学園の夏休み
首元に包帯を巻き、安静にしろと言われて眠っていた。
今日はキースさんたちは簡単な採取の依頼に向かうと言って私を連れてくことはなく、私は屋敷の犬小屋でゆっくり眠っていた。
「ふあーあ……」
ウトウトとしていると、馬車が止まる。
キースさんたちだろうか? 紋章はキースさんの家のものなんだが。でもキースさんって馬車に乗って行かなかったし違うよなぁ〜、誰だろう?
私はうっすらと目を開けていると高校生くらいの男の子が降りて来た。
あと、なんか貴族っぽい服装じゃない女の子と貴族の女の子と貴族の男の子。
私が誰だ?と見ていると目が合ってしまった。
「何でここに魔物が……!」
「下がっていてくださいアルさん! 聖乙女の力で……!」
「おん?」
と、男の子は剣を構え、女の子は魔法を放とうと構えていた。
あれ、これまずい? 流石に攻撃できないよなー。あの馬車、たしかにキースさんの家の紋章が入っている。キースさんの知り合いか誰かだ。
攻撃したら怒られそー……。
「いや、この狼、包帯が巻かれてる。兄上が手当したんだろう。攻撃はするな。多分この狼は強い」
「兄上?」
「……今誰の声だ? 女の声だが」
「わたくしではありませんわっ!」
「私も何も話してないけど……」
「……まさか?」
と、私の方を見る。
「そうそう。私が話したの。兄上ってもしかしてキースさん?」
「魔物が……喋った!?」
「嘘……」
私はキースさんの弟と話してみる。
名前はアルゴーというらしく、歳の離れた弟らしい。弟が当主になるらしいので、キースさんはその弟が成人するまでの当主らしい。
父を早くに亡くして、仕方なくキースさんが当主を引き受けたようだ。
「まさか兄上が強い魔物を懐かせるとは」
「魔物って人に懐くんですね……」
「不思議なこともありますわねぇ」
「……」
と、寡黙な男の子は何かを書いている。文字が読めないので何て書いてあるかわからん。
言葉は自由にわかるのに文字は読めん。これ不思議だよな。聴覚にはその自動翻訳が適用されるが視覚は無理と。
「こいつ、声が出せないんだ。悪いな。読めるか?」
「文字はわからない」
「だよな。こいつも不思議だってさ」
そう書いてあるんだ。
アルゴーさんは顔がよく性格もいいようでみんなから親しまれているようだ。
で、アルゴーさんは連れて来た子たちの説明をしてくれる。金髪の貴族の女の子はニーナ・アレキサンドライト。アレキサンドライト侯爵家の次女で、アルゴーさんの婚約者。
茶髪の女の子はシルルという名前でバラード辺境伯の農村からわざわざやってきた子。平民なので苗字はないようだ。
「そういえば……知ってますか? 私の住んでた農村で面白い話があるんですよ!」
「…面白い話?」
「はい! 泉がありまして、その泉に落ちると一日だけ前世の姿に戻るっていう都市伝説です! あくまで都市伝説なので本当か分かりませんけど、ぜひ来てみませんか! 夏休みですし!」
「今年の旅行先はそこにするか? 都市伝説、いい響きだ」
「なに、旅行先の相談のためだけにここに集まったの?」
「そうよ。夏休み中は学園の寮は閉鎖されるからここに集まるしかないのよ」
「なるへそ。前世ね……」
私は少し思い立って。
「キースさんとかも連れてみんなで行こうよ」
「えっ」
「旅費とか全部キースさんに負担させてさ! 私もその泉見てみたいし」
「オッケー、兄上に伝えておくよ」
「いいんですか!? そ、その……キースさんご迷惑じゃ?」
「迷惑なわけあるもんか。兄上はそういうの俺より好きだ」
きっとキースさんもものすごく見たがるし、私もその泉に落ちれば1日だけ人間に戻れるかもしれない。




