第十一話 星海絢夜と企画の決定
土日が開けてついに実行委員の計画が本格的に動き始める。今朝連絡が来て、藤川によると今日で実行委員企画が決定するそうだ。やはり藤川は能力が高い。稀に変なことをしでかすのが玉に瑕だな。僕は朝の誰も居ない教室で考え事をする。
この前から、生徒会副会長の空見茜音さんが実行委員の集会に来てくれている。会長の相川の推薦だし間違いないだろう。ただ少し人嫌いな一面があると聞いていたが、そんな様子は微塵もない。
「おはよう絢夜!相変わらず早いね。」
教室の扉を開けて実行委員長の朝日奈が入ってきた。最近彼女は実行委員関係で色々と忙しくしている。僕も可能な限り手伝おうとは思っているのだが。
「おはよう朝日奈。今日の集会で企画を決定するそうだ。」
「あーそうらしいね。決定したら準備を頑張ろうか...。あっ、そういえば音羽が...。」
また朝日奈が口をパクパクさせ始めた。最近多いがどうかしたのだろうか?
こんな風に最近僕達は、毎朝文化祭のことについて話す。ある程度話していると、続々とクラスメイトたちもやってくる。どうやら普段は早く来ているアオイはまだ来ていないようだ。あぁそうだ。彼女はダンス部の部長だった。
ここ、相榻高校では文化祭ステージ企画なるものが存在する。文字通りいろいろな生徒がグラウンドに設置された特設ステージで、パフォーマンスをしていくというものだ。度会君もでるらしいバンドもステージ企画の一部だ。ダンス部、吹奏楽部も参加するので、これらの部活は毎朝練習に励んでいる。
アオイは凛々しい人で、女子からの人気も高い。幼稚園の頃から英語をしていたそうで、僕が留学に行ったときのグループの一人だ。その時から仲良くしている。それにしても留学から二年も経ったのか。
そうしてまたいつものように朝礼、授業が始まっていく。この学校では準備期間として、学園祭の二日前から授業がなくなる。それまではこの日常が続いていくだろう。
今日の数学の時間は先生が出張しているらしく、自習となった。といっても自習とは名ばかりで、おしゃべり時間となっている。大声で騒いだりしなければ、先生もとやかく言ってこないのだ。これはチャンスと思い、同じ理系クラスの朝日奈と舛田さんと実行委員のことを話す。
「今年は去年より断然人が多いね」
「ほんと助かるよね。去年は忙しすぎた。」
「人も多いし、企画を二つするのもありじゃない?」
僕と朝日奈は去年も実行委員をしていたのだが、去年は全体で15人ぐらいだったのだ。その上ステージの設営の手伝いに駆り出されたり、ステージ企画の撮影の手伝いをしたりしていたのもあって、思うように動けなかった。
「そういえば装飾の案ってもう出てるの?」舛田さんに問いかける。
「いくつか案は出てるんだけど、そもそも三ヶ所のうち二ヶ所しか進んでないんだよね」
「後で見せてよ音羽ちゃん!」
あっという間に昼休みを迎えた。最近は母に言って、お弁当の量を減らしてもらうように頼んでいる。僕は少食なので普通に食べてたら集会に間に合わないのだ。身長は175cmぐらいあるのに体重は53kgぐらいだ。よく朝日奈に「もっと食べなさい」と言われる。
さて、藤川と一緒に集会が行われる予備室についた。空見さんを含め、ほとんど全員が揃っている。どうやら少し遅れたようだ。
「遅いよ、絢夜。もう始めようとしてたんだけど」
「ごめん。弁当に苦手なナスが入っててね」
隣で光藤さんが吹き出したような気もするが、まぁいい。
「企画の人たちはこっち!」
藤川主導で企画の話は進んでいた。現在出ている企画の案は様々で、スタンプラリーなどのイベント系や、販売系もある。
「それじゃあこの週末でみんな考えてきたと思うし、最後の案出しをしてから投票を取ろうと思うよ。新しい案がある人は...」
どうやら藤川はきちんとリーダーしているようだ。投票のときにまた見に来よう。一旦、装飾班の方を見に行く。
「ステージの案を考えてきたんですけど...」
「ここのシートって何色のつもりなの?」
「ここって風船つけれますか?」
装飾の方は担当場所ごとにデザインを決めていっているようだ。どの場所もきれいに飾り付けされそうで楽しみだ。やはり女子率が高いようで、肩身が狭い。
「朝日奈!」
舛田さんと話していた朝日奈に声を掛ける。
「装飾の方はどうなの?」
「この調子だと今週中に終わりそうだよ」
舛田さんが答えてくれた。朝日奈が渡してくれた仮の案を見てみると、すごく良い感じになっている。今年の文化祭のテーマに合わせたとメモ書きされている。あれ?
「そういえば今年のテーマ何だっけ?」
「聞いてないの?この間相川くんが発表してたけど。」
隣で舛田さんがブンブン首を縦に振っている。
そうだったっけ?この前の全校集会のときは次の時間の勉強をしていて、ちゃんとは聞いていなかった。相川には申し訳なかったが。
「ごめん聞いてなかった。何だっけな?」
「まったく...。”同心協力”だよ。意味は...何だっけ?」
朝日奈もわかってないんかい!二人の視線が舛田さんに向かう。やれやれといった感じで舛田さんが教えてくれた。
「意味はね、みんなで心を一つにして協力するっていう意味で、割と普通なスローガンかな。」
ほう。よくある感じだな。
「じゃあここは、そのテーマから来ているのか」
仮の案が書かれている紙の一箇所に指を指す。
「そういうこと!全体的には青を基調にする感じで、あんまり派手な感じにはしないようにはしてる。ピンクの風船を浮かべたりはするけどね。」
朝日奈が胸を張って得意げに言ってきた。朝日奈は作ってないだろうに。
「絢夜!投票終わったぞ!」
「わかった、すぐ行く。」
藤川がこちらに声をかけてきた。どうやら案だしが終わって投票も済ませたようだ。せっかくなので委員長の朝日奈も連れて行く。
「投票の結果なんだけど...割と二分しちゃっててね。一位は抽選会で、二位はバンドグッズの作成と販売になったんだが。二票差しかなくって。」
なかなか面白い結果になったな。抽選会とか初めて聞いた。バンドグッズ作成とか考えたことすらなかった。
「抽選会っていうのは?」
朝日奈が質問すると、藤川が返した。
「この案は速見くんが考えてくれたんだよ」
藤川が高一であろう、メガネを掛けた男子を連れてきた。初めての集会のときに唯一質問してきた子だ。速見というのだな。
「こんにちは。速見です」
挨拶もそこそこに抽選会のことについて聞いてみた。
「えっと。僕は実行委員でいろんな景品を用意して、放送とかで当選者を発表するって事を考えたんです。」
うーん。それだと少し弱い気がするのだがどうしてこれになったのだろう?
「あっ。ちょっと補足していいですか?」
藤川と一緒に企画版の進行をしていた光藤さんが控えめに手をあげた。
「実は企画班の皆さんには言ったんですけど、多くの人たちに参加してもらうにはどうすればいいか考えたときにですね。えっと、その...あんまりめんどくさくて時間がかかるような企画って参加者少ないじゃないですか。だから抽選会みたいな気軽に参加できる方が良いかなって。」
光藤さんがめちゃめちゃ言葉を選びながら言ってくれた。確かに一理ある。実は一昨年、某赤いストライプの男性を探すゲームのパロディを実行委員がしていた。その時僕はめんどくさくかったので参加しなかった。やはりみんなと文化祭をまわるほうが楽しい。
「たしかにね。言いたいことはわかった。スタンプラリーとかだとどうしても面倒だって思ってしまいがちだもんね。いい考えじゃん!」
「すごいね永遠ちゃん!そんなこと思いつかなかったよ。」
「あ、ありがとうございます...」
光藤さんが頬を少し赤く染めた。そうだな...抽選会ならもしかしたら
「抽選会とバンドグッズ作成、どっちもやるのはどうだ?」
学園祭まで後14日となった。そろそろ諦めるべきか?
こんにちは。惜夜です。
突然ですが人物のまとめです。
星海絢夜 クラス2-β
実行委員副委員長
時間をゆっくり把握できる能力
朝日奈未織 クラス2-α
実行委員委員長
未来を予知できる能力
光藤永遠 クラス1-α
実行委員副委員長、バンド"phantom"所属
一分間に一時間思考ができる”フォーカス”という能力
度会朧 クラス2-β
2-β店長、バンド"巫"所属
過去の自分を呼び出して対話できる能力
空見茜音 クラス1-γ
相榻高校生徒会副会長
おみくじを得る能力
藤川楓 実行委員企画班班長
舛田音羽 実行委員装飾班班長
相川瑞希 生徒会長
白石碧 2-β副店長、ダンス部部長
岩見先生 2-βの担任。生徒会の担当教師でもある
小林先生 実行委員担当の教師