死体を見た
やはりこの世界では奴隷制度は違法らしい。
合法なところもあるらしいが、少なくともこの国は違法であり、奴隷商売にかかわっていたやつら全員をつるし上げていくのだとか。
キースさんもこれ以上領地に残る理由はないとして私たちはモルガド領を後にする。
「で、その呪いで男の人になったってことですか?」
「すっげぇかっこいい……」
「ガントルよりいい男じゃん。へぇ。エレキが男の子になったらこんな感じになるんだぁ」
ガントルさんたちにも私のことを報告すると少しにやにやしていた。
だがしかし、その表情はすぐに戻る。
「そういえばキース。ちょっといい?」
「なんだ?」
「冒険者として依頼でモルドレッド伯爵家の屋敷に行ったのよ。Sランク以上の腕前を持つ冒険者パーティがいいと先方が言ってきてね。で、私たちがいったんだけど……」
「そこでな、人の死体を見た」
「人の死体?」
「罠だったんだよ。命からがら逃げてきたんだけどな……。なんか知らねぇけど、異世界に行くために犠牲になってくれだとか」
「……キースさん」
「わかってる。お前ら、よく逃げてきた」
異世界に行く方法を知ってしまったからこそ、なんとなくは理解した。
異世界に行くためには奴隷が必要だったのだ。もう一度異世界に渡ろうと奴隷を買おうとあの場にいたようだ。
「その人の死体は新しかったか?」
「いや……。外傷もなにもなくてよ。死んだのが不思議なくらいきれいな死体だったが……」
「死んでからは時間が経過したような感じでしたね。それこそ……あの異界の二人がこの世界にやってきた3か月くらい前ぐらいの死体でした」
「縄で縛られてた跡はあったけれど傷と言ったらそれぐらいね。で、死体を見つけたのがばれて私たちはお尋ね者よ。うかうか外出れなくなったわ」
「だろうな。あの死体を見たものは生かしてはおけないだろうな。殺人はもっとも忌避される犯罪だからな。ちなみに死体はいくつあった?」
「21……。ものすごく多かったわ」
「で、こちらの世界に戻ってきたのは6人。1人は……」
「私があっちの世界で殺したからねぇ」
私が殺した男も異世界の住人だったのだ。
ナイフを突き刺し殺したからこそ戻ってこれなかった。死んでしまったらあちらの世界に取り残されるようだ。
「これ以上あっちの世界に行かせるとあっちの世界が混乱してしまう!」
「だからこれ以上行かせるのはダメだね……。こりゃ本腰を入れて改革派を止めないと」
「あっちの世界ねぇ……。俺は行ってみたいけどな。どんなのか見てみたい」
「私も私も。どういう世界なんだろ」
「冒険者としては好奇心がくすぐられますねぇ」
「俺も気にはなるが、やったらだめだからな」
あまりいいもんじゃないよ?
だがしかし……。これ以上改革派をこのままにしておくのは流石にマズイ。あっちの世界とこっちの世界が混ざり合ってしまうかもしれない。
それに、あっちの世界からまた人を連れてくるかもしれない。そうしたら困るのは国なのだ。改革派はおとぎ話のような、魔王を異世界人に打ち取る物語を再現しようと、自分らに忠実な勇者を探しに行くはずなのだ。ただでさえ二人を連れて帰ってしまったのにこれ以上連れて帰るとあっちもパニックになる。
「改革派はいったい何がしたいんでしょうかね。ニュースとかたびたび入ってきますけど……」
「そうね。魔物の凶暴化とかいろいろやったんだっけ?」
「もうだいぶ派手に動いてるな。派手に動いてもかまわねぇってくらい計画が進んでるのかもしれねぇぜ?」
「そうだな……。もう、姿を隠さなくなってきている。もう手遅れのところまで来ているかもしれないが、とりあえず……。この国に何かがあったときのために、お前らは逃げる準備だけはしておけよ」
「そうね……。そうするわ」
そういって三人は部屋に戻っていく。
「私が悪役を買おうか? 改革派一人一人、魔物に襲われたっていう体で殺そうか」
「物騒だな……。それもありっちゃありだが、主人として俺が認識されてる。建前はどうであれ俺も糾弾は避けられない。だからその案は却下だ」
「そっかぁ」
私はしょうがないので、とりあえずあのドラゴンのところに行くことにした。
もう疲れたから少しゆっくり休むんだあのドラゴンのところで。




