あの日覚えた痛みを僕たちはまだ知らない
バトルレオは拳を大きく振りかぶり、私のどてっぱらめがけて繰り出した。
私は躱し、一気に放電するが、射程距離外まで素早く逃げられ、電気は当たらない。戦闘のセンスは私よりだいぶあるっぽいなぁ……。
ここは怪我を覚悟でやるしかない。
私はバトルレオのパンチを一発受ける。
腹部に拳がめり込んだ。爪が突き刺さり、ものすごく痛い。そりゃもう尋常じゃないくらいには。人間でいうときの、ものすっごい思い生理の日みたいにきついパンチだ。子宮にもろ直接届いたような感じ。実にヘビーだぜ……。
だがしかしなぁ! この程度は慣れとんのじゃ! 人間だったときは生理ものすごく重かったからな……。嫌な慣れだぜ……。
「つっかまえた……」
私は前足でバトルレオの後頭部を押さえつけ地面にたたきつける。そして、そのまま電撃をすかさず食らわせた。
私の中に溜めている電気を一気に放出。電気が放つ光がここら一体を包み込み、プラズマと化してバトルレオの体が燃えていく。
「自然界での雷は恐怖の象徴だからなぁ!」
バチバチィ!と電気があたり一面に流れ、バトルレオはとうとう動かなくなった。それどころか、肉体が焼け焦げ始めて、どんどんボロボロの炭のようになっていき、粉々に砕け散っていく。
私は放電を止めてバトルレオを見ると、見るも無残な姿になっていた。
「ふぅ。討伐成功。騎士団長のほうは?」
「団長大丈夫ですか!? しっかり!」
「…………」
騎士の人たちが騎士団長に声をかけているが、何の返答もない。
鎧を脱がして、騎士の一人が胸元に耳を当てる。
「……死んでる」
「嘘……だろ?」
と、心臓が動いていないらしい。
いや、まだ死んではない。心臓が止まってまだそこまで経過してないはずだ。私自身、バトルレオとの戦闘は5分もかかってない。
だからまだ心臓マッサージをすれば……。いや。
「どいて」
私は前足の爪を器用に右胸と左わき腹に突き刺した。
「何するつもりだ隊長に!」
「まだ死んでないと思う……。蘇生してみる」
高校の時に習ったAED講習。
電気ショックを流して心臓を動かすとかそういう奴。そういう電気の調整はちょっと難しいができなくもない。
ぶっつけ本番でできるかどうか……。すべては私のセンスにかかってる。死んだらごめんなさい。
「蘇生、だと?」
「心臓が停止した程度ならまだなんとかなるかもしれないってだけだよ……。電気を流して心臓を再び動かすってだけ。失敗したらごめん」
「ふ、副団長よろしいのですか?」
「構わぬ。失敗しても死、やらなくても死なのだから結果は変わらん……。可能性があるのならそれにかけるべきだ」
「ありがとうございます。じゃ、やってみます。副団長は団長さんについて胸骨圧迫……カメの手みたいにして胸の辺りを一定のリズムで衝撃を与えてください!」
「わかった!」
なるべく弱く……。
「電気を流すからちょっと離れて!」
私は弱く電流を流すようにちょっとだけ意識した。電流が爪から流れ、ドクン!となにか鼓動のようなものを感じ、隊長の体が少し浮かび上がる。
「一人心臓が動いてるかどうか確認して! 電気は通らないから!」
「りょ、了解です」
一人が心臓に耳を当てる。
「動いておりません!」
「もっかい!」
私は再び電気を流す。
ちょっとだけ電流を強めた。感電死しないよなぁ?
「人工呼吸!」
「じんこう、呼吸?」
「胸骨圧迫を一時中断して、団長の鼻を押さえて口から自分の息を吹き込んで、息を吹き返さなかったらまた胸骨圧迫を再開!」
胸骨圧迫をし続け、人工呼吸をして、そしてもう一回電気を流した。
その時だった。
「ぷはっ……」
と、団長が息を吹き返した。
通常の呼吸に戻り、心臓も通常に作動しているようだ。私は爪を引っこ抜き、とりあえず爪を差し込んだ場所の止血と手当てを急がせる。
「胸のあたりの骨は胸骨圧迫のせいで折れてると思うから……しばらくは絶対に安静というか、私はそういう専門じゃないから一回医者に見せたほうがいいよ」
「そう、だな。誠に感謝する」
「いいってことよ」
よかった。対応をちょっと覚えていた。
転生する前日くらいにAEDの講習をしていたからな。ありがとう教育。おかげでちょっと応用することが出来たよ。
「パラダイスモンキーたちもありがとう。働きは見事だったよ」
『いえいえ! 我らの使命は人間たちを守ること! 今となっては我々は楽しいんです。助けた人間からたまにお礼をもらえるんですよ!』
「おー」
『いいことをしたらいいことが返ってくるものですね! では、私どもはこれで!』
と、手を上げ、パラダイスモンキーたちはどこかに去っていった。
さて、と。
私はちょっと目を閉じた。
あのパンチ、思った以上に体に来ていたみたい。というか、一か月前ぐらいに戦ったあのワーナガルム(炎)の傷もまだ完全には癒えてないし、ダメージが……。
気絶しそうなくらい、まだ痛かった。




