ワーナガルムについて
魔物研究施設では、鼻息を荒くしたノスタルさんが待っていた。
アズーロン国の第一王子と、この国の王子様、キースさんは席に座らされて、私とイグニスもお座り。お座りしてじっと待っていると、なにかデカい箱のようなものが運ばれてきた。
「これを見てもらいたい」
そういって、かけられていた布をめくると。
「うわ……」
「同族……!? お前、殺したのか!」
イグニスが激高している。同族が好きなようだ。
イグニスは今にも襲い掛かりそうだった。アズーロン国の王子は抑えようとしているが、牙をむき出しにして、抑えられる様子はない。
仕方ないので、私が前足で思い切りぶん殴った。
「やめてよ。ここで襲ったりしたら自分たちのことわからないよ? 私たちですらわからない私たちのことは、同族を解剖して調べるしかないんだって」
「そういうことだ。申し訳ない」
「…………」
イグニスは黙り込んでしまった。
「このワーナガルムの死体は、つい先日、Sランク冒険者を数名雇い、討伐してもらったものだ。君たち二人の飼育しているワーナガルムとはまた違った特徴がある。あ、触るなよ。死体とはいえどまだ強力な毒が付着している」
「毒? 毒なんてなんでついてんだ?」
アズーロン国王子がそういった疑問を口にした。
「それについては今説明しよう。まず、このワーナガルムには事前に教えてもらったウエルダン第一王子のイグニス君の扱う能力、キース君のエレキ君の扱う能力とは違った能力を持っている」
「……こいつもまた変異種ってことか?」
「ではない。変異種……としたのは間違っていた。ワーナガルムの新たに判明した生態というのだろうか……。仮説なのだが、間違いはないだろう。はっきり言おう。変異種として認定したのは間違いだった」
ノスタルさんがそう断言した。
「この能力が変わるというのはワーナガルムにとっては普通のことなのだ。私たちが目撃したことがなかっただけで、普通のこと」
「……なんでそう言い切れる?」
「ワーナガルムの生態というか、能力は生まれた場所で決まるからだ!」
「生まれた場所?」
「ああ。イグニス君は溶岩地帯で生まれたといっていたね? だから火に強く、火を操ることができる生態なのだ。エレキ君は雷が多い荒れた山だったね? だから雷の力を得ている。この毒を持っているワーナガルムが発見されたのは毒沼地帯だ。ワーナガルムは初めて生まれた大地で、違う能力を持っているのだよ!」
なるほど。納得はできる。
たしかに雷が多い地帯で生まれたから雷のエネルギーを得ることができたんだろう。溶岩地帯なら熱とか火とかそういうエネルギー。
「このワーナガルムを解剖したら、毒を分泌する器官があった。この器官はエレキ君で言うところの電気を貯める器官、イグニス君で言うところの熱を貯める器官だろう。この器官が生まれた場所で変化し、その能力を得るというわけだ! 毒沼で生まれたら毒を操り、雷が多いところで生まれたら雷を操る! なんてすばらしい魔物なのだ!」
ノスタルさんはものすごく感動していた。
「ワーナガルムというのはSランクの魔物の中でも、飛びぬけてやばい。災害級の強さを持っている。そもそも、雷という自然現象を操る時点で相当やばい魔物ということは理解できるだろう?」
「まぁ、わかる」
「私が思うにね……。ワーナガルムははるか昔から進化していない生物だと思う。はるか昔の魔物は今とは比べ物にならないくらい強かった存在で、文献によるともっとワーナガルムもいたようだ」
「今より多く、か?」
「ああ。歩けば出会うというくらいには多かった。が、少なくなっている。理由は一つ、彼らが強すぎたから」
強すぎたからというのが数を減らした理由になるんだろうか。
私は考えてみるも、寝不足の頭はどうも動かなかった。
「強すぎたからどうだってんだ? いいことだろ」
「いや……よくない。彼らは強すぎたからこそ、自分たちの食べる食料を少なくした。強すぎるがゆえに、他生物を絶滅させかけた。で、強すぎる彼らはエサも満足にとれなくなった。ここから彼らはどうすると思う? どうやって生き延びようとする?」
「……共食いか」
「そう! かつて昔、遭難した船の船長が船員を殺してその船員の肉を食べて生き延びたように、生物は生き延びるためなら同族をも食らう! 同族で殺し合い、今の数にまで減らしてしまったのだ! 本来は同族内でも弱肉強食なのだよ! ワーナガルムは一匹狼という言葉が似合うねェ!」
なるほど。強すぎるのも考え物だな……。
「と、ここまでがワーナガルムについての説明だ。大体はっきりしただろう? なぜ能力を持っているのかは。いやぁ、僕もこのことが言いたくてうずうずしてたんだよ! ここ最近は興奮しすぎてやばいねぇ!」
「どうりで目の下に隈があるわけだ。お前、俺が言うのもなんだが寝ろよ」
「興奮で眠れん! アズーロン国第一王子殿、ご清聴誠に感謝する。どうだった? 納得いったかね?」
「納得した。たしかに、反論する材料は今のところ俺にはねぇ。ただ……」
「ただ?」
「ワーナガルムはそこまで強いのか。俺が使役しててもいいのか……?」
「問題ない。貴殿の国は我々の国より魔物の研究は遅れているが、我々より魔物を使役することにはたけている。キースくんよりかははるかに上手く扱えるだろうて」
まぁ、私が普通のワーナガルムだったら結構キースさんとは一緒にいないかもなァ。
「それに、権力者たるもの、強い魔物を使役していたらその分オーラが出る。自分なんかでいいのか、俺が使役しててもいいのかというのはイグニス君に対する侮辱に値するだろう。早いところその今にも襲い掛かってきそうなイグニス君を連れて行ってくれないか。このワーナガルムは埋葬しておくとでも伝えておくれ」
と、横を見ると今にも襲い掛かりそうに牙をむき出しにしているイグニスがいた。
「埋葬するといっている。あの人は下手に扱わないから大丈夫だ」
「ガルルルル……」
「話が通じない……?」
「ガルゥ!」
と、イグニスは吠えて火を纏う。
「イグニス!」
「ガルゥ!」
と、ノスタルさんに飛び掛かった。
私はしょうがないので電気を纏い、思い切り蹴り飛ばす。あっつい! こいつ火を纏ってるから熱い!
「怒りが頂点に達して聞こえてないな! 私がやるの? まじ?」
「ノスタル、良いから逃げろ! こらえてた分反動が来てるぞ!」
「イグニス、落ち着け!」
「第一王子は離れててくださいな! もうこいつ沈静化するまで聞こえない! 私がなんとか抑えるから死にたくないなら離れてぇ!」
私はとりあえず窓からイグニスを蹴落とし、外で戦うことにした。




