討伐
「現魔王がそういう感じなのか。それを躾けるためにねぇ」
魔王は魔王城に行くと息子が魔王になっていた。
そこまではよかったらしいけど、なんか知らないけど人間嫌いで、今にも人間に戦争を起こしかねなかったから本気で止めてきたらしい。
「魔族の国で我はお尋ね者になりそうだ」
「魔王に危害を加えたからだろう? どうするんだ。今すぐ逃げ帰るか?」
「それもいいが、このまま放っておくとまた繰り返す。あの魔王を改心させるか、別の者を魔王にするしかない」
「じゃ、お前やれよ。元魔王なんだろ? 適任だ」
「それがそうともいかんのだ……。魔王の座につけるのは生涯一度きりと決まっている。我はすでに魔王をなし崩し的に引退してるようなもんだからな……。魔王の権力だけはあるが、実質的な支配権はもうない」
「うまくいかないものねえ」
じゃあ、魔王の適任を見つけるか、魔王を改心させるかの二択を迫られてるわけだ。
「わが息子だから可愛さもあってやってほしいが……。我はもう人間に恨みはないし、人間と分かち合うようなこともしている。今の人間ならば差別はほとんどないだろう。我としては歩み寄りたい」
「仲良くするというのは俺も賛成だ。第一、魔族の国ができたのは話を聞くに俺ら人間が原因なんだろう? バリーも魔族と国交を交えてもいいとは思ってるだろうさ」
「じゃ、一番手っ取り早いのは後任を見つけることだな。だとすると今の魔王はどうなる? 魔族のしきたりで魔王は一度きりというのがあるだろうが、所詮はしきたりだ。無視はできる。お前さんの言う魔王の性格じゃ、そんなしきたりは無視すんだろ」
「投獄か、殺害か……。一番良いのは殺すことでしょうか」
「魔族のために今の魔王を討つんですか? それはそれで昔とやってることと大差ないのでは……」
今の魔王をどうするかの話題が尽きない。
今のところ、解決案は殺すしか出ていないように思えるが。
「それと、今の魔王を討っても後任が見つからないのでは意味がないわ。誰か魔王になる奴いる?」
「それは問題ありません。元魔王軍四天王に一人適任がいます」
「適任?」
「彼女は勇者と戦ってる際にも和解するように魔王様に進言しておりました。まぁ、その進言で首になされたのですが……」
「誰だ」
「竜人族のマリアンヌという者です。竜人族の里はここから近いですし、マリアンヌは多分そこにおります」
「ただ……昔、首にしてしまったということがあるから受けてくれるかどうか……。我が謝るしかないか」
そのマリアンヌという竜人を王にしようということか。それは受けてくれるかわからんぞ……。
「竜人も魔族に含んでいいの?」
私は思わずそう聞いてしまった。
魔族というのは頭に角を生やしている人間の俗称ではないのだろうかとは思っていた。竜人はまた違う種族なんじゃないかと。
人間で人間の国を作っているように、種族ごとに国を作っている節がある。エルフだってエルフだけの排他的空間でいるわけだし。
「種として違うのならさ、急に王になったとしても魔族の人たちは納得しないんじゃない?」
「そうですね……。そういう問題がありますね」
「となると魔王軍四天王は全員無理ということになるな」
「ですね。私も元人間ですし……。魔族の中から選ぶしかありませんね。ただ、魔王の器にふさわしいのは魔王様が判断するしかありません」
「だな。あの魔王を我は殺して、ほかの魔王を見つける。魔族と人間のために、動くのだ」
「結局殺すんですね……。でも、私は殺すのを反対です」
「ノエル……」
「形は違えど、どうして魔王は討たれるものという認識でいるのですか? そういうのが広まってしまったら結局魔王は”悪”なので討伐しなきゃならないという風潮が出来上がってしまいます。それでいいんですか? 魔王はそう何度も討たれるようなものにしていいんですか?」
ノエルさんの指摘はもっともだった。
魔王が討伐されたという伝承がこの魔王だけに残っている。それならばこの魔王が悪さをしてただけで済むかもしれない。
だけど、また魔王を殺してしまったら……。その事実が知れ渡ったら魔王は悪だという認識を植え付けるかもしれない。ノエルさんが危惧しているのはそこの部分だろう。
「じゃあどうする? 他に案はあるのか」
「代替案はありません、けど……」
「……進まんな。多数決を取るか? 殺すか、殺さないかで」
「俺は賛成だぜ。手っ取り早い」
「私は反対です。ノエルさんが危惧していること、歩み寄りたいのならそういった危険性は少ない方がいい」
「我は殺したい派だ。理由は述べた通りだ」
「私も述べた通り反対です……」
「そうね。私はどちらかと言えば殺す方だわ」
「俺は……あらゆる可能性を考えるとするならば、殺さない」
割れた。




