ごたごた
意見は分かれてしまった。
また魔王を倒してしまえば魔王という者に悪評が付きかねないと危惧する者。これ以上悪行をする前に殺してしまったほうが楽だという者。
どちらの言い分も正直、理解はできる。
悪評に関しても今現在悪行をやろうとしているのだから事実無根というわけでもない。だが確実に人間に誤解を招いてしまう危険性もある。それは人間と友好を結びたい魔王様にとって大きな痛手になるだろう。
差別は無知から始まるから。
「エレキはどっちですか」
と、やはり私に聞かれると思った。
私としては決められないというのが本音。正直言うならば……。
「私は……決められないかも。どっちの言い分も理解できちゃうし、どっちの言い分も正しいと思う。だからこそ無理……」
「そうか。ま、そうだよな。なら、折衷案を出すしかないってわけだ」
どちらも決められないのなら双方折り合いをつけられる案を探すしかない。
力になれないな……。私が殺してしまおうといえば殺してるし、殺すのはよくないといえばそっちのほうにいっただろうに……。
「ただ、案を出すにしても時間がないぞ。魔王に我らは手出ししてしまっているからな……。今頃尋ねられているのは確かだし、こんな森でも見つかってしまうだろう。それに……こうしてる間にも人間の国へ侵攻する作戦を立てているかもしれない。早いところ結論付けなければどちらも達成できんぞ」
「猶予がないか……」
どうしたものか。
私たちは話し合っていると茂みから音が聞こえる。かき分けて現れたのは鎧を着た魔族の兵士だった。
私たちは戦闘態勢をとると。
「魔王様! おりました!」
「そうか……」
その魔王が今目の前に現れてしまった。
今にも怒りだしそうな顔だ。魔王はすでに戦うつもり満々のようで、魔王の後ろにはたくさんの魔物や魔族がいる。
本気出してでも我らを殺そうとする強い意志を感じる。
「良くも我にあんな屈辱を! 死ぬがよい!」
「はんっ! やれるもんならやってみろ!」
魔王は剣を交える。
ほかの魔族の兵士はマグヴェルさんたちが相手していた。魔王は剣を交えながら今の魔王様を見据える。
そして、冷たい目を向けていた。
「貴様のような弱い輩が今代の魔王とは情けないな……。我は本気すら出しておらんぞ。もっと全力できたらどうだ」
「こんの……」
「魔王も弱くなったものだな。それで人間を亡ぼせるとでもいうつもりか? 笑わせるな。我一人殺せぬで何が人間を殺すか? よくそんな大口をたたけたものだ。我なら恥ずかしくて顔向けできんな」
魔王は煽る。
その煽りを受けて怒りを増していく今の魔王。攻撃が単調になっていき、ついには黒剣で魔王が持っていた剣がたたき折られ、そのまま私の横をかすめて折れた剣が背後の木に突き刺さった。
「やはりここは殺しておくしかなさそうだな……。我らに危害を加えるのだから、死ぬしかあるまい」
魔王は冷酷な目を向けていた。
あのデュラハン将軍の時といい、冷酷な時はきちんと冷酷なのだ。とっさの判断に関してはもうこれ以上ないくらい神ってる。
これは止めても無駄だろうな。そういうのをほかの五人も理解したようだ。反対していたノエルさんも目をつむっていた。
「危害を加えた。もう二度とチャンスはない……。死ね」
魔王の手から闇の魔力が放たれる。
闇の魔力はどんどん今の魔王の体を蝕んでいった。今の魔王が闇に染まっていく。そして、塵となって消えていった。
闇が消えた。生命の炎が一つ消えた。
「ま、魔王様をどこに……」
「殺したのだ。人間に危害を加えるのなら容赦はせん。貴様らも闇に葬られたいか?」
さっきのことを目撃していた魔王軍兵士たちは黙ってしまう。
「魔族のくせに人間に肩入れするとは……!」
「魔族のくせに……。魔族からもそんな言葉を聞くとは思わなんだ。魔族すらも魔族を差別するのならば、人間と大して変わらんな……。我ら魔族も堕ちたものだ。ならいいだろう。今の魔王軍は我が終わりにしてやる」
魔王様は冷酷な目を向けた。
その目に、魔王軍兵士は固まってしまう。
「失せろ。二度と我の前に姿を現すな」
「は、はいっ!」
そういって兵士たちは去っていく。
「……結局、殺したわね」
「止めても無駄でしたからね。魔王様。早いところ後任を見つけてくださいよ」
「ああ。わかっている。キース殿。先にシャンヴァーラ王国王都に戻っていてくれ。我はしばらくしたら帰る」
「わかった。あまり、無茶しないようにな」
「ああ」
これ以上魔王領のごたごたに巻き込まれるのも勘弁。
「療養に来たつもりがもっと疲れたな」
「いって……。緊張の糸がほどけたら急に折れたところが痛くなってきたぜ……」
「ガントルさんはあとで医者の所に行きましょう」
「とりあえず乗って。全力で走るから」
私は四人を背中に乗せて全力で走りだす。
マグヴェルさんもここに少し残るようだ。




