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第十九話 星海絢夜と恐ろしき校舎

 文化祭の前日準備が終わろうとしている。すっかり日が暮れた学校の中で感慨深く思った。時期も時期なので18時前だが空はすっかり暗くなっている。ここは僕を含めて三人しか残っていない予備室だ。

 僕以外のメンバーは委員長の朝日奈と、実行委員ではないが何故かいるアオイだ。アオイはダンス部の部長で明日のダンス発表に備えて、さっきまで最後の練習をしていたようだ。そのせいか、先ほど休ませてほしいと言ってやってきた。

 死んだように眠っているが大丈夫だろうか?夜眠れないのも困るだろうし、後で起こしておこう。


「ポスターのデジタル版できたよ。絢夜」

「こっちももうすぐマニュアルが完成しそうだ。」

 わざわざ僕達がこんな時間に残っているのには理由がある。というか理由がなかったらわざわざ残ってはいない。朝日奈は実行委員の持ち場に貼るポスターを作っている。僕はグッズ販売、抽選会において、実行委員たちはどう動けばよいのか?をマニュアルにまとめている。

 もっと早く始めておけばよかったのだが、さっきまでクラスの仕事をしたり、実行委員の持ち場に机を運んだりしていたのでそんな暇はなかった。

「それじゃあ印刷してくるね。」

「いってらっしゃーい」

 朝日奈はこの学校にある生徒用の印刷機へ向かった。ちなみに僕は使ったことはない。


「絢夜...」

「あれ?印刷もう終わったの?」

 少しして朝日奈が思ったよりもだいぶん早く帰ってきた。理由を尋ねてみると、

「暗かった...」

「え?」

「もう電気が切られてた!怖かったから走って戻ってきたの...」

 よく見ると息が切れているようだ。それもそうだ。そもそも今は殆どの生徒は帰っている時間で、この部屋と職員室とか意外の場所の電気は切られているだろう。


「それは怖かっただろうね...もう大丈夫だよ朝日奈さん」

 いつ目を覚ましたのか、アオイが朝日奈の頭をぽんぽんと撫でて慰めている。たしかに夜の学校ほど恐ろしいものはないだろう。

「大丈夫だったか?朝日奈」

「うん。もう大丈夫」

 アオイのおかげか、もう大丈夫なようだ。

「うっ...」

「どしたの?ヨルくん」

「大丈夫?絢夜」

「ちょっと頭が痛かっただけだよ。気にしないで」


「こっちも終わったよ」

 僕が作っていたマニュアルも完成した。一応朝日奈にチェックしてもらう。朝日奈は真剣な表情で僕のマニュアルを読んでいる。

「良いんじゃないかな。これも印刷しようか...」

 どこか顔を青くしながら朝日奈は言った。

「流石に無理しないでよ...。僕が行ってくるから」

 これ以上朝日奈に無理させるわけにはいかないので、僕が印刷しに行こう。


「おーい。そろそろ時間だぞ!」

「「うわっ!びっくりした」」

 予備室の扉がガラッと開かれて声をかけられたので思わず驚いてしまった。声をかけてきたのは少しばつが悪そうにしている岩見先生だった。

「わ、悪かったな...いきなり声をかけてしまって」

「い、いえいえ全然大丈夫ですよ。」

 一番驚いていたアオイが言った。ところで要件は何だろうか?と思って先生に尋ねた。

「もう帰る時間だと伝えようと思ってな...生徒はもう帰る時間になった。もう帰りなさい」

「「「はーい」」」


「それじゃあ私達三人で印刷しに行こうよ!」

 先生に言われて予備室を出た僕達は、一緒に暗くなっている校舎内を歩いている。せっかくなのでアオイの提案に乗ることにしよう。

「こっちだよ」

 さっきも印刷しに向かっていた朝日奈が僕達を案内する。彼女も一人じゃないからか、そこまで怖がってはないようだ。

「それにしても暗い学校ほど怖いものはないよね〜」

「アオイは怖いもの好きだっただろう?」

「わかってないな〜。あれは怖いから面白いんだよ。」

 僕は幽霊の類は好奇心が勝ってしまうので怖くはないのだが、不審者とか野生動物とかが出てきそうで怖い。


「ついたよ。それじゃあ印刷しようか」

 ようやく印刷室に到着した。ここは基本的に先生たちしか入れないのだが、今日は特別だ。僕は印刷の仕方がわからないので朝日奈に任せることにした。待っている間にアオイと雑談をする。

「クラスの方はどれくらい進んだの?ヨルくん」

「あのチュロスの化け物はちゃんとテントの上のあたりに吊っといたよ。装飾も別段問題はないかな...」

「それはよかった。ところで文化祭はどれくらい自由時間があるんだい?」

「言われてみれば...ほとんどないな。なんやかんやクラスの仕事と実行委員の仕事があるからな。とはいえちゃんとダンス部の発表は見に行くぞ。」

 アオイが率いるダンス部の発表はぜひ見たい。あと光藤さんのところのバンド”phantom”と度会くんと相川のとこの”巫”のパフォーマンスも見たいし。

「それは大変だね...まぁ僕の方も似たりよったりだけど。ぜひ僕達の発表を楽しみにしていてくれ。」

「あぁ。楽しみにしてるよ。」


「終わったよ二人とも。待たせちゃってごめん」

「全然大丈夫だよ。おっ!きれいに印刷されてるね。これは実行委員の持ち場のとこにおいておこう。」

「そうだね。とりあえず今日は私が持って帰るから。」

「お疲れ様。実行委員の方々!それじゃあ今日はそろそろ帰ろうよ!」


「それじゃあ僕はこっちだから。バイバイお二人さん」

「ばいばい」

「さよなら〜」

 アオイは自転車通学なので、電車通学の僕達とは帰り道が違う。ここでさようならだ。


「去年もこんな感じだったね」

 おもむろに朝日奈が話し始めた。

「覚えてるかな。去年実行委員が少なすぎて、時間ギリギリまで装飾しててさ。その時も一緒に帰ったよね。」

「そうだったね...あのときは忙しすぎた。思い出したくもないね...」

「絢夜ってばひたすら風船割ってたよね。バルーンアートで使うっていうのに。割ったら毎回、注目を集められたな、とかなんとか言ってて面白かったよ。」

「そういえば、朝日奈も小さい子どもがバルーンアート貰いに来たときに、めちゃめちゃ近づいてまくしたてて子ども泣かせてただろ。」

「う、うるさいわよ!あの子可愛かったんだし...」

「ああいうことは親戚の子どもぐらいにとどめときなよ」

「言われなくても最近は気をつけてるし」

「ほんとかよ...」


「それじゃあ僕はここいらで」

 そろそろ電車が僕の家の最寄り駅に着く。朝日奈は別の駅なのでここでお別れだ。

「ねぇ絢夜...」

「どうした?」

 どこか神妙な表情をして朝日奈は言った。

「文化祭、頑張ろうね」

 弾けるような笑顔でぐっと握りこぶしを突き出してきた。

「当たり前だろ!」

 こちらも負けじと笑顔で彼女と拳をぶつけ合った。



「うっ...」

 朝日奈と別れて家へ帰っている途中、今日何度目わからない頭痛に頭を抱える。僕にとって今日一日は一週間ほどの長さに感じられた。例えの類ではなくだ...



 文化祭は明日...いや、この調子だと数週間後か?

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