◇ 奴隷オークション
俺は少し頭を抱えていた。
「うちの領地で奴隷のオークションがやってる?」
「ああ。今回同行したのはそれが目的だ。その調査に来た。騎士団も連れてきただろう?」
「なぜ連れてきたかと思えばそういう理由かよ……。ったく、どこの馬鹿だ、うちの領地でやるなんざ……。俺と王子が親密だっていうのは結構有名だろうに」
「だからこそ仲を引き裂きたかったんじゃないか? お前の友人は禁じられてる奴隷売買をしているぞってな」
バリーの言葉は正しい。
現に、俺の領地でそういうことをしているとばれて立場が狭くなるのは俺だ。俺より先に誰かが気づいてしまったら、俺が真っ先に疑われることになるだろう。
実際、バリーはそういう情報をつかんでしまった。ただ、バリーだけでまだ情報が止まっているのが救いか。友人のよしみで調べに来たんだこいつも。
「奴隷はオークション形式で売られているらしい。あからさまにばらしたいのか、奴隷を売買する日時と場所まで特定はできた。潜入して調べてみるか?」
「そうだな。調べないことにはまず始まらないだろ。どこで行われる? 日時は?」
「日時は明後日の夜から。場所はティアマルト村だ」
「そんなところで……。領地ぎりぎりのところじゃないか」
「だからこそだろうね。あまりお前の目の届くところでもやりたくなかったんだろうよ」
だが、領地ぎりぎりのところでも領都からは割と近い。そもそも領都すら割と領地ぎりぎりのところにあるのだ。
半日馬を飛ばせばすぐにつく。
「村民には視察という旨を伝えておこう。急に行っても困るだけだろうしな」
「わかった。これから忙しくなるね。エレキもつれていく? 人間になったとはいえ鼻が利くでしょ」
「ああ。帰ってくるのを待とう。今はいないんだ」
「わかった」
俺らはエレキを連れて行こうとしてエレキが返ってくるのを待ったが。
「……まさか帰ってこないとは。仕方がない。俺らだけで行こう」
「どこをほっつき歩いてるんだか……。エレキって前々から自由すぎるよ。もっと躾たら?」
「元人間とは言え魔物だぞ……。機嫌を損なったらこっちが死にかねん」
「だね。さて、見えてきたよ」
ティアマルト村が見えてきた。
ティアマルト村は酒がおいしいと言われている。わが領の名産品がこの村で作られる酒だ。俺も酒だけはこの村から取り寄せて飲むくらいには美味い。
村民は俺らを出迎えてくれる。
「困ったことはないか? 前の季節より収穫量が落ちたとか」
「少し落ちましたが気候の問題ですな。それより最近……なにか人の出入りが激しいんですよ。観光客がたくさん増えましてなぁ」
「そうか……。その観光客はおかしなこととかしてなかったか?」
「自分たちはちょっと傷アリの人間だから探らないでほしいと言われましてな。犯罪を犯したわけでもありませんし、あまりみとらんです」
「そうか……」
「でも一昨日、その人の馬車から鎖でつながれた人が出てきてたよー?」
と、子供の無邪気な発言。
俺とバリーは顔を見合わせる。
「どこで見た? 教えてくれないか?」
「いいよ! こっち!」
そういって、男の子が案内してくれたのは川付近にある廃墟だった。
ここはもともと村があったが、ティアマルト村と統合してこちらの住居は使われなくなった。使われなくなった建物を取り壊すのも費用が掛かるためそのままにしていたのだが……。
「ここらへんで遊んでたらあそこに馬車が止まっててねー。人が下りてきてたんだ」
「そうか。情報ありがとう。誰か送っていってやれ」
「はっ。では私が」
あそこ付近でオークションが……と思っていると、馬車がぞろぞろと集まってくる。中には貴族の馬車もあった。
紋章を見ると家が分かる。あれは……。
「改革派のモルドレッド伯爵家と中立派のラウンデル侯爵家だ」
「あの二人も奴隷についてみて見ぬふりしているのか。俺らも潜入しよう。この仮面をつけたまえ」
どうやらオークションは仮面をつけて行われるらしい。
買った人の身分を明かさないためだとか。俺もつけて、そのオークションの客についていく。
「さてさて、突撃の合図は俺が出すからな。エレキがいればひと暴れしてもらったんだが」
「あまり話してる時間はないようだぞ。もう始まる」
司会の男性が大声でオークションへようこそ、といってルールを説明していた。
そして、奴隷のオークションが始まる。
「まず初めに~? 見た目麗しきイケメン! マダムは虜に間違いなし! この奴隷だぁ!」
と、出てきたのは。
「なぜいる」
「なんでいるんだ?」
エレキだった。




