王子がフラグを立てたから
夜会が始まった。
貴族は一筋縄では行かないものばかりと聞く。礼儀的にもまずは王族に挨拶にくる人ばかり。
で、私を見た時の反応も違う。
魔物を見て驚く人、驚いているが王妃に大丈夫かと安全性を尋ねる人、なぜ神聖な夜会に魔物なんかを連れ込むんだという人。
ワーナガルムってみんなに知られてんだなぁ〜とかじゃなくて、聞くところによると魔物を飼うというのが初めてで割と話題になってるらしい。人気者だね私。
「…………」
「匂いに充てられて元気ないのう」
「クサイ……」
一応嗅ぎ分けるように集中してはいるが臭いものは臭い。
今のところ怪しい匂いも何も感じない。感じないまま、私は肉を王妃様から分け与えられて食べる。
あ、この味付けうま……。レシピ知りたい……。
「このまま何もないといいんだが……」
「王子、それフラグ……」
「フラグとはなんだ?」
「こっちの話でぃす……」
と、王子がフラグを立てた瞬間に私は少し異質な匂いを感じ取った。
クンクン、と鼻を少し動かす。私の様子に王妃様も王様も何か違和感を感じたようで。
「なんか血の匂いを感じる……」
「血?」
「こっちです」
私は血の匂いがするところに向かう。
中庭からその血の匂いはしていた。茂みに隠れたようで私は茂みに顔を出すと、貴族の男性がなにやらうずくまっていた。
「ひいっ!?」
「なにしてるんですかー?」
「い、いい、いえなにも……。少しばかり疲れたので中庭で休憩させてもらってまして……」
と、男は茂みから立ち上がり、苦笑いを浮かべていた。
私は血の匂いをこの男から感じる。いや、血の匂いが分散した……?
こいつからも匂うが、なんか違うところからも血の匂いがする。
そう思っていた時、ガサっと茂みが動く。
「なにかしら」
「……ルビーの匂い」
「ルビー? って猫じゃない」
猫が茂みから出て来た。
が、その猫は少し不思議。
「あら、いつのまに王城に迷い込んでいたのかしら。警備は何をしてるの? 猫を見逃すなんて……」
「いや……母上。猫が入れるような警備にはしていません……。この猫は誰かが持ち込んだと考えるべきでは?」
「そうだのう。猫を持ち込む目的は分からんが……」
「んー、この匂いルビーさんの匂いなんだよなぁ〜」
私がそう言うと王子は少し固まっていた。
「なんだと?」
「この匂い……ルビー・ジュエルさんと同じ匂い。ルビーさんに飼われてるのかな? 犬好きだとか聞いてたけど猫も飼ってたんだ」
「いや、ルビーは猫は飼ってない……。猫に触れるとくしゃみが止まらなくなる病気だから……」
猫アレルギー?
じゃあなんでこの猫からルビーさんの匂いがするんだろう。
「わ、私、です……」
「ルビーの声……まさか」
「はい……。なんか、目が覚めたらこんな姿に……」
「……お前っ!」
と、王子はその男につかみかかる。
男は何かを知ってるみたいだ。
「なんと人間が獣の姿に!? これは呪いの類じゃな……」
「ルビーだけでしょうか被害者は。とりあえず、会場に戻り、何も口にするなと告げて来ませんと! 料理に紛れ込んでいたらもっと被害が拡大します!」
「ルビーさんはとりあえず私の背中に乗って〜。ここじゃ危険だし、猫になっちゃったルビーさんは私が守るよ」
「俺はこの男を連行し、いろいろ吐かせる。貴様……俺の婚約者に手を出してタダで帰れると思うなよ」
「お、俺が犯人じゃ……」
「お前の近くからルビーが出て来たんだ。状況的にみてお前以外には考えられないだろう。それにここで何をしていたのか、詳しく説明できるか? なぜお前から血の匂いがするんだ?」
私は一応周りを調べてみる。
人間の血が散らばっている場所とかは特にはない。死体らしきものも見当たらないし、血の匂いは謎だ。
ルビーさんは私の毛にしっかりとしがみついていた。
「まだ私でよかったです。王子がこんな呪いにかかってしまったらと思うと……」
「ルビーさんでも十二分に問題だと思うけど……。とりあえず、小さくなってるし、ひ弱になってるし殺されかねないから私が守るしかないね」
「申し訳ありません……」
「気にしないでくださいな」
王子がフラグを立てるからこんなことになったんじゃないかよ。
夜会でこんな騒ぎを犯したのは誰だ。あの時の毒の犯人と同じなのだろうか?
「エレキ、とりあえずわたくしの部屋に運びなさい。猫になる呪いなんて聞いたことがないけれど……。とりあえず、わたくしの部屋ならば安全だわ」
「了解です」
「エレキはとりあえずわたくしの部屋で見張っててください。敵は王子の身内から潰しにかかって来たのだと思うのよ。ひ弱な猫になったルビーさんは今、いい標的になるに違いないわ。恐ろしく狡猾で周到な犯人ね」
「防犯カメラとかほしーな……」
それがあったら証拠として出せるのに。




