猫ちゃん、猫ちゃん
キースさんはルビーさんをしばらく面倒見ることになった。
ルビーが猫になったと知るのは王族とキースさんと私とルビーさんのご両親だけとなる。キースさんは王からその話を聞いた時に。
「それ以上先は言わずともいいです。これ以上聞くとまた私になにか厄介ごとを任せられる気がします」
「はっはっはっ。はっきり言うのぅ」
「異界の男女も我が家で面倒見てるのです。これ以上何を任せられるのですか」
「聞きたいか?」
「いえ。絶対に嫌です」
「ふむ、では命令だ」
「卑怯だろ」
キースさんはそうして、ルビーさんが猫になったことを知り、しばらくキースさんの屋敷で匿うことになった。
キースさんは頭を抱えており、ルビーさんは少し苦笑いを浮かべてるような気がした。
ルビーさんは私とシェアハウスです。
「キースさん、私の婚約者様の友人とだけあり頼りにされてますね」
「厄介ごと押し付けられてるだけだと思うけど……」
「ですよね。私もそう思います。少し不憫ですね……。弟様が学校を卒業するまでの任期ですのに」
ルビーさんも少し哀れに思ってるみたいだ。
「異界の人たちの面倒も見て、私も見て、エレキさんも見る……。キースさん冒険に行きたいはずですのに」
「貴族のしがらみ」
「そう言ってしまえばおしまいです」
すべては貴族だからで片付く。訳はない。
むしろ委員長たちだってもうこの国の言語は大幅覚えてるし城に移してもういいくらいだ。
なまじっか私が言葉わかってしまっただけに……。
「そういえばエレキさん」
「はいはい?」
「バリー様から聞きましたが……。前世の記憶ある、らしいです、よね?」
「ああ、ありますよ?」
「あの……前世の年齢って……。流石に前世が男性の方でしたら以前撫でたの申し訳ないのですが……」
「前世も女の子でした」
「そ、そうなのですか」
女の子だからってあれは割と過度なスキンシップだと思いますけどね。
「じゃあここは元人間の小屋ですね」
「そうじゃん。ここ元人間しかいないじゃん」
なんか隔離されてる気分。
「私も魔物でしたら戦えたんですが……。こう、シャーと威嚇したら……」
「怖がられるだけだと思うけど……。とりあえず、眠たいから寝てもいいですかい……」
「え、あ、はい」
そういって目を閉じた時、小屋が開かれる。
ノエルさんとミリアさんがズカズカと入って来て。
「エレキ〜! 君のモフモフが恋しかった〜! 人間の姿でなくずっとこっちでいて!」
「ミリア。エレキは人間に戻りたいのですよ」
「えぇ、でもモフモフ最強じゃん! 戻る必要なくない?」
「エレキにはエレキの自由があります……。っと、猫ちゃん? 猫ちゃんですね」
そう言ってノエルさんはルビーさんを抱きかかえる。
「どこからか迷い込んできたんですか〜? 魔物であるエレキさんを恐れないとはなかなか肝が据わってる猫ちゃんですね〜。首輪してない辺り野良でしょうか……」
「あ、猫! 私にも抱かせてちょうだいよ!」
と、おもちゃにされている。困った顔をしてこちらを見てくる。私は首を横に振った。
ルビーさんはにゃぁとか細い声をあげた。
「暴れないおとなしい子ね! 人間慣れしてるのかしら?」
元人間です。
「あ、少し臭いかしら? 冒険から帰って来たばかりですものね……」
「私はそこまで動いてないので汗はかいてないですよ。まったく、早くシャワーを浴びて来てください」
「ちぇー。またね、猫ちゃん!」
「びっくりさせましたね〜。慌てないでいいですよ〜。私たちは怖くありませ〜ん。よしよし」
「にゃあ」
ルビーさんはなすすべなく抱かれていると。
「おい、ノエル!」
「あら、キース様。どうなさったのですか?」
「そ、その猫は触れちゃダメだ!」
「ふぇ? あ、申し訳ありません! この猫がどうかしたのですか?」
「え? あー……」
言い訳に言い淀んでいる。
素直にその猫はルビーさんだと言えるはずもないし、かといって病気を持ってるというのはルビーさんに対してめちゃくちゃ失礼だし、貴族を理由にしても見てないから証拠もないとなってしまう。
「そ、そう! この猫は今、少し弱っていてな。あまり触れては命に関わる」
「元気そうですよ? 魔法で健康状態確認してみましたが」
「よりにもよってノエルなのが災難」
「えっと……そう、その猫は俺のなんだよ。あまり平民が触れないでくれ」
と、自分が泥を被るようにした。
ノエルさんはそれを聞いて。
「はぁ!? 平民だからなんだというのですか! あなたはそういうことしない人だと思っていましたのに……ガッカリです。もし本当にそう思っているのなら……」
「嘘! すまん! 嘘だ!」
もう誤魔化しきれませんな。
「その、訳を話す。他言無用だ」
「……理由を聞きましょう」
「その……この猫はルビー様だ」
「……はい? ルビー様って、あのジュエル公爵家の?」
「そう。呪いで猫に変えられた」
「……本当ですか?」
「ああ。こういう時に冗談は言わないのはわかってるだろ?」
「…………申し訳ございませんでしたっ!!」
と、平身低頭。土下座していた。
「い、いいのよ。それにしてもこのシスター勘が鋭いですね……」
「自慢の仲間なんだが……聡明なのが玉に瑕。誤魔化しきれません」
「ふふ。まぁ、いいですよ。危険はなさそうですし」
「ノエル。このことは誰にも話すな。もちろん、ミリアたちにも。ガントルは特にダメだ。あれは口が軽い」
「わかりました。深く掘り下げてしまい申し訳ありません……。誤魔化そうとしていた努力を無駄にしてしまい誠に……」
「い、いいんですよ。それより、このことは秘密です。さっきめちゃくちゃ猫撫で声出してたのも聞かなかったことにしますから……」
お互い気まずい。




