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王族のにおい

 メイドさんたちが話していたのを聞くと、あの臭いにおいの人はこの国の王子様のようだ。

 王子様は犬が嫌いなにおいをつけなくちゃならないというのがあるのだろうか? と思い、私は乗ってきた馬車に乗ってみた。

 王子のにおいが染みついている。乗れないわけではないが、あまり好んで乗りたくはないな。


「エレキがうちの馬車に……!」

「エレキも王子のお前の家が気になったんじゃないか? だが王城が気に入ったとしてもやらんぞ」

「ふふ、それはエレキ自信が決めること。王城に向かおう!」


 この匂いは香水なんかじゃない気がする。

 私は王城に向かってみることにした。私の予想が正しければ多分、ほかの王族もこの王子と似たような匂いがするはずだと思って……。

 王城につき、私は我が物顔で城の中に入っていく。


「わふ……」


 苦手な匂いが充満している。

 働いているメイドさんたちや官僚の人たちはそこまで匂いはしないが、この王城自体、割と嫌なにおいがしているような気がする。

 ただ、その匂いの発生源というのがあるはずだ。火のない所に煙は立たないように。きっと魔物が嫌う匂いを出す人がいる。香水なんかじゃないことはこの時点で確信した。王城でこの匂いの香水がブームにでもなってない限りこの匂いだけっていうのはない。明らかに香水には興味なさそうな人も歩いているからな。


「しかめっ面しながら歩いてるぞ?」

「嫌いな匂いしてるのか? 俺にはあまり感じないが」

「そりゃそうじゃな」


 と、ものすごく嫌な臭いを放つのが後ろに立っていた。

 間違いない、この人が嫌な臭いをしている人だ。私は思わず鼻をふさいでしまう。臭い。


「その狼は魔物じゃろう。この匂いには耐えられぬ」

「父上? どういうことですか?」

「説明してやる。こちらへ来るがよい」


 といって、部屋に案内された。

 私は鼻をふさぎながら同席したのだった。


「まず、王族には魔物が嫌う匂いを放つという特徴がある」

「……それ初耳なのですが」

「言ってないからの。動物が好きなのはわかっておったから言うのもためらわれたのだ」

「魔物が近づいてこないのはこの匂いのせいじゃ。お前はまだ弱いみたいじゃが、私が近づくとこの通り」


 なるほど。

 魔物を近づけさせないため、か。街を出ると魔物が生息しているし、襲われて命を落とすなんてのは避けて通りたいからこの匂いを出す習性を身に着けたんだろうな。

 私にとってはいい迷惑だ。


「本来ならばこの距離でも近づかないんじゃがな……。この魔物は相当忍耐強い」

「わふ、わふぅうううううう!」

「克服までしようとしとる」


 そりゃ近づけないってのは嫌だから……。

 臭いけど、慣れるしかない。慣れたら私の勝ち。


「ここまで人懐っこいワーナガルムは初めてじゃな。知能が高いが、ある意味馬鹿なのかもしれんな」


 と、王様は笑う。

 馬鹿で何が悪い。いや、たしかに嫌な臭いを感じて逃げずに克服しようとする私はある意味馬鹿なのかもしれないが。


「なるほど……。王、その匂いはなんとかならないものですか? うちのエレキは人を襲うようなことは……」

「しないだろうが、なんともならんな。こればかりは遺伝によるものじゃからな」

「そうですか……。エレキ、辛いな。早く帰ろうな」

「王を前にして早く帰ろうとは。さすがは王族と親友なだけあり図太いの」

「冒険者も兼業してますからね。図太くないと」

「ひどい言われようだなおい」


 私は鼻を押さえていると、扉が開かれる。


「客人へのお茶をお持ちいたしました」

「おぉ、すまんな」


 と、入ってきた瞬間、違う匂いがした。

 なんだろう、そのお茶は飲んだらダメな気がするな。匂いがお茶じゃねぇ。鼻が少しマヒしているがそれぐらいはかぎ分けられる。


 私は持ってきたメイドを転ばせた。お茶が宙を舞い、地面に落ちる。


「こら、エレキ!」

「この犬……!」

「ガルルルル……」

「……? エレキ、何かかぎ分けたのか?」

「わふ」


 私はお茶を前足で指さして、ダメダメというような合図を送る。


「……お茶の成分を調べさせよ! キース、その女メイドを拘束だ!」

「この犬がッ!」


 お手柄かな。

 思った以上に私の鼻は優れているようだ。










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