エリザベスカラー
最初はキースさんと対峙して。死ぬかもしれないとわかったら服従の意を示して。
それから……いろんなことがあった。いや、そこまでか? でも、結構緩い日々を送っていた気もする。こういう異世界転生ものは兄貴がよく読んでいたが……結構苦戦を強いられていたなー。
チートスキルを持っていても苦戦する敵。どうやったら勝てるんですか。
私には実際のところ、チートスキルなんてのはない。
生まれついた種族が強かったってだけだと思う。戦闘のセンスなんてまるっきりないし、ものすごくぐうたらだし。
でもまぁ、楽しかった。楽しかった50日間じゃったよ……。
「おろ?」
気が付くと王様が目の前に立っていた。
「おろろ? 死んでない? 思いっきり死んだような走馬灯みたいなもん見えたけど」
「気が付いたか」
「あら、王様……」
「まずは……貴殿の働き感謝する。よくぞ王都を守ってくれた」
「え、あ、はい」
私は自分の体を見ると、腹部に包帯が巻かれていた。そして、なんかペットがよく骨とか折ったときとかにつけるようなエリザベスカラーがつけられていた。透明なのはいいけどこの首輪つけられてる感覚嫌だわぁ……。
というか、もうこの扱い完全にペットですやんか。
「あのー、誰が私をここまで?」
「騎士団の面々だ。騎士団長は一時期死んでいたようだな」
「そうですね……。電気を流して蘇生してみましたが」
「……電気というのは蘇生できるのか?」
「そうですね……。あまり時間がたっていたら無理ですが、心臓が止まった直後とかは電気ショックを与えると再び動き出したりしますよ」
「そうなのか……。電気、か。我々には扱えん……」
そりゃこの世界電気なんてものがないもの。
発電所もないし、自分たちが見る電気なんて雷くらいだ。
「それが異界の技術なのか。異界は心臓を動かす技術が……」
「ですね。自分たちの体のことをよく調べてますから。っていうか王様も私が前世の記憶があることを知ってるんですか?」
「ああ。息子から聞いた」
あの王子が口を漏らしたのか。
「人間のことを知れば、それを医術に応用できますからね。この世界じゃ回復魔法で済ませてますが、異世界だと魔法なんてものはないので、自らの手で傷を縫合し癒すしかないんですよね」
「なるほど……」
「それよりこれ外してくださいよ。異界の記憶があるってわかってんならいらないってわかるでしょ? 患部絶対いじくらないんで……」
「そ、そうだな。外してやれ」
と、命令されてエリザベスカラーは外された。
なんていうか、少し素朴な疑問なんだけど、時折この異世界ではありえないようなものを見るんだよな。エリザベスカラーなんてこの世界じゃ絶対ないだろと思うような異界のもの。
こんなに普及しているのはちょっとおかしいというのはあるし、エリザベスカラーを理解しているというのもなんか違和感がある。
もしかしてなんだけど、この世界って昔、そういう日本とか地球から連れてこられた人がいるのだろうか。
「……気になるな」
「なにがだ?」
「いや……結構昔の文献とかあったりします? 王都守った功労にそういうのちょっと読みたいなって思って。知らない言語が書かれた書物がいいんですけど。それをその、異界のダイチさんたちと読みたいんです」
「なら、君の保護しているキースの父、アビス・モルガドを尋ねるといい。言語学に関しては彼に任せているし、読めない書物は彼に解析を頼んでいるから」
「じゃ、そうさせてもらいます! では私はこれで!」
「あ、おい……」
私は窓から飛び降りて着地。傷口に響くぅ……。




