日本語で書かれた書物
ということで、キースさんに頼み込み、モルガド伯爵領にやってきた。
キースさんはあまり乗り気じゃないようだ。一方、なぜかついてきた王子様とルビーさんは結構ノリノリ。
「久しぶりですね。あの伯爵様と会うのは」
「…………」
私は馬車を引きつつ、モルガド伯爵領につき、モルガド伯爵領の領都にあるモルガド伯爵家の別邸にお邪魔することになった。
使用人の人が出迎えてくれ、中に入っていく。
「キース様、旦那様と兄様は今研究棟におります」
「最初に言っておく。うちの兄上は結構ムカつくやつだし、父上は変人だ」
「そこまで注意するほどですか?」
「お前ら……文字と結婚しようとするバカと付き合えるか?」
キースさんがそういうと委員長たちはだいぶ怪訝な顔をした。
うん、文字と結婚? バカですか。いや、日本とかにも二次元と結婚しようとしてるやついるし、なんならいるし人のこと言えないと思うけど……。
業が深すぎる。
そういう性格だと踏まえて、私たちは研究棟の方に案内されていく。
モルガド家は言語学者であり、それを職業にしているらしい。この国で一番言語に精通しているのだとか。
研究棟の扉を開けると。
「だぁああああ! なんなんだよクソがっ! こんなのわかるわけねえ! まずどの文字がどの文字と対応してんだこれはぁ! 何が言いたい!」
「はぁ……わからない文字が……私を刺激するぅ……。はぁ……はぁ……」
と、玄関先でノートを蹴り飛ばしている男の人と、涎を垂らしながら地べたでペンを持って興奮している男がいた。
ああ、ヤバいやつや……。
「旦那様、キース様が……」
「おや、おやおや、キース! 久しぶりだねぇ! 僕たちの研究に興味があるのかなぁ? 今僕たちは王から命令を受けていてね。この言語の解読をしてるのさ!」
と、本を見せてくる。表紙にはタイトルのようなものが書かれており。
「"推しアイドルに捧ぐポエム集"?」
「…………っ!」
私が読み上げると、そのキースのお父さんが目を見開く。そして、私の前足を持ち上げた。お前すごい力だな!?
「キース! この狼、この言葉わかるのか!?」
「みたい、だな……」
「なんと! ならば仕事が早い! 給金を出そう! 肉か? 肉が欲しいのか? 欲しければくれてやる!」
「これ、日本語ですよね?」
「ニホンゴ?」
大地さんがその本を手に取った。
「いかにも痛々しい本だね……」
「黒歴史を研究されるって可哀想……」
どうやら日本語で書かれているらしい。
もちろん、わかってしまった二人をこの変な人が逃すわけもなく……。
「わかるのか!? この言葉がわかるのか!? ならば話が早い! 君たち、この本を読み解くのだ! 金ならキースが出す!」
「なんで俺だよ」
「え、えぇ?」
「いいですけど……」
委員長はキースの父親の背後にある本を眺めていた。
私も見てみると『ぼっち高校生、異世界でチートを使って無双する』とか『転生したらゴブリンだった件』とか『蜘蛛の糸』とかなんだかパクってこの世界で出版しようとしたのが見える。
「だいぶ痛々しい……」
「目を逸らしたくなっちゃうね……」
「蜘蛛の糸とかはまだしもこの世界で異世界チート無双なんて流行らないよな」
「エレキさん、論点そこじゃない……」
委員長は本のタイトルを見て拒絶反応を起こしていた。
「い、委員長、そういえば将来の夢は本の編集者とかでしたよね」
「……もうその夢は諦めた。大地さん、君こそ、こういうのは得意だろう?」
「夢は諦めちゃダメですよ! まだ叶います!」
押し付け合いが始まった。
まぁ、私はページを捲れないし参加できないとはしても。日本から転生してきてやることが自作小説って転生しても陰キャみたいな感じで少し悲しくなってくるのやめて欲しい。
「二人がいれば早く終わる! 借りてもいいか!」
「……まぁ。いいけど」
「よっしゃ!」
そう決まってしまったようだ。
「ではでは、早速読み解いてくれ! この世界の文字に書き表してくれ!」
「……俺が読むんで、字が綺麗な大地さん」
「いやいや、私まだこの世界の文字書けませんし……」
「嘘をつくな! この前書いていただろ!」
「簡単な文字しか書けません〜! 読むのは完璧ですから読む方です! エレキさん、いいですよね!?」
「い、いいけど……」
「よし、レディーファースト!」
「くっ……」
読む方も地獄だけど、これを文字に書き表すの嫌だよな。




