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水戸黄門のような

 私は現世に戻された。

 水面から顔を出し、水で濡れた前髪をかきあげる。


「…………」

「えっと、エレキさんはどこ行ったんです、の?」

「んー、私。エレキでーす」

「……は?」


 意味がわからない顔をしている。

 そりゃオオカミが消えて人間が現れたらそうなるが……証明してもらうために委員長たちに来てもらったのだ。

 が、委員長たちも固まっている。


「おうおう、久しぶりの私のこの可愛いご尊顔みてどう思うよ君たち」

「……本当に前世に戻っている?」

「ええ!? 都市伝説ですよね!?」

「あながち間違いじゃなかったっぽいよん。いやぁ、久しぶりの人間の姿だわ。神様曰くこの姿は三日間だけだって」


 私はさっきのことを説明した。

 神様の手違いでワーナガルムに転生したようで、人間の姿でいるためにはドラゴンの心臓が必要なようだ。

 が、キースさんは渋い顔をしている。聞いてみるとドラゴンの心臓と簡単にいうが、ドラゴンは基本的にSランクだという。ほらやっぱり。


「んで、キースさん。私のこの可愛い顔見てどう?」

「……可愛い」

「なっはーっ! だろー? 雷葉ちゃん、可愛いんだよ」


 私はとりあえず全裸なので委員長から上着を借りた。


「で、だ。私は人間のままでいたい。だからドラゴンの心臓を手に入れる必要が出て来ちゃった」

「…………」

「そこー、かたまらないでよ。前世が人間だってだけだよ私って」

「そ、そうね。前世の泉っていうくらいですものね。前世の姿になれて当然ですわ」

「そ、そうだな……」

「めっちゃ可愛い……。タイプぅ……」


 とりあえず私たちは村に戻ることにした。寒いし私。全裸の女だぞこちとら。

 私はシルルさんの家でシルルさんの服を借りる。ちょうど背丈が同じくらいでよかったよ。


 服を着て部屋から出ると、ご飯の支度が終わっていた。

 私は久しぶりに人間の姿でご飯を食べるのだが……。そういえば箸はないんだよなこの世界。

 んで、貴族の屋敷だとナイフとかフォークとかだったが、この村ではスプーンのようだ。

 で、汁物とお粥。病人食か?


「大したものを用意出来ず申し訳ありません……! これが我が家の最大のおもてなしで……」

「構いませんことよ。お米の味大好きですもの。たまには質素なのもまたいいものですわ」

「それに冒険の時なんかは干し肉だけで済ませることもあるし。ご馳走です」

「うへぇ、お粥……」


 はっきり言うと私はお粥が苦手。

 雑炊も無理。なんかふにゃけたご飯が無理なんだよね。だけど出された手前残すのも失礼だしよぉ〜。

 私は一気に流し込むことにした。そして、口直しにブドウの絞り立てジュースを一気飲み。


「ごちそうさまでした」

「はやっ!?」

「一気に流し込んだもん」


 苦手だからしょうがない。

 私は窓の外をチラッとみると、すでに太陽が降り夜の帳が下りている。

 だがしかし、村の外が少しだけ騒がしかった。


「なんか外騒がしくないですか?」

「あ……今日は……」

「今日は?」

「あ、あんた! 米を今すぐ! じゃないと……」


 と言った時、家の扉が開かれる。

 キチンとした身なりの男が、土足のままずかずかと家の中に入って来た。


「随分と騒がしくパーティしてんなぁ〜! 貢物を貢ぎもしねぇでよぉ〜!」


 誰だこの世紀末男。

 モヒカンで肩パッドっていつの時代に生きてんだお前。


「今日は税を納める日だよなァ! こんなパーティするんならキチンとあるよなぁ〜! 前回は未納だった分、増えてるんだぜえ?」

「お前……」

「あん? 誰に向かってお前つってんだコラ」


 と、キースさんが胸ぐらを掴まれる。

 が、しかしキースさんはそのまま男を投げ飛ばした。


「お前、セイキマツ家のヤツだな」

「いてて……この俺を投げ飛ばすたぁどうなってもいいんだな! 貴族様を敵に回すと恐ろしいぜぇ!?」

「そうだな。貴族を敵に回すと厄介だ。自己紹介が遅れたね。俺はキース・モルガド。伯爵位を賜っている」

「ニーナ・アレキサンドライト。よろしく頼みますわね?」

「えっ、あっ、モルガド様とアレキサンドライト様でいらしましたか……」


 おお、貴族で爵位が上だと分かった瞬間に下手にでやがったぞ。

 というか、ファミリーネームがセイキマツかよ。本当に? ふざけてない?


「セイキマツ男爵の話でいいことなんて一つも聞いたことなかったが……税とはなんのことだ? 辺境伯はこのことを知っているのか?」

「は、伯爵殿に頼まれたのでさぁ」

「嘘だな。左上を見ただろ。辺境伯はこのことを知らない、好き勝手やってるわけだ。そりゃあの厳格な辺境伯殿がこんなことするわけがない」

「…………」

「貴族だからと言って虐げていい理由にはならないぞ。貴族は平民を守る義務があるのだ。それを忘れるな」


 そう言って、キースさんはセイキマツ男爵を連れて馬車に乗り込み、辺境伯のとこに向かって行ったようだ。


「こ、米を持ってまいり……あら?」

「解決しましたわ。もう米を納めることはしなくてよろしくてよ」

「えっ、えっ?」

「水戸黄門のような解決劇だったな」

「それ私たちには伝わりますけどこの世界の人は伝わりませんよ……」

「水戸黄門ってこの世界にいないしな」








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