彼女はあまり責められない
その暗殺者の処遇はというと。
「キース様! お茶淹れたっす!」
うちで雇うことになった。
キースさんは本当は処罰しようとしていたが、私が流石に可哀想と言っちゃったがために結局罪に問うことはあまりできず、6年間衣食住だけは保障するだけのただ働きになった。
王子もちょっと苦笑いを浮かべていたな。
「ありがとな」
キースさんはお茶を手に取り飲むと、お茶を飲む手を止めた。
「なんか入ってないか? お茶に変な味がするが」
「あ、プルンネルの根っことチョーセンギクの葉っぱを煎じたものが入ってるっす!」
「どっちも毒じゃねぇか!」
「えええ!? 捨てないでくださいっすよ!? 毒ですけど毒じゃないっす!」
どっちも毒なんだ……。
「どういうことだ? 俺を毒で殺そうってことか?」
「違うっすよ! あまり知られてないんすけど、プルンネルの根っこの独島チョーセンギクの葉っぱの毒って拮抗作用があるんです。拮抗されてできた成分は疲れとか吹っ飛ばす効果があって……。毒だって使いようによれば薬にもなるんす! 無断で入れたのは悪いんすけど……」
「拮抗……そんなのあるのか? エレキ」
「まぁ……あるやつもあったね」
前世でもそういうのあったな。トリカブトの毒とふぐ毒のテトロドトキシンが拮抗し合うとか言う話もあったぐらいだ。
毒が拮抗して無毒になるというのはまぁあり得るとは思う。
「だがまぁ……なんか疲れが少し回復した感じはあるな」
「ですよねぇー! 恩人様に毒なんて盛らないっすよ! 本来は投獄されてもおかしくないのに!」
「それはわかってたんだな……。ま、お前のこと信じるよ。お茶ありがとな」
「キース様……!」
そういって、扉を閉めて出ていった。
私はちょっと気になって聞き耳を立ててみる。だがしかし、大声で叫んでいるのか、扉越しでも結構な声で「キース様素敵しゅぎる~~~~~!!!」なんていう限界突破の声が聞こえた。
現実でもああいう女ヲタクいたなぁ。というかうちのクラスにいたなぁ。生徒会長に恋してヲタク言葉出てた女の子。
「信頼はしてもよさそうだねぇ」
「そうだな。ま、彼女も生きるために雇われて、生きるために殺しを重ねていたんだ。人が生きるためにあがくことは責められることじゃない」
「それが殺しでも?」
「まぁ、俺らは生きるために生き物とか殺してるからな。そこをとやかく言えるようなことは俺らもしてないから」
「そうなんだ」
キースさんも結構そういうのに理解あるタイプなんだなぁ。
冒険者っていう第二の職業を持っているのがその価値観の理由なんだろうか。
「ま、彼女のターゲットとなった貴族で死んだのはほとんどいないというのが大きかったけどな。彼女は暗殺者としては未熟で、完全に仕留め切れてなかった」
「そうなの?」
「詰めが甘かったみたいでな。ほかに雇われていた暗殺者曰く、彼女の後をつけていって、獲物に手をかけた後に息があったのが多かったからそいつらが殺していたんだと。暗殺者としては二流だぞあいつ」
「えぇ……」
「戦闘に関しては文句なしのようなんだが、暗殺者は戦闘をするような仕事じゃないからな……。あれは根本的に暗殺者に向いてないっていうのもあるし、誰も大体殺してないから、俺もあんまり責めないんだよ」
たしかに暗殺者が戦闘なんてほとんどしないイメージがあるな。
ターゲットを殺したら逃げるというだけで。戦闘が得意な暗殺者って……。たしかにそりゃ向いてないわ。
でも、それでもキースさんは責めないんだ。死んでないとはいえ心臓にナイフを突き立ててんのに。
「キースさんって結構優しいですよね」
「だろ? 俺は甘々なんだよ。だからこんな面倒ごとばっか引き寄せるんだろうな……」
「でも優しいからその人格に人が寄ってくるんじゃないですか?」
「そういうもんかね?」
「そういうもんだと思いますけど」
優しい人の周りには優しい人が集まる。
現に私の知り合いとかに悪い人なんていないしな。




