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魔王領にある温泉

 キースさんはしばらく寝込んでいた。

 マグヴェルさんはそんなキースさんを見かねて、ある提案を出した。


「ここが魔族領か……。初めて入ったぜ」

「そうね……。ここは魔王が治めていた土地、なのよね?」

「はい。あそこに見えるのが魔王城です。まだ魔族の生き残りはいるとは思いますが、我らの敵ではございません」


 魔族領という場所に来ていた。

 ここは昔から禁忌の地されていて、普通の人間は立ち入ることも出来ない。

 魔物、魔族だけがここに足を踏み入れることを許可されるようだ。本来は。


「魔王様が討ち取られてからというもの……魔王領として許可こそされておりますが、皆、人間のように堅実に暮らすことになりました。元々はシャンヴァーラ王国の領であったのですがね」

「へぇ。やはり差別を気にして?」

「はい。我ら魔王軍には確かに国に謀反を起こした罪があります。ですが、我ら以外にも魔族はたくさんおり、生きている魔族には罪がありません。なので、独立を許してもらえたのだと思います」


 差別されることがないように魔族だけの国を作ったってわけだ。


「魔族はエルフと同じ長寿ですからね。まだ、魔王様がご存命……」

「我生きとるけど」

「討ち取られる前に生きていた輩も老人となって生きているでしょう。まだ、人間に対する嫌悪感が拭えていない者もおります故、一応自衛だけはしっかりなさってくださいませ」

「そんな場所になにがあんの? キースさんも連れてきて」

「ここには温泉があるのです。温泉に浸かれば、少しはその体調も良くなることかと思いまして。魔王様がご迷惑をおかけしておりますし、温泉を案内することだけはさせてくださいませ」


 なるほど。

 私たちは歩いていると確かにツノを生やした人を見かけ、こちらに視線を向けてくる。

 どことなく感じるアウェー感。だが、数人の老人がこちらに駆け寄ってきた。


「魔王様……! 魔王様ではありませんか……!」

「魔王様、よくぞご無事で……!」


 どうやら先ほど言っていた魔王が討ち取られた時の魔族のようだ。魔王はというと名前を思い出せないのかポカンとしているが。


「おい、忘れてやるなよ魔王」

「だって数百年も前のことだぞ? 覚えてるわけなかろう」

「なぜそこまで偉そうにしてんだよ」

「これはこれは。ムッシュ様にオルトリス様」

「マグヴェルは覚えてるじゃん」

「アレは律儀な男だから……」


 だからと言って思い出そうとする努力を怠ってるのはどう言い訳するんだ。


「そちらの方々は……。狼の方は魔物のようですが、人間が三人? 捕虜として連れて参ったのですか?」

「いや、こちらは私たちがお世話になっている人間の方々でございます。魔王様の面倒を見てくれています」

「お世話に……?」

「この人たちに魔族に対する偏見はありません。どうか、この人たちは許してやってくれませんか」

「マグヴェル様がそういうのであれば……」


 少し嫌そうな顔をしているがいいらしい。


「すんません、魔族に可愛い女の子って……」

「今聞くことじゃないでしょ馬鹿! 空気読めバカ!」

「いでっ! いでで!」


 後ろでは若い男の人に声をかけたガントルさんをボコボコにしているミリアさん。なんかノエルさんも蹴りを入れている。暴力はありなのか? シャンバラ教徒。


「後ろでその人間が人間に殴られておりますが……」

「あ、すいませんね! こいつがデリカシーとか配慮とかもろもろない、、もので! こいつだけは気絶させて、連れて行きます、ので!」

「えいっ、えいっ!」

「ちょ、やめ……いでっ、死ぬ……」

「私に持たせるつもりでしょ……。荷物増やさないでよ……」


 魔族の老人さんがドン引きしている。


「人間はここまで凶暴なのか……」

「仲間に叱責しているだけです。人間は皆ああではございません!」

「なんか、あの男哀れじゃのぅ」

「可愛い女の子と言っておったな……。ユーロンさんとこの娘はどうじゃ」

「可愛いぞ?」

「マジすか!」


 と、殴られている中立ち上がったガントルさん。

 タフだなぁ。あざが出来ながらも可愛いと聞いて興奮してきたようだ。


「紹介してくれ!」

「……本当に偏見ないんじゃのう」

「こいつの場合、偏見ないというか見境ないだけよ」

「女の子であればいいんですもんね。私とか結構可愛いのに」

「お前らは性格ブスだからな」

「……魔族さん。魔族に伝わる拷問器具とかあるかしら。なるべく長く苦しみを与える系の」

「すいませんでした」


 綺麗な土下座。

 そうやってコントみたいなことをしているとこちらに人が集まってきた。

 どうやら人間を見たということで集まってきたらしい。その目は不思議な物を見る目だった。


「あ、可愛い子がいるー!」

「ひっ……」

「すらっとしたおみ足にたなびく銀髪……。ちょこんと生えた立派なおツノ……。女の子って素晴らしいーーー!」

「エレキ、死なない程度に電気流してあげて」

「うす……」


 私は前足でガントルさんに触れる。


「どうした、エレキ?」

「ゴメンネ」


 私は電気を流した。


「うぎゃああああああ!?」

「ひっ……」

「ごめんなさいね、お嬢さん、こいつが変なこと言って。こんな人間に褒められたくないでしょ? ごめんね。こいつには言い聞かせておくから」

「い、いえ……そこまで悪い気は……。そ、そこまでツノ立派ですか……?」

「え? えぇ。結構イケてるんじゃないかしら。こう……なんかすごい心をくすぐられるようなかっこよさもあるわね」

「……! この人いい人たちだ!」


 女の子が嬉しそうにしていた。

 ツノを褒められるのがいいんだろうか。他の人たちも俺のツノはとか聞いてくる。

 つのの形もいろいろあるんだな。


「ファイトカウのように力強いツノですね〜! 頼り甲斐がありそうです!」

「そ、そうかぁ?」

「すらっとした細いツノ……。でも芯がある感じがするわ。真面目な人なのね」

「えへへ、嬉しいです」

「なにこれ」

「魔族はツノを誇りに思ってるから褒められると嬉しいのだ」

「へぇ。魔王様は……変なツノ」

「おい、我も褒めろ! なんだエレキ! 変なツノとは!」

「だってグネグネしてるし……。さっきの言葉借りるなら、筋も通ってなくて行ったり来たりしてる感じの」

「その通りですね」


 魔王のツノはグネグネ曲がったツノだった。


「この人間たちはいい人だな……! 歓迎するぜ!」

「何しに来たんだ? 案内してやるよ!」

「あ、実はうちのリーダーが少し体調が悪くて温泉に入りに来たの」

「そうなのか! じゃあついてきな!」


 というので、私たちはついていくが……。


「すいませんが、私たちはここで別行動でよろしいでしょうか」

「よろしいですが……なぜです?」

「この魔王領を治めるのはこの魔王様の息子でして。挨拶にでも行ってきます。母親が生きていたと知ったら喜ぶでしょうし」

「え、お前息子いたの……?」

「そうだ! これでも息子がいるのだ」

「「意外……」」

「おい、人間ども。意外とはどういう意味だ」


 この好き勝手やる人の旦那さんは大変だな……。








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