第四話 空見茜音と生徒会
私の名前は空見茜音だ。相榻高校1-γクラスで、生徒会副会長でもある。
今日で長かった中間試験は終了した。今回も悪くない出来だったと思う。
「ねぇ、茜音ちゃん。今からみんなとカラオケ行くんだけど来る?」
「行かない」
そう言って私は足早に教室から出ていった。少し傷ついたような表情の子は櫻井という。中学校から4年ほど一緒にいるが、まだ私の人嫌いを直そうとしているようだ。いい加減諦めればいいのに。
私は人と関わるのが嫌いだ。特に一緒になにかしないといけないときは、周りの奴らにどうしても苛ついてしまう。
どうしてこんな風になってしまったのだろう?そう考えると真っ先に浮かんだのは両親の顔だった。幼稚園生のときから塾に入れられて小学校受験、中学校受験と良い学校に行くことを望まれた。この学校に来たのも良さげな大学への推薦を得るためらしい。そのせいで中学三年生のときには行きたくもない海外留学に行かされた。あれはなかなかにきつかった。
推薦を得るためか生徒会にも入るように言われた。断ることもできなかったので今は生徒会の副会長を務めている。大抵は図書室にこもって仕事を片付けている。めったに生徒会室には行かない。
とはいえ、今日はいかないわけには行かない。学園祭で生徒会が何をするかを決める会議があるからだ。
「失礼します」
「いらっしゃ〜い」
生徒会室の扉を開けると長髪で背の高い男子生徒が、一人で資料を読んでいた。生徒会長の相川瑞希だ。
私は彼が嫌いだ。
彼は先輩後輩関係なく多くの知り合いがいる。生徒会選挙のときには学校公式SNSの作成ととあることを公約にしてた。そのとあることとは...
「やっと始められるな...相榻高校ファッションショーが!」
そうファッションショーだ。選挙のときは普通にみんな大声で笑っていた。こんなことを本気でやろうとするような人は会長以外にはいないだろう。
「まず次の全校集会で参加者を募る。そしてその後、先生にステージの使用時間を相談しよう。」
しかも地味に有能なのでたちが悪い。
「はいはい。そもそも参加者は何人ぐらい来る予定なのですか?」
「とりあえず俺だけだ。ほかは立候補を募る。」
誰も来ないと思う。絶対に恥ずかしいと思うだろうし。彼も高校二年生で最後の学園祭だ。失敗してほしくないだろうに。
「とりあえず全校集会で使うプレゼン資料を作ってくれないか?茜音くん」
「わかりました。」
学園祭か...別段楽しみでもないな。
中間試験の返却が終わって三日後の一時間目に全校集会が行われた。この高校では未だにコロナウイルスの影響がどうのこうのでオンライン開催となっている。各クラスの担任の先生がパソコンでオンライン会議に参加し、それを生徒がプロジェクターを通して見るのだ。
私としてはこっちのほうが楽だ。
「今から始めるぞ」
「画面共有しました」
一応私と会長が放送室に居るが私は話さない。基本的に表に出たくないのだ。
「みなさん。おはようございます。生徒会長の相川瑞希です。本日は〜」
いつものような軽快な口調で集会が始まる。先生たちからは良いようには思われていないようだが、彼はあまり気にしていている様子もない。
「続いて、皆さんお待ちかね。学園祭で生徒会が開催するファッションショーについてお話します!」
今頃教室では笑い声が上がっていることだろう。
「ファッションショーについて話す前に初めて学園祭に参加する方もたくさんいることですし、この学校の学園祭のことを詳しく紹介しようと思います」
この話ももう四回目になる。今までの会長たちも同じことを言っていた。会長の話を聞き流しながら過去の記憶を呼び起こす。
・学園祭は一日目は学内の人のみで、二日目は校外からの来場者も参加してくる
・相榻中学高等学校では中学生はクラス展示、高校生は食版を行う
・生徒会、学園祭実行委員もそれぞれ企画を実施する
そういえば今年は今までと違ったこともあるのだ。
・高校一年生は出来合いのもの、二年生は調理したものを販売する
・ただし調理は一工程のみ
この一工程のみという制限は今まで生徒会と先生たちしか知らなかった。この話を始めて先生に伝えられた時、確実に反対の声が出てくると思っていた。実際ブーイングが起こっているかはこの部屋からはわからない。
仕方ないところもあると思うのだ。なぜなら今この学校には、上級生がどのように調理をしていたのかを知る生徒が一人も居ないのである。コロナウイルスで今までは一年生も二年生も出来合いのものを販売していたので、調理をしていた世代を知る生徒は皆卒業してしまった。
今回調理をできるようにしたのも、先生方がかなり頑張った結果だと思う。とはいえ一工程というのはかなり厳しいとは思っている。まぁそのあたりは私には関係ない。これは高校二年生のみの話だから。
「という感じとなっております。さて、そろそろファッションショーのお話をしようと思います。とりあえずファッションショーへの参加者を募ろうと思います。公序良俗さえ守っていただければ問題ありません。自身の趣味や、考えを表現しましょう!」
これで全校集会においての生徒会の出番は終了となる。
教室に戻ると櫻井が話しかけてきた。
「茜音ちゃんはファッションショー出るの?」
「出るわけじゃないじゃん。あんなのに。」
なんて言うことを聞くのだろうか?あんなものに出るやつはそう居ないだろう。
「出ないんだ...意外に興味ありそうだったのに」
「あるわけないでしょ」
そう言いながら私は彼女の後ろの席につく。二時間目以降はいつもと同じような授業が行われる。次は古典だ。またいつもと同じような苦痛の日々が続いていく。これも大学に入るまでの辛抱だ。大学に入れば家を出れて、自由になれる。まだ見ぬ自由な未来を目指して私は今日も耐え忍ぶ。
学園祭まであと一ヶ月ほどだ