魔王は混沌の僕なり
大剣豪ムサシさんは動きやすい剣士の格好をしているのに対し、精霊王様はいたって普通の私服だった。道着でもなんでもなく、ただいつもの服。
ふああと欠伸をしているのが相手を挑発している厚意と捉えられたのか、ムサシさんは少し怒っていそうだった。
「では、はじめ!」
ムサシが精霊王様に切りかかる。
が、精霊王は魔法を唱えた瞬間、ものすごい勢いの水がムサシさんを襲った。大量の水がムサシさんを押し出し、闘技場の壁にぶつからせる。
水がやんだと思うと、ムサシさんは溺死したかのように口から泡を吹いていた。
「うわ……」
「えっ……」
「これもう優勝決まったな」
その圧倒的な実力を目にして、観客は少し驚いていた。
剣豪ムサシってそんなに強いの?と思うが、この大会に出ているあたり相当強いんだろうな……。あれは人間が出す魔法の威力じゃない。
あの威力で余裕綽々。欠伸をしながら魔法を唱えて勝った姿は舐めプと捉えられて間違いない。が、勝っちゃったので何も言えない。
「ですよねー」
「もう出場停止にしたほうがいいんじゃないかしら。盛り上がりに欠けるわ」
「私も止めたほうがよかったわこれ」
実力が圧倒的に違いすぎる。
いや、まぁ、精霊王だからできて当然だとは思うけど……。これはねぇ。一方的に勝ったからなぁ……。勝負にすらなってない。
実況の人も唖然としていて何も言っていない。
「はーっはっは!」
当の本人は会場が静まり返ってるのも知らずに高笑いしているが……。
「え、えと、勝者、オベロン選手!」
「余裕よ。なんなら選手まとめてかかってきてもいいわ。ハンデとして」
「い、いやそれは……」
「何をなさっているのですか……」
と、舞台の上に国王が上がってきた。
「あら、シャンバーラ王」
「こ、国王様。お知り合いで……?」
「知り合いというか、私より格上だ。精霊王殿」
「せ、せせ、精霊王!? 精霊王って、あのおとぎ話に出てくるような……」
「ああ。その精霊王だ。なぜ参加しているかは疑問だが……。頼むから実力が違うのでやめていただきたい……」
「だって彼女に優勝してくるって豪語しちゃったの。勝つしかないのよ! もう後には引けないわ!」
「彼氏はこの会場にいるのか?」
「いるわ! あそこ! エレキー! やっほー!」
と、会場の視線が一斉にこっちを向く。
なんだろう、このアウェー感。ものすごいやばい視線を向けられている。
「エレキ……? エレキってあのワーナガルムの!?」
「モルガド伯爵のペットの名前よね?」
あ、そういうのは知れ渡られてるんだ。
私は黙って座っていると、ミリアさんとノエルさんがこちらを見る。
「呼ばれてますよ」
「早く行って止めてきなさい」
「うっす……」
なんでこんな目に合うんだろう。
私は観客席から飛び降り、舞台の上に上がる。
「……そういえばそうであったな」
と、小声で耳元でささやいてくる。
そういえば私たちの関係知ってるんでしたもんね。
「この場をどう納めます? もう精霊王ってことごまかしは聞きませんし、私があのワーナガルムって結び付けられてますし」
「どうしたものか……」
「ふふん。どう? 私の彼女かっこいいでしょう? 彼女のために優勝を捧げると約束したの!」
「有頂天でまるっきり話ができる状態じゃない……」
この精霊王様厄介すぎるだろ……。
私はちらっと会場に続く道を見るとキースさんが少しあきれたような目で見ている。そして、はぁとため息ついてるのも見える。
「精霊王様。もういいです。人間がかわいそうなのでそこらへんで……」
「さぁ! 誰でもかかってくるがいいわ!」
「だめだ私の話すら聞いちゃいねえ!」
「エレキ、引きずっていくがよい! この場は私が納めるから精霊王様のフォローを……」
「はーっはっは! なにが武術大会であるか! とう!」
と、どこからか嫌な声が聞こえる。
こんな調子のいい声は……。
「我参上! こんな面白そうな大会があるなんて知らなかったぞ! 我も参加させろ!」
ザ・厄介者。魔王様。
魔王様は改心しても戦闘が好きらしく、こういう戦いの場を望んでいたみたい。武闘大会があると今さっき知ってマジで飛び入りで参加しようとしたのだろう。
キースさんはというと、胃の辺りを抑えている。これは私悪くないし……。
「はーっはっはっは! 我の相手は誰だ!」
「精霊王様……。次の相手あいつです」
「わかったわ! 魔王! 覚悟するのよ!」
「げっ、精霊王……。なぜここに……。今さっき戦ったばかりであろう!」
「さっき飛び入り参加したのよ! さぁ! 戦うわよ!」
状況はカオス極まれり。
結構続いている武闘大会。その大会をぶっ壊したのがこの二人……。観客も魔王って聞いて少しおびえているし。
こういうカオスな状況が書いてて一番楽しいです。




