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第十六話 光藤永遠とバンドグッズ

 いよいよ学園祭まで後一週間程となった。私はバンドの練習を進めながら、実行委員の一員として準備をしている。

 未織先輩、星海先輩、藤川先輩と話し合った結果、私と星海先輩が主体となってバンドグッズ販売の話を進めていくことになった。抽選会の方は藤川先輩が他の企画班の人たちと話し合って進めていくそうだ。


「それじゃあアンケートを作ろうか。」

「そうですね。」

 ここは私の放課後の1-αの教室だ。人は私と星海先輩意外居ない。星海先輩は普段は入らない教室だからだろうか、どこか居心地が悪そうだ。

 アンケートというのはバンドオーディションを突破したバンドメンバーたちに、どのグッズを作成したいか、いくつ作るのか、などのことを聞くためのものだ。ちなみに業者の関係で、作れるのはハンドタオル、缶バッジ、アクリルキーホルダーのみだ。この中から作りたいものを選んでもらう。


「こんなもんかな。これで一旦バンドリーダーたちに送ろうと思ってるんだけど、どうかな?」

「いいと思います。けどどうやってバンドのリーダーたちに送るんですか?」

 こう聞くと先輩は口を小さく開けて、

「忘れてた...」

 そう呟いた。ガクリとしてしまう。どこか抜けてる人だとは思っていたが、ここに気づかないとは...

「ま、まあ大丈夫でしょう。ちょっと考えてみます。」

 凹んでいる先輩に優しく声をかけながら、私は”フォーカス”し始めた。”フォーカス”はこの前気付いた能力で、端的に言うとめちゃめちゃ集中力を上げる力だ。


 軽く考えるとすぐにどうすればいいのか浮かんできた。

「大丈夫です先輩!生徒会に聞けばいいんですよ。生徒会ならバンドのメンバー表を持ってるはずです。あそこがステージ企画を仕切ってるんですから。」

 こう言うと先輩はばっと顔を上げて、それいいね。と言ってくれた。どうやら知り合いが居るようですぐに行こうと言って出発した。すごいスピードだったのでびっくりした。いつも以上に顔がにこやかだ。


「失礼するよ。相川」

 星海先輩はノックをしながら生徒会室の扉を開けた。

「いらっしゃい絢夜。どうしたんだい?」

 部屋に入ると、長い髪を後ろで束ねている先輩が座っていた。ってこの人...生徒会長だ!この間オーディションの後に声をかけてきた...

「そこのお嬢さんはこの前の人じゃないか。どうされましたか?」

 どこかおどけた表情で相川会長が声をかけてきたが、星海先輩が遮った。

「おいおい。僕の大事な後輩をからかうんじゃないよ。それより聞きたいことがあるんだけど。」

「それはそれは。絢夜が僕を頼るとは珍しいね。何事?」

「今度の文化祭のバンドのリーダーたちにメールを送りたい。名前を教えてほしい。」


「これで全員だよ。」

「助かったよ。ありがと相川。」

 事情を話すと相川会長は快く教えてくれた。会長もバンドに入っているので話が通りやすかったのだろう。これでアンケートを送れる。相川会長に別れの挨拶をして私達は教室への帰路についた。


「星海先輩は生徒会長と仲が良いんですね。びっくりしました。」

「腐れ縁みたいなもんだよ。昔からの知り合いでね、いつも手を焼かされてるよ。」

 歩いていると前から見たことのある小柄な女子が歩いてきた。先輩が軽く挨拶をするが聞こえなかったかのように無視して歩いていった。そうだ。彼女は空見さんだ。この間生徒会のヘルプとして実行委員の方に来てくれた。とはいえ無視は良くないだろう。少しもやもやした。


「これで終わりだね。お疲れ様」

「先輩こそお疲れ様でした。」

 軽くお辞儀をしながらアンケートを全バンドに送ったことをお互いに労った。

「ところで、光藤さんのバンドはどのグッズを作るつもりなの?」

「えっ。あの、まだあんまり考えてなくって...」

 私のバンド"phantom"はバンドグッズについてまだ話していない。そもそもどれくらいの人が買ってくれるのかがわからないのだ。すぐに決めるほうが難しいだろう。

「そうだよね。時間は未だあるし焦らず決めてね。」

 そんなセリフを最後に星海先輩と別れた。


 茜色に染まった校舎内を歩いていると、曲がり角のところで人とぶつかってしまった。相手は私より小柄で、軽く吹き飛ばされてしまったようだ。謝りながら起こすと彼女の顔が見えた。空見さんだ。

「ありがとうございます...光藤さんですか?」

「えっ。あぁそうだよ。あなたは空見さんよね。こんにちは」

「だから小凶か...」

「小凶?」

「い、いえこっちの話です。ところで勝手に生徒会室に入らないでください。さっき相川会長がまた注意されてましたよ。」

 どこかイライラしたような表情で言ってきた。私はどこか驚くと同時に申し訳なく思った。

「ごめんなさい。実は生徒会室に入ったのは私が原因で...」

「知ってますよ。どうせあの会長のことですし。ですけど、あんまり迷惑をかけないでください。」

 最後は私を睨んでから去っていった。

 空見茜音。しょっちゅう喧嘩腰になるようであまり良い噂を聞かないが、どこか悲しそうに見えたのは気のせいだろうか?



「グッズね〜。どうしようか。」

「何人くらい買ってくれるのかな?」

「とりあえず私達の家族と、友達とか?」

 今は昼休み時間。"phantom"のメンバーでバンドグッズのことについて話し合っている。

「ほらほら。まずは何を作るのかを決めましょう!」

 この中で一番しっかりしている殊音が取り仕切る。


「それじゃあ作るのは缶バッジ、アクリルキーホルダーの二つ。そしてデザインは缶バッジが私と永遠、アクキーは優香とそら、っていう感じでいこう!」

「個数はどうするの?」

 優香が控えめに問いかけた。ここが一番決めにくい。何人くらいが買ってくれるのかがわからないからだ。

「余るほうがまずいだろうし親と友達何人かだけ買ってくれる、っていう想定で決めようよ。」

「それもそうだね。それじゃあ...」


「また明日!」

「ばいばーい」

 駅でみんなと別れる。あの後、みんなでグッズの個数を決めきった。明日最終確認をした後に実行委員のアンケートに回答するつもりだ。

「ふぅ...」

 少し怖い。バンドのパフォーマンスの練習時間はもうあまり残されていないし...

 ネガティブになり始めたので頬をパシッと軽く叩いた。とはいえここまで来たのだ。もうやるしかないだろう。こんな事を考えていたせいか、前を歩いていた大柄な人にぶつかってしまった。

「す、すいません。」

 謝ってからぶつかった人を見ると、度会先輩だった。先輩も私のことに気づいたようで話しかけてきた。

「大丈夫だ。ところで光藤さん...だったか?」

「は、はい。そうです。度会先輩ですよね?」

「そうだ。星海から話は聞いてるよ。バンドオーディション突破したんだってな。お互い頑張ろう。」


 度会先輩はバンド”巫”のボーカルで、とてもレベルが高い。帰る方向が同じなのか、先輩の隣を歩いているので少し質問してみよう。

「先輩はどれくらい歌の練習をしているんですか?」

 質問をすると先輩は少し驚いた表情で、

「う〜ん。每日お風呂で歌ってるくらいかな。後はよくカラオケで歌ってるけど...」

 と言った。あまり参考にならない。そこで本番へのメンタルについて質問してみた。

「俺はあんまり緊張しないからな...たぶん自信があるんだろうな。自分がこれまで頑張ってきたっていう。テストの時も結果発表の時ぐらいしか緊張しないしな。」

「私はオーディションの前もそうですけど、今も本番どうなるのかな、って心配になっちゃってて」

「練習サボったりでもしたのか?」

「いえいえ。練習は頑張ってました...けど、いくらやっても心配になっちゃって」

 すると先輩は少し悩んだ様子になった。そして口を開く。

「じゃあ問題ないだろう。練習を頑張った、という自負があるんだろう。それがあるのなら心配する必要などないだろう。」


「そういうもんですかね...」

「そうだな...星海風に言うなら、”そういうもんだ”って感じかな」

 三叉路で先輩と別れるタイミングになって、さり際にこんなことを言われたら笑ってしまうだろう。地味に星海先輩の声を真似ていた。


学園祭まで後6日。あのモノマネは結構似ていた。

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