読書家ハルカード男爵
キースさんは相変わらず忙しそうに動いているし、ガントルさんたちも冒険に出かけ、委員長たちはこの国の言葉も理解できるようになってきたから少し探検してくると告げて出ていった。
キースさんの屋敷は今日も人の出入りが激しい。
キースさん自身も今調べ物をしている様子で、本を集めている読書家として有名なハルカード男爵の屋敷にやってきていた。
ハルカード男爵は読書家といわれるのも納得なくらい、図書館のような蔵書があり、ハルカード男爵も博識で、そろそろこの王都に我が家の本を置いて、誰でも観覧できる仕組みを作ろうとかという話もしていた。
「モルガド伯爵様は何の本をお探しでしょうか? 言っていただければ私も探しましょう」
「呪いに関しての本を探している」
「呪い? 失礼ですが、誰か呪いたい相手でもいらっしゃるので?」
「いや、興味があるというだけだ。呪いというのはよくない面もあるが、そういう文化もある。知っていて損はないだろう」
「そうですか。わかりました。ただ、呪いに関してはこの国の本より呪いに詳しい東方の書物のほうがよろしいですかね。となると……このあたりでしょうか」
そういって、近くに会った本棚から本を数冊取り出していた。
キースさんはその本を受け取り、読みふけることにしたようで、キースさんが本を読んでいる姿を見てハルカード男爵は。
「なんと素晴らしいお方なのだ……。学ぼうとする意志を未だに見せ続けてくれる……! やはり尊敬できるお方に違いない」
と、なぜか感動していた。
「あ、エレキさん、猫ちゃん。おもてなしの準備ができました。モルガド伯爵様の邪魔をしてはいけませんし、こちらへどうぞ」
「いえ、おかまいなく……」
「にゃあ」
「いえいえ、ぜひぜひ……」
「……私もちょっと本を読みたいな、なんて」
というと。
「なんと……! 貴殿もまた知見を深めようとする旅人の一人……!? 魔物でありながら知識を吸収し人間に適応しようとしているその勇姿……。ではでは、私が読み聞かせてあげましょう! どの話がいいですかな!? まずは軽くおとぎ話とかからいかがでしょう!」
「わお、グイグイくるぅ。って、これこの国の文字じゃないね? 読めるけどなんか変?」
「これも東方のおとぎ話です。あらすじといたしましては、とある国のお姫様が悪い貴族様に呪いをかけられて犬の姿になってしまったというお話です。結末がとてもロマンチックでしてね……。真実の愛である王子様とキスしたら……人間に戻ったのですよ」
「ネタバレ禁止!」
「はっ……!? 申し訳ありません! 私というものがネタバレを……! ただ、ネタバレありきでもこの作品は面白いのです!」
「ったく……」
ネタバレなんて聞きとうないわ。
そう思い、しょうがないので読んでもらおうとすると。
「エレキさん、エレキさん」
「なんですか?」
「さっきネタバレされたおとぎ話……。今の私の状況にそっくりじゃないですか?」
「……言われてみれば?」
たしかに共通点が多い。
呪いで姿を変えられたこと。真実の愛をはぐくんでいるのは王子であること。まるでおとぎ話……。かっこいい言い方でいうとフェアリーテイルみたいに。
「あの、ハルカード男爵。そのおとぎ話って実際にあるんですか?」
「どうでしょうねぇ。東方は呪いの文化もあるといいますし、あまり想像はできませんが、人間が動物に姿を変えられてしまうという呪いもあるかもしれません。おとぎ話っていうのは完全に空想のものもありますが、事実をもとに言い伝えとして残すものもございます。なので実際にはないとは完璧には言いづらいですね」
「…………」
「おとぎ話は言い伝えに便利です。子供にも読み聞かせられますし、簡単で覚えやすいですから。おとぎ話の奥深さはまだあり……」
「あの、もういいです……」
「そうですか……。私は話し始めると長くなる性格ですので……申し訳ない」
いるいる。それをヲタクというんだよハルカード男爵。




