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リンカーネション

 長老を連れてキースさんの屋敷に向かうとなんだか慌しかった。

 キースさんが玄関から出てきて、私を見てやっと来た!と息を荒くしている。


「どしたの?」

「ダイチとモウリが家出した!」

「家出?」

「3日前……俺らがちょうど帰る目前に姿を消したんだと……。なんか行きそうな場所に心当たりはあるか?」

「いや……。そもそも二人はバカ真面目だし何も言わずに出てくような奴じゃないけど……」


 なんかイヤな予感がする。私の予感は当たるんだ。


「エレキ、二人の匂いを追えないか!?」

「どうだろ……。3日前だから風に流されてるかもしれないし……」

「ふむ、その人間二人が行方不明とな?」

「え、エルフの長老殿!?」

「特徴は?」

「特徴? ダイチは黒い長髪で垂れ目で……最後見た時は白い服だったらしい。モウリはこう、少しだけ髭を生やして黒い短髪の男で、最後見た時は黒いなんか変な文字が書かれた服を着ていたようで」

「そうか。精霊たち、今の特徴を聞いたな? とりあえずこの王都に散らばり探してくるのだ!」


 長老の周りに精霊が集まり、精霊が一目散にばらけた。


「長老、協力してくださるのですか?」

「ああ。孫娘に……その、謝りに来たついで、だ。だが、なぜその二人が突然消えた? 嫌なことでもしたか?」

「いえ……。二人には何も……。異界から来て不安だろうということで丁重に保護しているだけなのですが……」

「ふむ……。となると、誰か勇者を蘇らせようとして二人を誘拐したのかもしれんの」

「……勇者を? なぜ? 復活させてまずいのですか?」

「マズイ。アレは復活させてはならんぞ」


 なんだって?

 勇者を復活させちゃダメ?


「勇者なのでしょう? 復活させて悪いわけは……」

「アレは魔王を倒したから勇者と呼ばれてるだけじゃ。私も魔王の方が気に食わなかったから手伝ったがの、性格はクズそのもの。アレの目的は……自らが王となるために魔王を殺そうとしていただけなのだ」

「自らが……?」

「異界から来たその男はな。自分の独裁国を作るために魔王を討伐した。私とは利害一致していたから手伝ったが……結局、アレは魔王と相打ち。魔王は封印され、勇者は死んだ」

「……魔王とは違って死んだんですか? どうやって……」

「この世界には禁術と呼ばれる物がある。その中の一つにリンカーネションという転生魔法があるのだ。転生させる条件があり、同じ世界にいた者の血が必要なのだ」


 ……勇者は異界の物。

 同じ世界ってことは……この世界の人間じゃダメだったのか。だから……。


「待て。じゃあ、その話が本当なら……以前捕縛した公爵はその勇者を復活させようとしていたのか? 魔王ではなく?」

「大方そうだろう。勇者は一度死んで、人を殺すというのを覚えてしまった。アレはもう躊躇してこんな。リンカーネションを阻止するなら……勇者の魂の転生体を見つけ殺さねばならん」

「……そんなのわかるかよ。誰が」

「いや……前魔王が見つけてた。ちょうどあの武闘大会に乱入する前に……。精霊王様と一緒に見かけた……」


 あの子どもが勇者だと言っていた。

 

「ふむ……。その子どもの年齢は?」

「多分……10歳前後だったと思う」

「キースと言ったか。リンカーネションは結構時間がかかる術でな。術を唱えてこの世界に生まれ変わる。転生体は人間と同じ成長をする。10年前に唱えて勇者が転生した。今すぐにでも平民や貴族の子供が誘拐されてないか調べたほうがよい。人間は転生体なんてわからぬだろうから無闇矢鱈に連れ去るだろう」

「わかりました!」


 復活させるためだけに子どもを誘拐して全員に血を飲ませようと……。

 ……そうなったら血の量が足りなくないか? まずは王都ってことになっていたとしても、子どもは多い。

 いちいち採血するのではなくて、殺して一気に血を抜いて飲ませた方が早い、よな。


「早いとこ行かなくちゃ! 殺される!」

「その考えに至ったか……。そうだな。その誘拐された連中が助かるには早く勇者が見つかるか、早く私たちが行くしかない」

「……クソ、バリーに報告してる暇はねえな! 誰か! 今すぐ直ちに騎士団に行って騎士団長を連れてこい! 俺の名を出していいから!」

「わ、私が行ってまいります!」


 侍女の一人が駆け出していく。

 すると、目の前に馬車が停まった。宝石の紋章が描かれている。


「屋敷の前で何をしてらっしゃるのですか?」

「ジュエル様……」

「焦っておられですが、何か問題ごとでも?」

「ちょうどよかった。今すぐバリーのところに向かって改革派の残党が大きく動き出したと! 緊急だ!」

「へ!? あ、はい。かしこまりました! そこまで焦っているとは……」

「焦るしかない! 異界のアイツらが誘拐された!」

「…………!」


 ジュエル様は馬車に乗り込んで急いで走らせる。

 事態は大きく動き出してしまった。私は……動くしかないと思う。

 貴族のゴタゴタならば、私は関係ないと言い張ることもできたけど……委員長と大地さんも巻き込まれた。

 クラスメイトだったし……助けに行くしかない。


「おい、キース!」

「ガントル、なにかわかったか?」

「俺がいつも行ってるエッチなとこで聞いたんだが、女の一人が貴族の馬車に乗せられる子どもを見たと言っていた」

「それって……」

「他のとこも聞き込みしてみたんだけどよ、そういうのが多くて、中にはうちの子が帰って来ないという話もあった」

「……くそ、本当に手当たり次第10歳前後の子どもを誘拐してる感じだな」

「で、ノエルが子どもと間違えられて捕えられた」

「ノエル、が?」


 キースさんは私を見る。

 ノエルさんが捕まったのは好都合。


「ガントル、ミリアを呼び戻せ! 長老殿、ノエルについている精霊を今すぐ呼び出すことはできますか?」

「精霊王様でなければ無理だ……。私の契約精霊だから今探しているのは……」

「なら全力でノエルの精霊を……」


 と思っていると、茶髪の精霊がこちらに駆け寄ってきていた。ノエルさんの精霊だ。


「うええーーん! ご主人様が誘拐されちゃいましたぁ……」

「アルコバレーノ! 場所はわかるか?」

「ここから下った先にある変な貴族さんのお家ですぅ……。ジュエル公爵家って屋敷に……」

「じゅ、える?」

「……ルビー様が関わっている、んですかね」

「わからん! だが、マズイ。直ちに向かう! 緊急事態だ! 訪問する旨はいらん!」

「うっす」


 私はキースさんを背中に乗せて、まっすぐ向かうことになった。

 








新作も投稿しております。是非ともそちらもよろしくお願いいたします

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