引っ越し祝い
フルクトゥスドラゴンと少し会話をしていた。
何百年か前にとある王国を滅ぼしたという話を聞いてみると。
「あれは……あの国がちょっと最悪だったから……」
「それで滅ぼしたんだ……」
「あ、今のシャンヴァーラ王国は違うよ!? 結構王様もいい人っぽいし好きなんだ! ここに来たのもきれいな泉もあるし、魔物も少なくていいところだからっ……」
この泉が奇麗すぎたから越してきちゃったらしい。
一応、私の会話してる内容はあとで王様にも伝えるとだけ言うと、いいよと言ってくれた。私はあんが来たから王都の人たち避難の準備を始めたというと。
「あはは……。驚かせちゃってごめんね。僕は襲うつもりはないからさ……。襲いそうになったらエレキさんが止めてくれると嬉しいな」
「あんたみたいな私より大きい魔物を止められるか! 鱗とか電気を通さないんだろ?」
「うん。雷に強いんだー。あ、そうだ。鱗あげるから王様に引っ越し祝いとしてあげてくれないかな」
「そういうとこ律儀だなオイ」
というかこの世界にも引っ越し祝いみたいな文化あるの?
フルクトゥスドラゴンは体を振るい、鱗を地面に落とす。ぽとぽとと落ちる鱗の一枚を咥えて、私のそばに置いた。
「フルクトゥスドラゴンさんさ、ドラゴンの心臓ってわけることできる?」
「心臓!? 無理無理。死んじゃう」
「だよね」
「なんで心臓が欲しいの?」
「あー、私が人間に戻るのに必要だから」
「えっ、人間なの!?」
「前世はね。前世で死んで転生して、この姿になって、女神様曰く、手違いで元に戻すにはドラゴンの心臓が必要なんだってさ」
「シャンバラ様が? うーん、なら僕のは上げられないけど、今すぐ違うドラゴンを殺して来ようか? 戻れるんなら何のドラゴンでもいいんでしょ?」
「……」
おい、もう解決策出来ちゃったじゃん。
「……今はこの姿を楽しみたいし、まだいいよ。本当に戻りたくなったら頼むことにする」
「うん、楽しみに待ってるね、友達に頼られるのは初めてだから張り切っちゃうよ」
「絶滅させそうで怖い」
張り切って絶滅とかさせたら笑えない。
「さて、私はちょっと行くよ。またたまに会いに来る。人間たちがちょっかいかけてくるかもしれないけど、大目に見てあげてね」
「うん、住まわせてもらってるし大丈夫だよ」
私は鱗を加え、急いで王城に向かうことにした。
王城はあわただしく動いており、金品などを運び出していた。私はそれを止め、王様に会わせろというと、私の持っている鱗を見た王城の人はすぐに王に謁見させてくれた。
王は急いでいるのか立ち上がったまま話を聞いてくれる。
「あの、さっきそのフルクトゥスドラゴンと話してきたんですけど襲うつもりはないっぽいですよ?」
「……なぜわかる?」
「フルクトゥスドラゴンと話せましたから。これ、引っ越し祝いだそうです」
「…………」
王は絶句していた。わかる。私も同じ立場なら絶句する。
「鱗……?」
「意外と重かったです。彼女は友達が欲しかったみたいで、私と友達になりましたし、この国を亡ぼすつもりはないと言ってましたし、大丈夫だと思います」
「……そうか。エレキが言うのなら、そうなのだろうな」
「あのドラゴンは人を見てます。きちんとした政治をしていれば……あのドラゴンに強い危害を加えなければなにもしないでしょう」
「わかった。とりあえず避難はやめておこう。エレキの言うことを信じる。そのドラゴンと話せるエレキに少し頼みがあるのだが」
「頼み?」
「わしが言うことをフルクトゥスドラゴンに伝えてほしい。内容は……」
と、ドラゴンに王の言葉を伝える伝令役になったのだった。




