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1話「去り場所を探す為(1)」

荷物をまとめ、あの家を捨てて外へと行く。


久々に出た外は全く変わっていない。


(……もう少し外に出ておくべきだったかも。)


そう思ったが、すぐにその思考を棄てて歩く。こういうときに出てくる予想以上の荷物は嫌いだ。なので魔法で荷物を簡単にまとめた。

(まぁ、使えるようになったのは最近だけど。)

人々…というか人間は能力にも魔法にも憧れる。憧れるから、奪いに来る。




それから少し歩くと、森を抜けて平原に出た。


……懐かしい。この平原は昔は小さな町だった。もし、この世界に巨人がいたとして、その巨人なら…多分片手か両手で周囲の土地ごと持ち上げられそうなくらいには小さな町だった。


でも、アレが壊した。


突然現れた終末がその町を壊してしまった。




血よりも赤い空、下へ下へと崩れる地面。人々の悲鳴がまるでカンバスの上に適当に出される絵の具であるかのようにその瞬間の世界の全てを彩る。空はきっとカンバスそのもので、崩れ落ちていく地面は多分イーゼルで。そして終末というこの破壊の象徴のような何かはカンバスに彩りを乗せるための絵筆なのだろう。

まるで不協和音を奏でる、1つの曲になる前のリズムとして出来始めるときのような、音楽として暴れ出す前のもののようでもあった。


…あの出来事は、とても芸術的な何かを感じてしまった出来事だった。




でも、終末で全てを崩されるのはなんとも言えない気持ちになるので嬉しくはない。嬉しくはないが見ていても何も考えなくて済むので楽だ。

例えるなら、誰かに飼われて勝手に歳を取る動物が外へと飛び出して帰ってこなくなった後の喪失感というか…なんかそんな感じだ。


そういえば、その町のとある一軒家に住んでいた家族の母親が夜な夜な飼っている猟犬の吠える声に起こされて見に行ったらいきなり猟犬に襲われて喰い潰されたらしい。

どういう事が起こればそうなるのかはわからないが、世界が変わっていっているという現実感がある。ちっとも良くない。




…と、町があった更地の平原を見るついでに足を止めてしまっていた事に気付く。

この町の話は思い出しただけでももう少しあったりするのだが、これ以上は思い出さなくてもいい気がする。

悪戯で掘られた穴に落ちた子供が結果的に生き埋めになった話とか衝動的に動かされた若い泥棒が返り討ちに合って肉袋に入れられて加工されて吊るされる話とか…まぁそういうのが普通に起こる世界なので思い出しても多分つまらないだろうし。


もう少しだけ思い出しながら風を感じたかったが、歩いていれば自然と風が自身に纏わるのだからそんな事で足を止めるくらいなら歩いていたほうがきっといい。

動かす事と歩く事を面倒くさがっていた足を動かし、先に進むことにした。



数時間歩くと、大きな街が見えてきた。

それは街の塀だけでも遠目でも視認ができてしまうくらいの大きさがある。

(これは………かなり大きいかも。)

でも、こんなに大きな街は今までなかったはずだ。なら、新しく出来たばかりなのだろう。せっかく見つけたので、そんな街に寄ってみることにした。

街の門の前には兵士が数名立っている。仕事なのだろう。

兵士「止まれ。」

そう言われたので止まる。

兵士「ここに何の用だ。」

「旅の途中に見つけたので立ち寄ろうかと。」

兵士「旅の途中…?」

兵士「…先輩、コレどうしましょう。」

兵士「入っていいぞ。」

「では、お邪魔します。」

兵士「せ、先輩!?なんで入れてるんですか!?」

兵士「お前は最近ここに就いたばかりだから知らないと思うが、この国は旅の途中の者を迎え入れる役割があるんだ。…今度この国の歴史でも教えてやるよ。」

兵士「………は〜い…。」



街の中は昔からそこにあったかのような雰囲気を出しており、街中に建っている建物の建材もレンガという珍しくて高級な素材で作られている。

こういう大きな街には役所や受付があって、そこで滞在書を貰える…のだが、そのような建物は見つからない。貰えないと無断で立ち入っている事になってしまうので堂々と犯罪を犯している事になる。

こういうときは兵士がいるならそいつ等に聞けばなんとかなる…らしい。話で聞いたくらいなのでよくはわからない。

先延ばしにすると面倒くさがってやらなくなりそうなのでさっさとしよう。


少し歩いて、巡回中の兵士を見かけたので話しかけることにする。

「こんにちは。兵士さん。」

兵士「こんにちは。あら、初めてのお方。最近来たばかり?」

まるで姫やら貴婦人のような口調の兵士だ。そんな立場でも兵士はできるのだろうか。……そういえば、姫騎士なるものが存在すると聞いた。多分それに近しいのだろう。

「実は今日来たばかりです。」

兵士「まぁ、そうなの。どこからここまで来たの?」

「あちらの方角の森の奥から…」

兵士「かなり遠いところから来てくださったのね。足が疲れてるでしょう。ここから近いところに公園があるの。よかったら座りましょう。」

「…?あ、はい。」

かなり、と付くほど遠くはなかったはずなのだが、少しだけ会話がズレ始めている気がする。

ー公園ー

兵士「ほら、ここのベンチ。お隣どうぞ。」

「…失礼します。」

女性であろう兵士の隣に腰掛ける。これは世間的には大丈夫なのだろうか?

兵士「えぇと。ここに来たばかりってことは、滞在書が欲しいのよね。」

こちらを見て確認してきたので軽く頷く。いや、本当に大丈夫なのか?世間的に男女が並んで座っているのは本当に大丈夫なのだろうか。

兵士「ここには滞在書なんて存在していないから渡せないの。ごめんなさいね。」

女性であろう兵士が謝ってしまった。他の人に見られていたら多分何かを言われてしまうに違いない。

「あ、いえ、その」

兵士「……あぁ。さっきからおかしいと思ったら、そういう事なのね。ここの外は女性優位な世界なのね。」

兵士「ここにはそんな決まりはねぇぞ、お兄さん。」

そう言われて声がした方を向く。

兵士「お前、そろそろ休憩時間だろ。休んで来い。」

兵士「ごめんなさいね。また今度。」

「あ、はい。また今度…。」

街の人と話すのは職務怠慢とかそういうのに入るのではないのかと思ったが、そういう方針なのかとも思った。

兵士「…で、アイツはどこまで話してくれてたっけな…………あぁ、そうだそうだ。」

兵士「女性優位だとかそういう決まりはないって話だ。だからそんなに怯えてそうな仕草をしなくてもいい。もうちょっと伸び伸びと生きて精神を落ち着かせろ。」

「………。」

兵士「で、滞在書の話題があったって事は……泊まる場所の話をした方がいいな。」


兵士「ここには旅館もホテルもあるが、基本は使えないものだと思ってくれ。…兵士がいる門から入ったか?」

「うん。」

兵士「じゃあ、さっき増えた階層はお前の家が出来たからか。よかったよかった。俺はあの家の家主を迎えに来たんだ。」

「…………えっと…?」

兵士「続きは家の内装でも決めながら話そうか。」



兵士「立て。2層目の階段まで歩くぞ。疲れてるならおぶってやってもいいが。」

「…………歩きます。」

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