特級呪物
内容は……うん。その、なんだ。私は前世ではスポーツ少女でだったが、そういうのには割と関心があったヲタク。女ヲタクだった。
自分で言うのもなんだが、ヲタクに優しいギャルを体現していたような存在だった。
が、これは正直ひどかった。
「ドラゴン、強い、強いぞー。これに勝てるのはヤマダ ハルヒコ様しかいないわー……。きゃ、きゃー。ハルヒコ様よ〜……ぁぁああああああ!!!」
大地さんが本をぶん投げた。
そして。
「もう、やだ……。帰りたいよお母さん……」
弱音など吐いてこなかった委員長が弱音を吐いていた。
共感性羞恥がものすごくヤバい。何がヤバいかっていうと、主人公がある日突然異世界に!? そこは自分みたいなぼっちが優遇される世界で!? 女神様からチートをもらったぞわーい! 俺この世界ではモテモテだぁ〜!というような、もうライトノベルでテンプレをことごとくぶち込んでしまったせいで逆に不味くなってるというか……。
とんかつに天ぷら粉をつけて揚げたものをさらに小麦粉で揚げてさらに片栗粉をまぶして揚げたような胃もたれ感。
精神がおかしくなる。
「貴重な文献を! なにすんだてめえ!」
「もう嫌です! 開始数行でもう嫌でしたが、もうこれ拷問です! 大体、あなたたちの名前も知らないのに使われる謂れはないです!」
「それもそうだ! 遅れたな! 私はモルドル・モルガド。こっちはサイトゥー・モルガドだ。これでいいだろうか?」
「言い訳あるかァ! なに人様の黒歴史を追体験させてくれやがんだこの野郎!」
「委員長、言葉遣い言葉遣い」
「転生してもチートなんて与えられるわけねえし、転生してきたんなら察しろやボケェ! 夢見てんじゃねぇよ異世界にぃ!」
「いや、でもほら、私はこういうふうに転生してんじゃん」
「だからといって転生する日本人にわざわざチートスキル与えますかね?」
それもそうだけど。
「この書物は読める人間を狂わせる魔力があるらしい」
「呪いかよ……。解読しない方がいいなこれは」
豹変してしまった二人を見て、モルドルさんとサイトゥーさんはそういう結論を出した。
「なんならもう50音早見表みたいなの作って解読してもらえばいいって思ったけどこの小説、無駄にルビにわかんねえカタカナ使ってるしな」
「それに漢字も厄介だから無理だよ……。日本って言語難しい国なのにさ……」
「僕たちが読むしかないんだよ……。奇しくも現代日本から転移してきた僕たちがさぁ……」
「もういいです。こうなったら蜘蛛の糸のほう読みましょう。こちらの方はなんとか大丈夫です。だって芥川龍之介ですもんね」
そう言って、蜘蛛の糸を音読し始めたのだが。
「恥の多い生涯を送って……」
「人間失格じゃねえか!」
蜘蛛の糸の書き出しじゃない!
私は思わず突っ込んでしまった。そして、さらに音読していくと。
「蜘蛛の糸で無双する異世界ファンタジーになってきましたけど……」
「芥川じゃなくてこいつは塵芥だろ」
蜘蛛の糸のパチモン作るなよ……。
文才もないし……。全部最後の文がだったで終わらせんなと思った。
「ロクなのないな」
「結論がそれってもう今までの努力全否定」
「これもう常用漢字とひらがな、かたかなの早見表作った方がまだマシだよ。スマホあるし常用漢字は調べられるから……」
「もうそうしたい……けど変なルビが……。太陽って書いてシャイニングと読ませるくらいには変だからな。そしてなんてったって主人公がまさかのキラキラネーム。宇宙って書いてピッピ。"スペース"とかじゃなくて、ピッピ。ポケ○ンか?」
ここまで変な読み方されると早見表作ってもほとんど無駄になるというか、漢字全部に大体変なルビが振られてる。
闇という単語の頻度も高く、その度に読み方が変わってる。もう闇でええやん。なぜダークマターとか暗黒とか使うの? 漢字に漢字のルビを振るな。
「これもう現代が生み出した承認欲求の魔物みたいな本だ。雷で焼き焦がしてあげよう」
「それがいいですね」
「ちょっと待て! 焦がすのはダメだ! 側から聞いていてもわからんが、処分するな!」
いや、これ日本人にとっては劇毒みたいな書物なんですけど。呪いの本だよマジで。
共感性羞恥がとてつもない速度で襲ってくる本。もうこれ人為的な災害か何かなんですけど。
無知、というのは本当に恐ろしい……。
「これならまだエロ本を朗読した方がマシです……。あんっ……とか、そういう喘ぎ声を出した方がまだ……」
「……この先に唐突なエロシーンあるが読むか?」
「嫌です。これ以上私にトラウマを植え付けないでください」
「だがいいストーリーだったな。王道でとても素晴らしい」
「そうだなサイトゥー」
「……嘘でしょ?」
私たちの感覚がおかしい?
エレキの役目
大地さんが日本語で読んだ内容を復唱し、サイトゥーたちに理解させること。




