情緒不安定な二人
キースさんが目の前ですッ転んだ。
私はまた再び精霊王様が淹れてくれた世界樹の葉っぱのお茶を飲みながらどうしたんですか?と尋ねる。
「お前……お前なぁあ~~~!」
「えっ!?」
「ナイスというべきか、なんでこんなタイミングでというかっ! お前本当にふざけんなよ」
「えぇ?」
キースさんは少しやつれているように感じた。
精霊王様はキースさんを見て苦笑いを浮かべている。
「この人、生きてるだけで苦難をしょい込む人ねぇ」
「可哀想……」
「まぁいい! こほん。エルフ様で、あっていらっしゃいますよね?」
「そうでーす。エルフの里からやってきたアンズちゃんでーす。居候させてほしくて」
キースさんはもう一回ずっこけた。
「居候!?」
「うん。外の世界見たいって言って出てきたんです! で、拠点が必要だなって! なんでもしますからここにおいてください!」
「な、なんでも?」
「あ、えっちなことは恋人とかとしてくださいね!」
「わかっている……。なら、頼みたいことがあるのだ! 私とともに来てくれないか」
「おっけーです!」
キースさんは大慌てだった。
馬車に乗り込み、急いで王城に向かっている。私もなんとなく乗ったがついていっていいのだろうか? と思いつつ、私は精霊王様のほうを見る。
キースさん、エルフに用事があったんだろうか。だが、それだとしてもこの精霊王様を無視するとは……。
王城につき、キースさんは息を切らしながらも国王のところに走って向かっていた。
「国王様!」
「キース、エレキは見つけたか?」
「見つけましたし、なぜかうちにエルフもおりました……」
「なんだと!? なんでなのだ!?」
「うちのエレキが連れてきたみたいで……」
「どもー! 国王様ですかー? 私はエルフのアンズちゃんでーす! よろたん~!」
アンズは元気よく挨拶をかましていた。
「お、おう……。その耳はホンモノのエルフであるな……。エルフ殿。少々頼みがあるのだ」
「いいよん! キースさんの家においてもらうっていう取引で何でもするって言っちゃったし!」
「そ、そうか……!」
「…………」
キースさんの心労が絶えない。なぜかエルフも家に置くことになってしまった。
話を聞くと、つい先日瀕死状態になって息を吹き返してはいた騎士団長様の容態が急変したということだった。
魔力が複雑に絡み合っており、人間の技術では限界があるとして、エルフに力を借りようとしたってことらしい。
私たちはその騎士団長が眠っている部屋に向かうと。
「こんなのも解けないの? 人間ってちょっと支援したほうがいいのかしらね」
「……あの、そちらは誰だ?」
「さぁ……。急いできたものですから名前すら尋ねておらず……」
「精霊王よ。ふむ、この程度ならなんとかなるわ。余裕ね。エレキちゃん。私のかっこいいところ見ててね。エレキちゃんのためならなんだってしてあ・げ・る♡」
「ありがとう、ハニー……」
「きゃぁあ~~~~~!」
精霊王様は騎士団長に両手をかざし、全力の回復魔法をぶつけていた。
「嬉しいからあらゆる病気とか治してあげちゃう!」
「さすがです、精霊王様! ってあれ? キース様たちは?」
「倒れてるわね。どうしてかしら」
「いや、あんたらのせいだろ」
キャパオーバーしちゃったんだな。
エルフだけでも相当なものなのにキースさんが失礼な対応をしていたのはまさかの精霊王様だったし。
キースさんはすぐに目覚め、ものすごく平身低頭で土下座していた。
「申し訳ありません精霊王様! ろくな対応もできず……」
「いいの! 私は今幸せだからなんだって許してあげちゃう! あ、これつまらぬものですけど」
そういって、精霊王様は木の枝を取り出していた。
木の枝を受け取るキースさん。なんだこれ?と頭にはてなを浮かべていた。もちろん言葉には出していないが、顔でそう語っている。
「世界樹の枝よ!」
「ちょっとエレキ、こっちこい」
と、キースさんが手招いて私を廊下に連れ出した。
「なんで精霊王様と知り合ってんだよ! 精霊王様はひどく人間が嫌いで、エルフもそれに然りだったはずなのに! どういう関係になった!」
「か、カップル……」
「は、はぁ!?」
「あっちが私に惚れちゃったらしくて……です、ね。あの、付き合うことに……」
「お前……身分差とかそういうの大変なんだぞ……」
「でも、付き合わなかったら付き合わなかったでキースさんのこと殺しに行ってましたよ!?」
「……なぜ?」
「私をペットとして飼ってるってことで……」
「ありがとう」
キースさんの額は冷や汗がだくだくと流れていた。
精霊王に知らず知らずに殺されかけていたというのはビビるよな。私もビビる。というか、現在進行形でなぜか知らないが付き合ってるのもビビるしウケる。
「とりあえず、国王をたたき起こせ。寝たままだというのは精霊王様の手前失礼だ」
「わ、わかりました……」




