別ベクトルでやばい王妃様
人間姿でいられるのは突然終わった。
三日目の昼、私は欠伸をしながら使用人さんの仕事を手伝っていると、突然、ぼふんっ!と煙が上がり、狼の姿に戻ってしまった。
「ということで戻った」
「短かったな」
「でも少し人間に戻れたから満足……」
私はとりあえず自分の小屋に向かう。
「その姿に戻ったんならちょうどいい。今夜、王城で夜会がある。一緒に来ないか?」
「夜会?」
「鼻が利く君は夜会の警備もできるだろう? 以前、王に毒を盛った輩がいたが、その主犯格がまだ判明していないのだ。捜査を進めているそうなのだが、いかんせん暗殺者は口を割らず自害、証拠もなくてな……。難航している」
「で、王のそばで匂いを嗅いでいろということですか。わかりました」
「ああ。それに、強い魔物が付近にいたら襲うにも襲えないだろう」
というので、私は警備として参加することになった。
王様と、王子様には出会ったことがあるが王妃様はとは初めて会うな。どんな人なのだろうか。厳しくない人だといいな。
私はとりあえず、今夜の夜会までぐっすり眠ろうとしていたが、あらかじめ私には王城に行っていてほしいのだとか。
そういう指示がどこかしらでされるかもしれないと、ばれないようにこの王都に守衛が張り巡らされており、王城の警備が少し手薄になっているようで。
私は寝てようと思った体を起こし、王城に向かう。王城ではすっかりおなじみになり、門番さんにエレキ、今日も可愛いなといわれた。
魔物なのに危機感持たれてないのはどうかと思います。
「よくぞきた、エレキ」
「うっす……。仕事っすから……」
「あら、そちらがあなたたちが話していたモルガド伯爵のペットかしらぁ?」
と、後ろを見ると豪華なドレスを身にまとった金髪で少しきつい顔をした女性が立っていた。ああ、この人めちゃくちゃ厳しそうだ……。
「魔物じゃない。人の言うこと聞くの?」
「大丈夫だ。この子はわしのことも守ってくれたのだ。信頼できる」
「くさい」
「ほっほっほ。まだ匂いは克服してないようじゃの。鼻が少し乱れるかもしれんが、今日はよろしく頼むぞ」
頼まれますよ……。
「ふーん……」
と、王妃様はこちらを品定めするかのような視線を向けてくる。
そして、王と王子は準備があるといって場を離れた。王妃はきょろきょろとあたりを見渡して私にこちらに来なさいとめちゃくちゃ怖い視線で言ってくる。
見下すのが様になってるぅ……。超怖い。
私は逆らわないで、王妃様についていくと。王妃様の部屋に案内されて。
「ここなら……。ほら、来なさい」
「えっ」
「ほら……私の隣に……」
と、隣に来るようにぽんぽんと叩かれる。
隣に座ると、私の体に腕を回してきた。
「この毛ざわりいいわぁ……。ワーナガルム……毛皮がいいと思っていたのよ……」
「ひっ、殺される……」
「殺しはしないわ。ああ、幸せ……。でも、モルガド伯爵のやつ、ブラッシングが甘いわね。櫛ならまだあるし、ブラッシングでもしてあげましょう」
といって、どこからか櫛を取り出して私の毛をブラッシング。
少し静電気が発生して、バチっときたようだが、それすらも気持ちいいと言っている。ちょっと怖いよこの人。
私の毛がほぐされて柔らかくなっていってる気がする。静電気が生まれるのは相変わらずだが、ちょっと気持ちいい気がする。
「あ、そこ……」
「ふふ、気持ちいいでしょう? 隠れ犬好きの間ではブラッシングマスターと呼ばれているのよ」
「何その界隈」
「ちなみに王子の婚約者のルビー・ジュエルさんはなでなでマスターと呼ばれてるの」
「その界隈謎なんですけど」
ジュエルさんも加入してるの?
「やる気なさげな顔つきをしてるのに、顔とは裏腹に結構やる気を出すタイプなのねぇ。ブラッシングしてそう思うわ」
「なんでいつも私が言われてることを当てるんだこの王妃様」
私は前世でも結構ダウナーな顔をしていた。
表情金がそこまで動かず、やる気なさげな顔に見えていたらしい。笑っていたりもした気がするし、なんなら割とやる気あって野球とかいろいろしていたが、やる気ないなら帰れとかたまに言われた。めっちゃやる気出してたのに。
「私ね、ブラッシングしてる犬のことがわかるのよ。ブラッシングで犬のこと全部わかるの」
「マジでこの王妃様怖いんですけど」
王妃様って別ベクトルでやばい人なんじゃないでしょうか。




