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第十二話 光藤永遠とバンドオーディション

「抽選会とバンドグッズ作成、どっちもやるのはどう?」

 おもむろに星海先輩が意見を出した。

「え!二つ!去年一つなのに大変だったの覚えてないの?」

 未織先輩は去年の大変さを思い出したのか顔を少し歪めている。

「去年のは田中先生のせいだろ。あと人数も少なかったし。今年は人数が倍近く居るんだし、二つやるのは無茶じゃないと思うよ。」

「田中先生がなにかしたんですか?」

 田中先生は英語の先生で私のクラス1-αの担任でもある。ちょっと抜けてるところもあるが優しい先生だ。


「去年な...。田中先生は実行委員担当の先生だったんだけどね。先生が色々とミスしちゃってて、そのせいで目が回るような忙しさだったよ。」

「そうそう。まずステージの配線の仕事が実行委員だったのを伝え忘れちゃってて、機材の名前を前日死ぬ気で覚えてから当日重い機材を運んだのよ。かと思えばステージの撮影用のカメラの充電忘れてて撮影班の仕事がなくなって...。そもそも人数が少なかったのが一番きつかったのよね。」

 未織先輩と星海先輩が懐かしそうに話している。田中先生ならやりそうなことだ。この前もプリントを配るのを忘れていた。

「大変でしたね...。っていうかステージの配線ってどうするんですか!」

「あーそれなら安心して。あれは今年からパソコン部がメインになってやる事になったらしいよ。」

 星海先輩が微笑みながら教えてくれた。というかずっと微笑んでる気がする。


 ここで舛田先輩が「ちょっといい?」と言って話し始めた。

「色々考えたんだけど...抽選会とグッズ作成の二つならどうにかなるんじゃないかな。グッズ作成は前日までは忙しそうだけど、当日は抽選会と同じ場所で販売すればいいんだし。」

「そうだな。俺もおんなじこと考えてた。去年と同じ場所が使えるんなら人が来ないとかもないだろうし、割と売れるだろう。」

 さっきまで黙っていた藤川先輩も同意した。そういえば去年未織先輩が学校の玄関前のスペースでバルーンアートをしていた。確かにあそこなら人通りも多いだろう。

「う〜ん...」

 未織先輩はまだ割と二つすることに抵抗があるようだ。

「…確かにそうだね。今年は去年とは違う。私達ならできるよね。よし!二つやろう!」

 誰かが拍手を始めた。これにて私達の実行委員企画は抽選会、バンドグッズ作成の二つとなった。あれ、そうか。phantomのグッズも作ることになるかもしれないんだ。もう明日に迫ったオーディションを乗り越えれば、晴れて学園祭のバンドに出られるのだ。そうすればグッズも作ってもらえるのだ。そう思うとまた頑張ろうと思えた。



「そら!ちょっとタイミングがズレてる」

「永遠、ギターソロなんとかなりそう?」

「たぶん大丈夫そう。優香」

 ここは花菜都駅(かなとえき)の近くにあるレンタルスタジオ。バンドの練習が安くできるということで私達phantomを含め、様々なバンドが使っている。

 phantomは四人グループだ。

リードボーカル 九条殊音(くじょうことね)

ギター兼サイドボーカル 光藤永遠

ベース 内藤優香(ないとうゆうか)

ドラム 桐生(きりゅう)そら

 メンバーの名前が書かれたポスターに目をやる。オーディションに受かればこのポスターが学園祭のパンフレットに掲載されるのだ。


「それじゃあまた明日!」

 そう言って殊音たちと別れた。練習はスタジオが閉まるまで続けた。明日が本番だと思うと気が気じゃない。私のバンドは実力もしっかりあるとは思っているのだがどうしても心配になってしまう。三曲とも十分に準備はできた。そのうちの一曲には私のソロパートがある。少し難しいのも合ってすでに緊張している。すでに暗くなった街をバスから見ながら思う。もうやれることはやったさ...


 いよいよバンドオーディションの日。今日は土曜日で、部活に入っていない私は思ったより部活で賑やかなことに驚いた。

「やっほ。永遠」

 殊音に声をかけられて目をやると、すでにみんな揃っていた。一応リーダーは殊音だが全員同じ一年生の友達なので誰も気にしてはいない。

「いよいよだね」

「永遠は緊張しやすいからこっちも心配だよ」

「もう!そんなことないって。ほら、早く行くよ!」


 ぎくり。もう心臓がバクバク早鐘を打っている。やばい緊張が収まらない。そんなことを考えながら歩いていると、前を歩いていた人にぶつかってしまった。

「あっ。すいません。」

「こちらこそ、すまん」

 うわ、背高いな。180はあるだろうか。おそらく先輩だろう。”朧”と呼ばれると彼は最後に軽くこちらに謝ってから、バンドメンバーらしき人たちのところに戻っていった。

 すぐに殊音から気をつけてよ、と言われてしまった。やはり緊張している。


 phantomの出番は10時からだった。後三十分ほどあるので他のグループのバンドを見る。観客として他のバンドの生徒達も入ることができるのだ。見てみたところ、今は女子生徒三人グループの演奏が終わったところのようだ。次のバンドが準備を始めた。

 あれ、あの人は...やっぱりさっきぶつかったあの人だ。あの人はボーカルなのか。他のグループの実力を見るのも大切なことだと思う。しっかり聞こう。


 結論から言えば、あの人達のバンド”巫”はすごかった。ボーカルのあの人は度会朧というらしく、めちゃめちゃ歌が上手い。少し渋い声が、和風な楽曲にマッチしていた。あんなのは...いやそんなことを考えるべきじゃない。私達は私達のできることをしないと。そう言って私達は準備を始めるためにステージの袖の方へ向かった。

 ふぅ。みんなに目をやると、流石に緊張しているようだった。殊音も声の調整を続けているし、優香もベースの指使いがうまくいっていない。そらに至っては手が震えていた。私も人のことは言えないけどね。


「よし!私達は緊張してる!」

 突然私は声をあげていた。

「どうしたの?永遠」

「私達は緊張してる。けどね、私達phantomは今までずっとひたすら練習してきたのよ。絶対受かるはず。いつもどおりの力を出し切ろうよ!」

 みんなは顔を見合わせて、笑い出した。ひどくない?

「なんか永遠らしいね。わたしたちは緊張してる!って何言い出すんだか」

「けどたしかにね」

「もうここまで来たんだ。全力を出し切ろう!」

 誰からかはわからないが気づけばみんなで円を作って、手を中央で合わせていた。

「よし、phantom行くよ!」

「「「おー!」」」



「どうだったと思う?」

「ごめん、ちょっとミスしちゃった...」

「私も少し...」

 オーディションが終わったので私たちは近くのショッピングモールにある、フードコートに集まった。心做しか空気が思い。演奏前に発破をかけたがどうしても緊張は消えきっていなかった。全員が少しずつミスをした。正直受かるかどうかはわからない。


「光藤さん?」

 突然声をかけられて後ろを見ると、星海先輩がうどんが乗ったお盆を持って立っていた。黒い長袖の上着に、ジーンズといった私服姿だ。

「先輩!どうしたんですか?学校ですか?」

「いや、今日は友人がバンドのオーディションにでるからお昼ごはんを一緒に食べようと思ってね。藤川も来てるよ。」

 そう言って先輩が指を指した方向を見ると、藤川先輩と長髪の人、そして背が高くってがっしりしている先輩が居た。

「あっ!あの人は...」

「あれ、度会君のこと知ってるんだ。彼がバンドのオーディションに出てたんだよ。”巫”って名前でね」


「どうした?絢夜。誰だいこの子達?」

 星海先輩と話していると、長髪の先輩が来た。ってこの人生徒会長じゃん!確か名前は...

「こんにちはお嬢さん方。生徒会長で”巫”のシンセサイザー担当、相川瑞希です。」

 どこかおどけた様子で相川先輩が挨拶してきた。殊音たちは状況が理解できてないのか、呆然としている。

「こら、瑞希。邪魔しちゃ悪いだろう。戻るよ!」

 私達が呆然としているのを見てか、星海先輩はそう言って相川先輩を連れて、帰っていった。


「さっきの人たちは?」

「永遠の知り合い?」

 二人の先輩が戻っていくと、みんなが質問をしてきた。

「え〜っとね...。眼鏡を掛けてた先輩が星海先輩で、実行委員の副委員長なの。けど相川先輩の方は初対面なんだけど...」

 今年の生徒会長、相川瑞希は色々と型破りだ。生徒会企画としてファッションショーをするらしいし。ファッションショーのことを話すと、生徒会役員もしているそらが

「あぁそういえばファッションショー中止になったんだって。」

「「えっ!」」


 そんな話をしていると、気づけば夕方になっていた。いつの間にか先輩たちは帰っていたようで、私達も帰路につくことにした。みんなで最寄り駅まで歩いていく。

「結局どうなるんだろう?」

 ぼそっと殊音が呟いた。その答えを持ち合わせる人はこの場に居ない。バンドの結果は来週の月曜日に発表される。


 学園祭まで後14日。今日はしっかり休むとしよう。

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