一難去ってまた一難
キースさんにはそりゃもうこっぴどく叱られた。
攫おうとしてきた人も現にいて、ルビーさんを危険にさらしたこと、無断で出て行ってキースさんはおろか、ハルカード男爵にも迷惑をかけたことなど。
それは反省しておりますです。
だがしかし、それと同時に実行犯が指示した犯人の名前をばらしてしまったこともあり、王主導のもと、身柄を確保し、尋問をかけているようだ。
で、結果的に犯人は改革派のモルドレッド・マリオン侯爵家の犯行だそうだ。王子の婚約者を狙っていたがなれず、改革派に寝返りこの国を潰して自分の婚約者を王子にとか訳の分からないことを考えていたらしい。
普通に考えて王族がなくなったら近い血縁関係の人から選ばれるのではと思った。
「平和になってもいまだにルビーさんの呪いは解けず……。そろそろ東方から呪いの専門家が到着する予定ですけど」
「ですねぇ。キースさんも調べてくれていますが、大した成果は得られてないようですし……。その、本格的にあのおとぎ話を試してみるべきでしょうか……?」
「そうしようそうしよう。王城にいこいこ」
私はルビーさんを連れて王城に向かう。
王城の前で、門番さんが私を止めてきた。
「エレキ殿。入る許可はもらっているか?」
「もらってないけどちょっと緊急事態で……」
「要件は?」
「王子様に用事があるんです、ルビー様のことについて少しありまして」
「わかった。確認を取ろう」
そういって、確認の兵士が中に入り確認を取ってきた。
許可が取れたということで、私は中に入り、王子の部屋に通された。王子は机で何か執務を行いつつもなんだい?と優しい口調で声をかけてくる。
「突然で悪いのですが王子様」
「死んでもらいますとでもいうのかい?」
「ルビー様とキスしてもらいます」
「予想の斜め上」
王子は驚いて固まっていた。
ルビーさんが私から降りて、王子にとてとてと四本足で近づいていく。王子は顔を逸らし、ルビーさんを直視できずにいた。
「なぜそんなキスしろと!」
「これで呪いが解けるかもしれません。王子様のキスで……呪いが解けるというのはよくある話でしょう?」
「それはっ……! 創作上でだろう!」
「まぁまぁ、物は試しです。ルビーさんはやる気みたいですよ?」
私がそういうと、ルビーさんのほうをちらっと見る。ルビーさんは何も言わず、ただただじーっと王子を見つめていた。
王子はため息をつく。
「わかった。キスぐらいならお安い御用だ……。人の気も知らないで……」
「お手柔らかにお願いしますね……?」
「あ、ああ……」
と、キースさんは猫のルビーさんを抱え、口を近づける。
王子は相手がルビーさんだとわかってるからやりづらいんだろうなー。私も見てるし。ちょっと恋愛ドラマみたいで興奮してる。
ゆっくりと、口を近づけ、そして、王子とルビーさんは熱い口づけを交わした。
その時だった。ルビーさんの体が徐々に大きくなっていく。王子の手から離れ、猫の体毛がなくなっていき、人間の姿に戻ったのだった。
だが、キスが素晴らしいのか二人はやめるつもりはない。そのまま窒息しろ。
数秒後、キスを堪能し終えたのか、二人は離れて、ルビーさんは自分の体をまじまじと見ていた。
「も、戻ってます!」
「本当に戻るのか……。東方から呼び寄せた苦労が……」
「いやぁ、お熱いもの見させてもらいました……」
リアルでキスシーンなんてめったに見れないよ。
「どうしてキスで呪いが解けると?」
「ハルカード男爵から私とよく似た状況のおとぎ話を聞いたんです。真実の愛の相手と口を交わらせるとき、呪いは解かれる、と……。私たちの愛の証明ができましたね」
「ハルカード男爵……。あの読書家か!」
「キースさんもハルカード男爵の家に呪いに関する本がないか探して尋ねたんですよね。で、私たちもちょっと探してたらハルカード男爵におとぎ話をネタバレされて」
「それで、もしかしたらと思ったんです。まぁ、一週間ほど前の話ですけどね」
王子は解くヒントは身近にあったんだなと呟いた。
やはり書物というのは正義。そういうのを蔑ろにしちゃいけないな。
「そうか……。ハルカード男爵にはあとでお礼をせねばな。それより……なにか体におかしいところはないか?」
「特にはございません。たまには猫になってみるのも面白いですね。また猫の生活をしてみたいです」
「もう勘弁してくれ……。私の婚約者が変身癖ついたら嫌だ……」
「そうですか……」
それに変身したら手に負えなくなるだろ。ルビーさんって意外とおてんばお嬢様なのだろうか。
王子はまた執務室の椅子に座り、はふっと息を吐いた。その時、扉が開かれる。
「大変です王子! 王都付近の森でフルクトゥスドラゴンが目撃されました……」
「なんだと!?」
何そのドラゴン。




