怒らせたら怖い人
私は今精霊王様と王都の観光をしていた。
観光と名ばかりのデート。片方は人間の見た目だが、もう片方は狼なので他人から見たらデートとは言えないだろうな……。
「人間の街って見ない間に結構開拓されているのねぇ~。この串焼きもなかなかイケるわ」
「でしょ? うまいでしょう?」
「そうね……。魔物の肉なんて初めて食べたわ。この甘じょっぱいタレには薬草も入ってるからそういう効果もあるのかもしれないわね」
「わかるんですか?」
「食べたら何が入ってるかぐらいはわかるわよ。すごいでしょう?」
食べて食材当てられるタイプの人だ。舌も確からしい。すごい。
「っていうか精霊王様って食事するんですね」
「うーん、本来はしなくてもいいのよ。ただ、永く生きてるとやっぱり暇じゃない? 食事って娯楽なのよ」
「そういうものなんですか」
「今はあなたという恋人がいるし、いつもし・あ・わ・せ♡」
「さいですか……」
精霊って食事しないイメージがあったが、しなくてもいいが娯楽としてものを食べるという感じなんだな。
こうして触れ合わないといつまでも幻想を抱くばかりだったな。
私たちは食べ物を食べつつ歩いていると、精霊王様がふいっと突然路地のほうを見る。私もそれにつられて路地のほうを見ると、小さい男の子が誰かを庇うように悪漢の前に立ち塞がっている。
「あの子……。なにかすごい力を感じるわ」
「すごい力?」
「闇の精霊と光の精霊があの子の周りを飛び回っているの。あれは勇者ね」
「そうだとも!」
と、背後にいつの間にか魔王が立っていた。
「魔王……」
「はーっはっは! あれは勇者の力を秘めた子供であるな! 我を討った勇者の子孫と捉えてもいいだろう。早いところ芽は摘みたいが……」
「ちょっと。あんた誰?」
と、精霊王様が少し不機嫌そうだ。邪魔されたからだろうか。
「って、魔王じゃない。良くも邪魔を……」
「ほほう、精霊王! なぜここにいる?」
「愛する彼女とデートの最中なのに……!」
「彼女? 人間や精霊の姿は見えないが?」
「この子よ!」
「エレキが彼女なのか!?」
と、素で驚いていた。
まぁ、無理もない。
「精霊王のデートを邪魔する魔王、覚悟しなさい」
「こ、この町中でやめろ! 迷惑だろうが!」
「おお、迷惑を考え出した」
「許しておくものか……!」
と、精霊王は魔王に飛び掛かり抑え込む。すると、辺り一面の地面から木の根っこのようなものが飛び出し魔王を羽交い絞めにする。
その光景に、男の子を脅していた悪漢も、周辺の人もぎょっとしてこちらを凝視していた。
精霊王様は気にも留めず、魔王を攻撃するというだけの意思を抱えている。
「じゃ、邪魔したのは悪かった! 街中で迷惑だろっ!」
「シ・ニ・ナ・サ・イ」
「ちっ、これは正当防衛!」
魔王は魔法を使う。
木の根っこを焼き切り、魔王も戦闘態勢をとっていた。これは面白がって眺めてるときじゃないね。私は強引に二人の間に割り込む。
「エレキちゃん、そこを退きなさい」
「エレキ、助かった!」
「精霊王様。あまり怒らないでください。魔王は今無害ですし、彼女は私と精霊王様が恋仲だっていうことを知らなかったんです」
「……そう。わかったわ。今回だけよ。許してやるのは」
「助かった……。では、我はあの男の子を助けてくるのでな!」
そういって魔王は男の子のほうに急いで走っていった。
この精霊王様、邪魔されたらこんなにキレるのか……。精霊王様のせいでここら一体がほとんど壊滅状態になっている。
「精霊王様、これを元に戻せませんか?」
「そうね。デートの邪魔になるものね」
治せるのか……。
精霊王様は魔法か何かを使い、ここら一体を元に戻していたのだった。この人はあまり怒らせないようにしよう。死にかねない。




