な夢のことを考えている場合じゃない。まだ先生は来ていないようだ。
「そろってますか?」
ガラガラと扉を開けながら実行委員担当の小林先生が入ってきた。彼女は眼鏡を掛けていて、たしか英語の先生だったきがする。授業受けたことないけど。
「知ってるとは思いますが、ここは実行委員に興味がある人が集まるところです。ここに来たからと言って、絶対に実行委員にならないといけないわけではありません。」
先生が生徒たちを見ながら声をかけた。私はもうやる気しかないけど、こういうのは面倒だと思う人も居るのだろうな、とは思う。
「じゃあまずは実行委員長と副委員長を決めたいと思います。まず、委員長は二年生から一人。副委員長は二年生から一人、一年生から一人の二人です。」
いよいよ来た。委員長になれるように頑張ろう!
「とりあえず立候補を募って投票とかでいいかな...じゃあ一年生はこっち、二年生はこっちに移動してから話し合って!」
席を移動しながら心を落ち着ける。さあ、何人立候補するかわかんないけどかかってこい!
「じゃあ委員長やりたい人は手をあげて!」
先生が声を掛けると、私を含めて二人の手があがった。2-βの藤川くんがもう一人の立候補者だ。
「どうやって決めようか?」
先生が腕を組んで考え始めたところで、藤川くんが声を上げた。
「ここはやっぱり投票でしょ!俺らがスピーチするんで他の人達に投票してもらって決めましょう!」
いいねそれ。というような声が周りから聞こえてきた。
「わかりました。ではだれからスピーチしますか?」
「じゃあ言い出しっぺの俺から...」
一番手が取られてしまった。できるなら最初に行きたかったのだが。彼のスピーチが始まる。
「こんにちは。ご存じの方はご存知でしょうが俺は2-βの藤川楓といいます。今回立候補したのは、高校二年生にとって最後の文化祭ということで、精一杯頑張ろうと思ったからです。ぜひ投票お願いします!」
きれいなお辞儀と大きな拍手で彼、藤川楓のスピーチが終わった。いよいよ次は私の出番だ。
「えっと...こんにちは。私は2-αの朝日奈未織といいます。今回私が委員長に立候補した理由は主に二つあります...」
二番目で良かったかもしれない。彼以上のスピーチをすればいいだけなのだから。わかって入るが緊張してしまう。
「一つ目は、さっき藤川くんも言っていたのですが、高校二年生にとって最後の文化祭ということで全力で文化祭に関わりたいと思ったからです。私は去年も学園祭実行委員に参加して先輩たちの活躍と、終わった時の楽しそうな表情を今でも覚えています...」
そうだ。私は去年から実行委員長を目指していたのだ。負けるわけにはいかない。私自身の手で未来を織りなしていかないと!
「二つ目は、学校の中の人たちだけでなく、外部の方々にも楽しんでもらえるような文化祭を作りたいと思ったからです。私が初めてこの学校の文化祭に参加したのは小学生の頃でした。そこで体験した楽しさを、もっと多くの人たちに味わってほしいと思っています。」
私が初めてここの文化祭を見た時、高校生や中学生の先輩たちはとても生き生きとしていた。
「これが私の委員長になりたい理由です。どうか投票よろしくお願いします!」
さっきと同じように大きな拍手が起こった。
出し切った、そう思った。今の私の思いをぶつけられたと思う。これでだめなら...なんて考えるのは私らしくないか!きっとみんなが投票してくれる。そう信じていよう。
「それじゃあ投票しようか」
「先生!先にこっちの投票してくれませんか?」
「それはそうだね。二年生は先に副委員長のスピーチしといてね。」
そう言って先生は一年生の方に向かっていった。
「じゃあ、俺が司会しようか?」
藤川くんが控えめに宣誓した。
「ちょっと待って。あなたはまだ委員長になったわけじゃないんだから。ここは私が司会をします。」
そう言ったのは音羽ちゃんだった。どうしたのだろう?いつもはちょっとシャイでこんなことをするような人じゃないのに。藤川くんの前に立つと身長差があらわになる。彼は背が高いな。
「それはそうだね。じゃあ後はお願い。」
藤川くんも大人しく引き下がったようだ。なぜだろうか。絢夜が彼を少し非難するような目で見ている。
「では、副委員長をやりたい人!」
「はい」
手をあげたのは絢夜だけだった。ということは...
「じゃあ星海くんで決定でいいかな?まあでも一応自己紹介をお願いします。」
やや渋々といった感じで絢夜が立ち上がった。
「こんにちは。2-βの星海と申します。僕も朝日奈さんと同じで去年も実行委員として活動して、先輩たちの活躍を見てきました。今回は僕が皆さんを引っ張っていけるように精一杯頑張ります。よろしくお願いします。」
大きな拍手とともに学園祭実行委員副委員長、星海絢夜がここに誕生した。
「というわけで一年生の方もまだ時間かかりそうだし、これからは僕が委員長の投票を仕切ろうと思います。」
横の方に目をやると、一年生のほうの投票が行われていた。候補者は三人もいたようだった。一年生の副委員長はもうすぐ決まりそうだった。
「皆さんは伏せてください。これから投票を開始します。委員長にふさわしいと思う方に挙手をお願いします。委員長候補の方々はあっち向いといてください。」
緊張でうまく回れ右もできない。二人のうちの一人なのだ。藤川くんと同じように後ろを向く。絢夜が伏せているみんなに投票を取る。
「藤川楓が実行委員長にふさわしいと思う人は挙手をお願いします。」
いまあがっている手の数を数えているのだろう。時間が長い気がする。人気なのだろうか?
「続いて、朝日奈未織が実行委員長にふさわしいと思う人は挙手してください。」
いよいよ私の番だ。怖い。その時横の方でも、一年生たちが副委員長を決めようと投票を行っていた。私達の方もいよいよ決まるのだと思うと緊張してしまう。
「集計が終了しました。皆さん顔を上げてください。今年度の学園祭実行委員長になったのは...」