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第十七話 星海絢夜とプログラム

 今日からいよいよ文化祭に向けての本格的な準備が始まる。この相榻(あいしじ)高校では、文化祭二日前の午後、文化祭前日の丸一日が準備期間として与えられる。今日は午前中は授業で午後が準備時間だ。どこか胸が痛むのを感じながらいつもと同じ朝を迎えて目を覚ます。

「はぁ...」

 前言撤回。いつもと同じ朝ではない。いつもより30分も起きるのが早い。なれない早起きはつらい。なぜこうも早起きしたのかと言うと、朝日奈に早く来るように言われたからだ。基本的に今日、明日そして明後日、あと明々後日の朝はみんな普段より早く来る。準備がたったの一日半で終わるわけないと思っている一部の熱心な人たち、そして彼らに起こされる人たちが早く起きる。


 さぁ頑張るか。ベッドから降りてキッチンへ向かう。実は僕は一人暮らしをしている。両親はしょっちゅう出張でどこかに行っているからだ。今はどこの国にいるんだっけ?よく覚えていない。年に何度かは会えるので別にさみしくはない。

 近所のスーパーで買ったインスタントコーヒーを飲みながらぼーっとトーストをかじる。時計に目をやると思ったよりも時間がなかった。さて、少し急ごうか。


「やっほー♪絢夜」

「おはよう。ヨルくん」

 学校の最寄りの駅につくと、朝日奈とアオイがそろって手を振ってきた。

「おはよう二人とも。珍しいねアオイがこの時間帯にいるの」

 アオイはダンス部の部長だ。文化祭でダンスを披露するので最近は、ずっと練習で早く登校していたのだ。

「今日と明日の朝はクラスの準備を手伝うように言われてね」

「白石ちゃんのダンス楽しみ...」

「それは良かった!しっかり見ていてほしいな。朝日奈さん」


 学校につくと朝日奈とは別れてアオイと教室に入る。教室に入るとすでに度会くんと藤川が話し合っていた。

「ここは絶対でっかいチュロスの怪物つけようぜ」

「どうやって作るんだよ?」

「おはよう二人とも」

 何やら不穏な会話が聞こえたがまずは挨拶だ。

「おはよう絢夜、白石」

「おはよう度会くん。今何作ってるの?」

 アオイが尋ねると、度会くんが教えてくれた。


「楓がな、インパクトがほしいからでっかいチュロスの人形をつけたいってさ。」

「だってなにかインパクトがないとわざわざ買いに来ないだろう?他のクラスと差別化するためにインパクトある外装にするのは大切だろう?」

 もっともらしく言ってはいるがおそらくただ面白そうだから作りたいだけだろう。藤川楓はそういう男だ。

「まぁたしかにね〜インパクトはほしいかも。さすがだね楓くん」

 僕がそんな事を考えているとはつゆ知らず、どうやらアオイは藤川の提案に乗ろうとしているようだ。たしかに必要だと思うし、悪くはないと思うがやはりある程度は考えたほうがいいだろう。少しは手伝うか...


「これなら行けそうだね...」

「確かに...それにしてもよく考えたね絢夜。」

 続々と人が集まり始めた教室で僕達が見ているのは机に置かれた一枚の紙だった。そこに描かれていたのは一匹の怪物だった。()()は茶色で縦に細長いフォルムを持ち、二つの大きな目を持っている。

「こいつを2-βのマスコットにしよう!」


 その日の授業の最初は化学だった。そういうわけで文理別れて教室に向かう。席が近い朝日奈と舛田さんと話をする。

「今日はどうする?実行委員の方に集中したほうがいいかな?」

「難しいところだね〜」

 最近よく話すこともあって舛田さんとも仲良くなってきた。実は小学校が一緒だったのだが、クラスは一回も一緒になったことがなかったので面識はなかった。

「基本的にはクラスのほうを最低限進めてからかな。そうしたら予備室に集まってもらって準備をするっていう流れ。」

「オッケーわかった。」

「おいそこ!喋ってないで授業に集中しなさい!」

「「「すいません」」」


「というわけで今から学園祭の準備をしていいぞ。あとは主に朧と白石に任せる。注意点としては、他の活動でどこかに行く人は白板にその旨を書いておいてくれ。以上!」

 相変わらず簡潔な岩見先生の挨拶で文化祭の準備は開始した。とりあえずはテント装飾の流れを伝えてから予備室に向かおう。そう思って僕らテント装飾班は指示を飛ばし始めた。


「こういう流れで装飾準備をしてほしい。使える段ボールはこの前藤川が取りに行ってくれたから。何かわからないところがあったら予備室に来てほしい。僕と藤川がいるから。」

「ごめんねみんな。僕はダンス部の練習に行かないといけなくて...」

 一つ問題があるとすればこの装飾班にはクラスの仕事に注力できる人が居ないということだ。こればっかりはどうしようもない。

「それならある程度までは俺がここに残るよ。二人はそれぞれの仕事に行ってきな!」

 そう思っていると、藤川がありがたい提案をしてきた。決めポーズのダサさはともかく、これなら多分なんとかなるだろう。

「助かる」

「ありがとう藤川くん」

「任せなって。それじゃあやるぞ!えいえいおー」

 何人かのやる気に満ちた、おーという声を聞いてどこか安心しながら、予備室に向かう。彼にはカリスマ性というか、人を引き付ける何かがあるように思う。


「しつれいしまーす」

「「こんにちは〜」」

 予備室に入ると少なめではあるがすでに何人か集まっていた。すでに装飾班の子たちが準備を始めているのが目に入った。企画班の速見くんがパソコンと格闘しているのを見かけたので、助けに向かう。彼にはある仕事を頼んでいたのだ。

「どんな感じ?速見くん」

 少し疲れた目をして速見くんは答えた。

「先輩...プログラムは組んだんですけど、ちょうどいい金額が見つからなくって...」

「おー!組んでくれただけで十分だよ。後は僕に任せて少し休みなよ。疲れが見え隠れしてるよ」

「ありがとうございます...じゃあ一旦クラスの方に戻ります。」


 速見くんが出ていったので、僕がパソコンに向かうことになった。速見くんは表計算ソフトを使える。そこでお願いしたのは、バンドグッズの販売に関するプログラムだ。お願いしたのは、このグッズの販売価格をいくらにすれば利益がどれくらいになるのかを計算するプログラムだ。

「おっ。ちゃんと出来てるね」

 実は僕も表計算ソフトを使ったことがあるので作れたのだが、まぁそのなんというか...めんどくさかった。


「もう来てたんですね。星海先輩」

 声をかけられて振り向くと、光藤さんが来ていた。急いで来たのか少し息が切れている。

「何してるんですか?」

「バンドグッズの販売価格をどうしようかと思ってさ。これからちょうどいい価格を決めないといけないんだよね〜。これ速見くんが作ってくれたんだけどさ...」

 光藤さんにこのプログラムと僕の目的を伝えた。

「そういうことなら手伝いますよ。ちょっとデータを見せてください。」

 心強く言ってくれたので、言われたとおりに仕入れ価格や送料などのデータを見せた。すると、光藤さんは少し考えますと言って目を閉じた。


 一分もしないうちに目を開けた光藤さんは、パソコンに数値をいくつか打ち込んだ。

「えっ?」

 そこに表示された数字を見ると、驚いたことに利益が殆ど無いかつ、支払いやすい金額である、完璧な販売価格だった。

「どうやったの?プログラム使ってないよね?」

 あまりにも不思議だったので質問してみたが、なんとなくで...などとはぐらかされてしまった。なぜかクタクタと疲れているようだったので、あまり問い詰めるのも良くない気がしたのもあって、どうしたのかはわからなかった。


「よし、これで終わりかな」

 なにはともあれ、光藤さんのお陰で予定よりも早く準備ができた。ということで値段をこれで決定しよう。このことは後でみんなに共有しておくべきだな。そういえば販売マニュアル的なものも作らないとな...

「助かったよ。ありがとう」

 光藤さんに感謝の意を伝えると、どこか照れくさそうに手を振った。するとこのタイミングで予備室に入ってきた人が居た。


「やっほーみんな!急で悪いんだけど、買い出しに行く人?」

 入ってきたのは我らが委員長、朝日奈未織だ。買い出しに行くということでせっかくだし、行こうかな。

「僕は行っても良い?」



学園祭まで後2日。もうどうしようもないか...

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