意識を変えねば進化はできぬ
精霊と契約できた三人はとても上機嫌だった。
鼻歌交じりでエルフの里に戻り、精霊と契約できたと告げると、周りのエルフはすげえ!と称賛の声を上げている。が、長老は少し浮かない顔だ。
「精霊王様もどうかしておる……。人間なんぞに契約させるなんて……」
「おじいちゃん……。もう人間に対しての偏見やめようよ」
アンズが辟易したかのようにやめようと言い出した。
そのアンズの目は少し冷ややか。周りのエルフは初めて見るのか、少し固まっている。アンズは周りのことを意にも介さず話し始めた。
「もううんざり。ほかのエルフの皆さんは受け入れてるじゃん。もう昔じゃないんだって。いつまで昔に取り残されてるの?」
「うるさい。聞きとうない」
「そうやって逃げるのもダサい! じゃあそこまで人間が嫌いなら昔の魔王のように人間を滅ぼそうとすりゃいいじゃん! どうしてそんなことしないの!? 口だけ!?」
「それは魔王と同じところに堕ちたくないからじゃ」
「今堕ちてるようなもんだってのがわかんないの!? むしろ実行に移していた分魔王のほうがまだいいよ! ただこんな人間に隠れたところで人間を嫌って悪口言ってるだけってそんな陰湿なことしてていいの?」
たしかに。やってることはまさしくそれなんだよな。
人間を害する勇気はなく、ただただ隠れて悪口言ってるだけ。まさしく今その状況か。ただ……アンズがキレるの初めて見たな。
「人間とかかわんないからいいところがわかんなくてずーーーっと悪いところしか見てないんだよ! 精霊王様だって人間に友好的だよ? それに何の文句があるの? 私たちに精霊王様にケチつける権利なんてあると思う!?」
「それは……」
「おじいちゃんはただただこんな閉鎖的な空間でリーダー面してるだけのただの老害ってだけだよ! おじいちゃんがずっとそのままなら私はもう帰んないからね! いこ!」
と、キースさんたちの腕を引っ張るアンズ。
「ま、待っとくれ……!」
「誰が待つか! そんな頭が固くて今を受け入れようとしない進化しないおじいちゃんは大嫌いだもんね! ふんだ!」
そういって、私たちを引っ張ってフルクのところに向かう。
アンズは怒りながらフルクに口を開けて!と怒鳴ると、その剣幕に気圧されたのか、フルクは何も言わず口を開けた。
キースさんたちは口の中に入っていく。さすがに可哀想だな……。
「私、長老さんを少し説得してみるよ」
「いいよあんな頑固じじい!」
「いや、さすがにね……。愛する孫娘に大嫌いって言われたら傷ついてるだろうし」
「いいのか? ここから帰るのは遠いぞ」
「いいの。私、足早いし。すぐいけるって。先帰ってて」
私はしょうがないので長老のフォローに向かう。
わからなくもない。思い込んでしまったら考えを変えるのも少しきつい。思い込むということは本当に恐ろしいもので、そうだと決めつけたままになる。自分のプライドもあって考えを変えるのはきついという話もある。
その考えが百年単位であればなおさらその固定観念に囚われ続けるだろうて。だからまぁ、わからなくもない。長老の考えも。
私は長老のところに向かうと、案の定涙を流していた。
「長老」
「帰ったのではないんですか?」
「私以外は帰りましたよ。私は別に歩いて帰れるからいいかなって。娘さんから伝言で、謝りに来たら許してあげるとか」
「……じゃあいこう!」
「ただ……人間が悪だって決めつけてるうちは無理っぽいですけど」
「そんな……」
「長老。もういいじゃないですか。あの子の言う通り、人間も昔より進化しています。そりゃもちろん悪いやつもいるかもしれませんけどね。でも、このままエルフだけの閉鎖的な空間でいても、エルフはただただ馬鹿みたく長生きするだけの種族に成り下がってしまいます。人間と友好関係結びませんか? 昔とは違って今は大丈夫ですよ」
ほかのエルフの皆さんは人間を認めているようだ。長老だけが反対していて、長老に禁止されていたから人間のところに来なかったのかも。
「エルフの皆さんには実感できないかもしれません。特に長老は長生きしてるので実感は薄いかもしれませんが、人間も移り変わっていくものですよ。長老がそこまで人間に対しての意識を変えられないのは人間とそこまでかかわってこなかったからだと思います。一度、嫌でも人間とかかわってみてはいかがでしょうか。長老は多分、その目で見なければ納得しないでしょう」
こういう喧嘩は双方の納得が解決の肝になる。
長老の場合は人間に対する意識が昔に取り残されている。今の人間を見せなきゃだめだ。
「ですので、私と一緒に街へ行きませんか? 人間の。そこで判断してみてはいかがでしょう。そこでもしだめなら、私がなんとかアンズちゃんと仲を取り持ちますから」
「長老。行ってみたらどうです? エレキの言う通り、少し意識が変わるかもしれませんよ」
「……わかった。人間の街へいこう。だが、案内役のそなたが知っている町がいい」
「となると結構遠い私の国の王都になりますけど」
「そこで、いい。連れて行ってくれ」
「わかりました。じゃ、早速行きましょ。背中に乗ってください」
私は長老を乗せる。
すると。
「あ、お、俺も行きたい!」
「俺も俺も!」
「私も!」
行きたい人殺到。そこまで人気なの?




