孫娘と祖父心
エルフの村はなんていうか、自然と一体化したようなものだった。
でかい木の中に部屋を作ったりしているし、私でも入れるような感じでとてもデカいし。なにより、女の子可愛い。エルフは美人さんしか産まれないんだろうか?
「エルフ可愛い〜」
「やだ、照れちゃいます」
「君ってナチュラルに口説くよね」
「自分に正直に生きてるだけですケド」
色々と我慢はしたくない性格なんで……。
「エレキさんって狼の時もモフモフでかっこよかったですけど、今のやる気なさげな感じも凄い素敵です!」
「やる気ないようにやっぱ見えるよねぇ」
結構やる気出してる方なんだけどな。
私はまずはエルフの長老の家に向かうことになっていて、目の前にはものすごくデカい木があり、扉がついている。
「ここが長老の家! ハイエルフで、私たちより永く……それこそ悠久を生きてるんだ。あまり失礼のないようにね?」
「アンズ、それは自己紹介か?」
「私は長老の娘だからいいんですぅー。長老の娘だから偉いのだ〜!」
アンズってお調子者の匂いがするな。
案内役のアンズさんとカエデさんが扉を開ける。
家の中から柑橘のいい香りが香ってきた。柑橘、か。この世界にもあるんだなー……。
いい匂いだぁ……。
「柑橘のいい匂いだねぇ」
「え、柑橘の匂いするの?」
「もともと狼だから鼻がいいんでしょ。長老の奥さんは柑橘が大好きだからね」
「そうなんだ! いいなぁ。鼻が利くの羨ましい!」
ここじゃあまり香ってこないのか。
あの扉から漏れ出てるけど。あそこはもしかして柑橘の栽培部屋かな。あとで入れないか聞いてみよう。
私は長老の家の中を歩く。
「ほっほ。これは……ワーナガルムに水神殿。我がエルフの里に何のようですかな?」
「長老!」
「おじいちゃん! じっとしててっていつも言ってるのに!」
「いいじゃないか。客人は出迎えんとな……。悪さするかもしれんし?」
「僕は長老とだけは戦いたくないよ……」
フルクがそうこぼした。
この長老、強いんだぁ。それこそフルクトゥスドラゴンが戦いたくないというぐらいには。
強さの指標がコイツってなかなか頭おかしいけど。
「私も悪さはしませんよ……。ぐうたらはしますけど」
「そうかそうか。まぁ、フルクとは儂もあまり戦いたくはないからのぅ。改めて、儂はエルフの里の長老、プロテアという。よろしくの」
「よろしくお願いします……」
「さてと。エルフの里に来たんだから世界樹でも案内してやんなさい。アンズ」
「りょーかいです! あ、おじいちゃん、私、外の世界に出てもいい?」
「それはダメじゃ!」
「えー!」
「外の世界は危険がいっぱいなんじゃ……! 人間はずる賢いからすぐに攫われて奴隷にされちゃうぞい!」
あー、この人めちゃくちゃ人間に偏見あるし、なんなら孫大好きエルフだ。
奴隷制度なんて今は違法だし、キースさんっていう苦労人に預ければそこまで危険はないと思うし、アンズさんもこの長老の娘なら強そうだし……。
「人間だって……強いんじゃぞ。いくらアンズといえど……」
「フルクにすら勝てない人間がどうしろと」
「だねー。アンズちゃんも長老の血引いてるからマジで強いもんね。そこら辺の人間はイチコロだね」
「ほら、この人たちもそう言ってる!」
強いなら自衛も充分だと思うけど……。
「行かせてくれないとおじいちゃんのこと嫌いになっちゃう」
「うぐ……だが、嫌われてでも儂は……!」
「1000年口聞いてあげない」
「ぐあっ……」
さすがエルフ。口聞いてあげない年数が段違いだ。
長老は血を吐いてその場に倒れたのだった。孫娘からのダメージがエグすぎるだろ。
アンズはふんっと顔を逸らし、行くよと私の手を引っ張る。
「いいの?」
「いいの! 私は外の世界を見たいのに! わかってくれないおじいちゃんが悪いの!」
「孫娘が心配なんでしょ……。それぐらいはわかってあげなよ……」
「そうじゃ……! ワーナガルムよ、よく儂の心を……!」
「いつのまに後ろにいるんだよあんた……」
なぜいるんだ後ろに。




