初めての魔法
泥棒を追い払い、また再び眠りにつく。
もう何日もこんな姿だからすっかり慣れてしまった。むしろ人間の時より自由で……とてもいい生活をしている気がする。
私は再び目を閉じようとすると、馬の匂いがしてきた。
馬車の音も聞こえてくる。帰って来たのだろうかと思っていると知らない匂いが私の前に立っていた。
前を見ると、キースさんの隣には爽やかなイケメンが立っていた。うわぁ、イケメン二人は画になるなぁ。目の保養……。
「こいつがそのペットか?」
「ああ。かわいいだろ」
「可愛いっつーよりカッコいいだが……。これが変異種。電気を纏ってないが」
「エレキ、起きろ。電気を纏ってるところを見せてやってくれ」
と、頼まれた。
しょうがないなと立ち上がり、私は遠吠え。そして、少し走り回るとバチバチと電気が起こる。
そして、少し経った後は毛が逆立ち、バチバチと電気を放っていた。
「おぉ!」
「あまり近寄るなよ。感電するから」
「あ、あぁ。だがすごいな! この狼は! 俺もこんなカッコいいペットが欲しいな。父上は魔物が苦手だから無理なんだけどな」
「狼はいいぞ。ワーナガルムは知能も高いから俺の言ってることがわかるんだ」
「へぇ……。僕の言うことも聞くかな」
「どうだろうな。お前の婚約者のマリエルはすぐに手懐けていたぞ」
「……あの子は犬の扱いがとても上手いから」
「お前犬に嫌われるもんなー」
うん、なんとなくわかる。
このイケメンは多分香水かなんか使ってるんだろうけど、その香水、ちょっと匂いきつい。
犬避けみたいな感じの匂いがする。あまり嗅ぎたくない匂いだ。
それに、前の女の人、マリエルというんだ。可愛い名前だ。
「エレキちゃん、雷放ってみて」
「わふ?」
「お前人の庭で……」
「いいじゃん。なんか壊したら賠償するから」
「……はぁ」
やっていいの?
ならやる。私は二人にはギリギリ当たらない範囲まで離れて大きくジャンプ、そして、体内に溜めている電気を全て放った。
バリバリと電気が茂みを少し焦がし、驚いた馬がいななく。
「……な? 弁償しろよ」
「予想以上……。ものすごく光ってたし、ものすごい電気だ」
思い切り放電してやったぜ。
放電し切ると妙な解放感がある。それはまるで今まで禁欲していたかのような。
「これは手懐けてないと危険だね。よく懐いたものだ。敵として立ち向かってたら何人死んでたことやら」
「とりあえず火をついてるとこ消火しねえと燃え広がる! 早く消火だ! バリー、お前水魔法得意だろ!」
「"ハイドロウォーター"!」
バリーと呼ばれた男の人の手からものすごい量の水が出て来た。燃え盛っている火に当たり、火は消える。
これが魔法……! 無から有を生み出した……。すげえ! これが魔法! 初めて見た!
「お、エレキ水魔法好きみたいだぞ」
「本当か?」
私はもっと近くで見たいと思い、そのイケメンの近くまで行くが。なんか、嫌な匂いがマジでするので近寄れない。
私は顔を少し顰める。
「近寄って来れないの?」
「みたい、だな」
「なんでだろ……」
「……匂いじゃねえの?」
「あ、そうか。鼻が効くもんね。犬が苦手な匂いを放ってんのかな俺って」
たぶん。
臭い。ものすごく臭い。