第十話 空見茜音とおみくじ
先生と話を終えて私、空見茜音は生徒会室に戻った。ノックをしてから部屋に入ると会長と見知らぬ背の高い男子生徒が話をしていた。まったく、生徒会でないやつは入れてはいけないのに。
「会長、先生と話してきたんですけど...ファッションショー無理っぽいです。というかあなた誰ですか?部外者は出ていってください。」
「安心しろ。彼は僕の友人だ。っていうか中止なのか!」
「そりゃそうでしょう。立候補者は会長含めて二人だけですよ!中止にもなりますよ。あと生徒会室は生徒会の人しか入っちゃだめなので、出ていってください。」
そう言っておそらく二年生であろう男子生徒を生徒会室から追い出す。
「会長!勝手に生徒会じゃない人を入れないでください。また岩見先生に注意されますよ。」
「いや〜申し訳ない。というか中止はもう決定なのか?」
どうやら会長はファッションショー中止という事実を信じたくないらしい。
「決定だそうです。参加者が少ないと話にならない、と言われました。」
それから会長は割と長い時間悩んでいた。彼は考え事をする時目を閉じる癖がある。少し経って会長は目を開けた。
「うむ。とはいえ生徒会の企画がなしとなってしまってはきまり悪いな...別の企画でも考えるか。」
「そんな時間あるのですか?まぁ、あなたの勝手ですけど。では、私はこれで。」
会長にだけは私は素で接している。私の人嫌いのことも汲み取ってくれているからだ。
「ちょっと待った。そういえば、一つ君やってほしい仕事があるんだよ。」
「はぁ…。なんでしょうか?」
面倒なことはできれば避けたいが。
「学園祭実行委員のヘルプに行ってほしい。暇だろう?実行委員がどこまでやっていいか知っている人が実行委員には居なくてね。」
「…わかりました。行ってきます...」
仕方ないがこれも仕事だ、行くしかないだろう。
次の日になった。会長が言うには実行委員の集会があるのは昼休憩の時らしい。それまでいつものように四限ある授業を受けるために、図書室から教室に戻っていたときだった。突然頭の中に”おみくじ”が浮かんできた。
小凶
階段から落ちる。
ラッキーパーソン 舛田音羽
いきなりだったので、思わず歩みを止めてしまう。何なのだこれは?頭の中に浮かんできて、消えない。正確に言うと、思い出そうとすると映像記憶でもされているかのように映像として浮かんでいる。
階段から落ちる?ラッキーパーソン?どういうことだ?考え事を始めたまま、教室に向かっていく。もちろん、階段には気をつけた。
いよいよ、昼休みになった。素早く食堂で買ってきたパンを頬張り、実行委員が集まっているであろう予備室に向かう。時間が経っていたのもあって、油断していたのだろう。階段を降ろうとした時、転んでしまった。
完全に落っこちたと思った。普段から手すりを使わないので、十段近い階段を転がり落ちるのは火を見るよりも明らかだった。思わず私はすぐに来るだろう痛みに備えて目を閉じた。
「大丈夫?」
体に仄かな暖かさを感じて目を開けると、私は階段から落ちていなかった。後ろを振り向くと、先輩らしき女子生徒が、私を抱きとめていた。長い髪がウェーブしていて、背は私より少し高いくらいだ。なにはともあれまずはお礼だ。
「ありがとうございます。お陰で落ちずに済みました。」
「気をつけてね〜」
そう言うと、彼女は歩いて下に降りていった。
危なかった。あのおみくじは予知でもしていたのだろうか?あの先輩が居なかったら小さくない怪我をしていただろう。今度は手すりを持ちながら、予備室に歩いていく。
予備室に着くと、もうほとんどの人は揃っているようだった。そういえば会長は私が来ることを伝えていたのだろうか?
「あっ。もしかして相川が言ってた生徒会の子?」
予備室の前の方に居た眼鏡を掛けた男性が声をかけてきた。
「そうです。相川会長に言われて来ました。空見茜音です。」
「いらっしゃい。僕は実行委員会副委員長の星海。相川会長の友人だよ。こちらは委員長の朝日奈未織さんと、もう一人の副委員長の光藤永遠さん。」
紹介を受けた三人と挨拶を交わす。眼鏡を掛けているほっそりした男性が星海。少し茶色がかった髪の人が朝日奈。最低限先輩たちの名前は覚えよう。
「こんにちは。」
「よろしくね、空見さん。」
光藤という子は私と同じ学年らしい。女性にしては背が高くて覚えていそうなものだが会った記憶がない。向こうも覚えているような様子はないので良かった。人を覚えるのは苦手なのだ。
「それじゃあ前回話した通り装飾班と企画班に分かれてもらうね。藤川くんと舛田さんにおまかせします。」
「「はーい」」
驚いた。さっき私を助けてくれた人だ。名前は舛田というのだな。あれ?なにか聞き覚えがあるような気がする。気のせいだろうか?
「空見さんは色々聞きたいことがあるからちょっとこっちに来てほしい。」
委員長ら三人に呼ばれて会話を始める。
「いくつか聞きたいんだけどさ。この実行委員の企画としてはどれくらい場所を使えるの?」
「一応生徒会が実行委員用のスペースをグラウンドの端のほうに取っています。学校全体を使うようなやつは無理です。」
こんな感じでいくつかの質問に答えていった。あまり深く関わるつもりはないが、悪い人たちではないようで良かった。
「ありがとう。助かったよ。僕らは基本的に二日に一回集会してるんだけど、また来れるときに来てほしい。」
「はい。では。」
「じゃあまたね。相川にもよろしく伝えておいて。」
どうやら星海という先輩は相川会長と気心のしれた友人のようだ。生徒会室に帰りながら考える。会長には色々とお世話になっている。私が副会長になってすぐ、私の人嫌いのことに感づいて話をしてきた。
最初はおせっかいだから嫌いだった。しかし、その後彼は私が生徒会室にあまり来ないでいいようにしてくれたり、体育祭でも私の仕事のうち人との関わりが多いものを代わってくれたりした。
だから、今は別の理由で嫌いなのだ。会長が妬ましいのだ。星海先輩やさっき生徒会室に居た人とか、彼は私と違って仲が良い人が多い。そのくせ、私のような人嫌いのことも考えてくれるのだ。まさに完璧人間。こんな会長が妬ましい私自身のことも嫌いだ。
「はー...」
その日の放課後、終礼が終わってすぐに私はまた生徒会室に足を運んだ。いつも通り会長は会長専用の席に座っていた。この人はちゃんと授業に出ているのだろうか?
「会長、実行委員の方行ってきましたよ」
「おー!絢夜から聞いたぞ。ありがとうって言ってた。」
絢夜?誰のことだろう?委員長と副委員長にそんな女性は居なかった気がする。他の人は私に声をかけてこなかった。そう思って会長に誰のことか質問した。会長は少し気まずそうな顔をして、
「あー。そうだったな。実は絢夜の名字は星海だ。星海は知ってるだろう?」
「えっ星海先輩のことなんですか?そういえば下の名前言ってなかった気が...」
「あいつは昔名前のことで...いや、あんまり言いふらすようなことじゃない。忘れてくれ。」
あのにこやかにしていた先輩にも過去になにかあったのだろうか。まぁ別段興味はない。
「ところで生徒会企画のことはどうなったのですか?」
「それなんだけど...最近流行りの鹿とかどうだ?」
「は?」
前言撤回。この会長は完璧人間ではない。どうやら壊滅的にセンスがないか、はたまた普通のことがしたくないのか、やっぱり変な人だ。ただ会長についていけばなにか面白いものが見れそうな気がする。
学園祭まで後何日なのだろう?よく知らない。
こんにちは。惜夜です。
本日、十話目を投稿しましたので毎日投稿は終了となります。
これからは不定期更新ですが、頑張っていきますので、どうか時々読みに来てくださると幸いです。
30話ぐらいまで書くつもりです。