魔物研究施設
お茶にはやはり毒が入っていたようで、女は暗殺者のようだった。
普段からお茶のにおい嗅いでいてよかった。キースさんは好んで紅茶を飲むし、紅茶のにおいが同じだったから気づけた。
無臭のものを使えばよかったのにと思いながら、私はキースさんに撫でられている。
「よく見破った。すごいな」
「わふ」
「だが……王族を狙う者が出てきたというわけになるなこれで」
「わふ」
暗殺者の人は隠し持っていた毒を飲み自殺してしまったらしく、情報を聞き出せなかったようだ。妖しい人物は絞り込めているが、証拠がないので犯人扱いもできていないという。
この国の貴族内で派閥があるらしく、親王派、改革派、中立派と三つに分かれているようだ。キースさんはこの国の王子であるバリー・シャンヴァーラと親しいこともあり親王派、ジュエルさんは一応は中立派らしい。改革派の誰かだろうなぁと私の前でキースさんが愚痴っていた。
「それにしてもちょっとデカくなったなぁ。ワーナガルムは結構デカいが、もう成体近いんじゃないか?」
「わふ」
あの事件から一週間が経過した。
私の成長は著しく、もう成体と同じサイズ。ワーナガルムは結構デカい狼のようで、立っただけでも体長2mはある。部屋から出るのも一苦労なので、外に私専用の犬小屋が建てられて、そこに入ることになった。
もともと人間なのに犬小屋に住みます。わん。
そして、私にとってまだ成長はある。
それは。
「キース」
「……っ!」
しゃべれるようになった。
毎日毎日、練習していたのだ。あいうえおから。あまり流暢にしゃべることはできないが、それでも会話に不自由しない程度には話せるようになった。
私って成長速い。天才かも。
「しゃべった!?」
「しゃべったよ」
「知能が高いから人間の言葉が話せるのか……? だとしても……。これはあいつに相談だな」
「あいつ?」
あいつとは誰だろうか。
私は首をかしげていると、紹介してやると言ってどこかに連れていかれた。連れていかれた先はものすごいデカい建物。看板には魔物研究施設と書かれている。
私研究される?
「おい、ノスタルはいるか?」
「ノスタルさんなら今あちらに」
「わかった」
ノスタル?
「おい、ノスタル。報告がある」
「その前にそちらのワーナガルムはなんだ? うわさに聞く、お前のペットか?」
「そうだ。いや、の前にちょっと驚くことが起きた。エレキ、頼む」
「うん。ノスタルさんこんにちは」
「……っ!」
私がしゃべったことによる驚きで目を丸くしていた。
眼鏡がずれて、床に落ちる。
「魔物が……しゃべった?」
「驚くだろ!? こいつ喋ったんだよ! すごくないか!?」
「いや……すごいとかすごくないとかそれ以前に……。獣の魔物がしゃべるのなんて聞いたことがない。ワーナガルムは知能が高いとはいえ……人間の言葉を話すなんてのはまず聞いたことがないぞ……」
「俺もない。冒険者家業をしていてワーナガルムも何度か討伐しているが……話しかけられたことはないな」
「だろうな……。もしかしてワーナガルムは話そうと思えば学習して話せるが、人間の言葉を覚えたくないだけなんじゃないか……ってことになる」
ぶつくさと何か考えている。
いや、私が話せるのは多分前世補正もあると思うけど。前世は人間だったしバリバリ話してたよ。いや、前世も割と物静かなほうではあったと思うけど。
「それに、ここまで流暢にしゃべるのも驚きだ。会話もできる。知能は我々と同じ……もしくはそれ以上なのではないか?」
「そういわれればそうだな。たしかにさっきも紹介してないのに俺が言った名前を理解してこいつがノスタルってこと理解していた……」
「誰が誰かもきちんとわかっている。魔物からしたら人間なんてほとんど同じ顔に見えているだろうと思っていたが……きちんと個体を判別しているッ!」
「さすがだ……。飼い主として誇り高いぞ! エレキィ!」
なぜあなたがそこまで誇らしげに。
「キース君! ぜひこの魔物を譲ってはくれないか! いろいろ研究がしたい!」
「だめだ! 一応見せには来たが譲らん!」
「そこを頼む! それに、噂で聞いてるぞ。このエレキくんは変異種だと! 雷を操る力を持つそうだな? それもそれで興味深いのだ! 後学のためにも研究材料を寄越せ!」
と、キースさんに飛び掛かっていた。
私は一応守ってあげるために微弱な電流を爪先に流し、ノスタルさんに触れる。ノスタルさんは少し叫び声をあげた後、そのまま気絶した。
「エレキ!」
「気絶させた、だけ。電流は弱いから死ぬことはない、と思う」
「たしかに心臓は動いている……。……まぁ、こいつの自業自得だし守ろうとしてくれたんだよな! ありがとう」
それでいいのか。腐ってもキースさんの友人だろう。