人攫い
オーガが去った後、私はその人間の頭骨に近づく。
死んでしまってからは祈ることしかできないが、来世ではいい人生を送れるようにとだけ願い、遺留品を集めて土に埋めることにした。
ほとんどオーガに食われている。
残ってるのは骨と着ていたであろう衣服、そして首輪のようなもの。
犬につける首輪とかそういうのには見えない。ただ、ロープが繋がれている。不思議だ。
「なんの首輪……むぐぅ」
首輪を見ていた時だった。
油断していた私の背後から誰かが私に何かを嗅がせてきた。布にしみこまれた薬品のにおい。私はその匂いを嗅いでいると、少し、意識がまどろむ。
ゆらゆらと、ゆりかごの上のように揺れる脳内。自然と瞼が重くなってくる。
私はそのまま、意識を手放した……。
◇
『おかーさん! 今日大会だから7時に起こしてっていったじゃん!』
『そうだったかしら? 大会は明日じゃなかった?』
『今日だよ! もー! 私が先発なんだから遅刻したらダメなんだってぇ~! いってきます!』
玄関の扉を勢い良く開けて出ていく私の姿が見える。
そういえばやっていたなぁ。中学の時、ソフトボール部に入っていた。結構強いチームだったので、私は毎年全国大会にも行ってたな。
中1のころからレギュラーを勝ち取っていたのもあり、私は運動というか、ソフトボールに関しては大得意だった。野球が好きだったからソフトボールも好きだった。
駅について、練習大会の練習校に新幹線で向かう。
ユニフォームに着替えて、私はマウンドに立ち、投手としてボールを投げた。だが、撃たれた。撃たれた弾は私の肩に当たる。
肩からものすごい音が鳴り、私はあまりの痛さに、そのまま肩をおさえて膝をついていた。
そうそう。私はこれで肩を痛めたんだ。
バッターの人はものすごく悲しんでたな。あのあと、罪悪感から彼女もソフトボールをやめちゃったって聞いた。
ガチでやってた分、ガチでやってる人を潰してしまったというのは罪悪感がすごかったんだろうな。
んで、ここはどこだろう。
私は異世界にいるはず。いや、待て。あっちが夢だということはないのだろうか。私はまだ中学生で……。
ああ、夢か。夢なんだ。
「……はっ」
目が覚めた。
知らない馬車の上にいるようだ。なぜか手には枷がはめられており、鎖でつながれている。
「夢ならばどれほどよかったでしょう」
私は思わずそう呟いてしまった。
私の枷についている鎖はほかの人にもつながっているようで、どうやら周りの人たちも囚われたひとたち。
「どういう状況だこれは」
「私たちは売られるんですよ……」
「売られるぅ?」
「奴隷として……」
「奴隷? この世界にそんな制度あんの?」
奴隷制度なんて初めて聞いた。
そういう単語もキースさんたちの口から飛び出したことはない。だがしかし、この移動している馬車には若い男性や女性が乗せられていて、ただならない雰囲気を感じる。
どうやら私も人攫いに攫われて奴隷として売られるようだ。なんてことだ。
私は少し混乱していると、馬車が止まったようだ。
後ろの入り口が開き、降りろと命令が下る。誰だこの男は。それなりに裕福そうに見えるが……。私は指示に従いながら、男を観察してみる。
檻に入れられ、一人一人枷を外され、鉄の手錠をつけられた。
「よしよし、大人しくしていろよ。自害とか考えんなよ? 大事な商品なんだからなお前らは」
「…………」
私は手を後ろにやり、雷で手錠を破壊する。
商品か。あの男は奴隷商人とみて間違いないな。こういう異世界ものでは奴隷制度はあるやつとないやつがあるが、このシャンヴァーラ王国はある国らしい。
今まで聞いたことなかったからわかんなかったけど。
「さてと。捕まったことをどうやって伝えよっかなー……」
「無駄なあがきはよしなよ……。逆らったら鞭で打たれるよ……」
「鞭で打たれる、ねぇ。そんときゃ反撃させてもらうからいいよ。んで、どうしよっかなぁ。どうやってこっから抜け出すか……」
「抜け出そうなんて無理です。手錠だって付けられてるのに……」
「それに関しちゃ大丈夫。奴隷ってどういう風に売られるかわかる?」
「えっと……オークションとか言ってました。高値を付けてくれるとか」
「オークション。オークションね……」
となると、そのオークションの時に暴れ散らかすのがいいだろうな。
あまりしたくはないけど、人殺しも視野に入れなくちゃ……。




