もう一匹のワーナガルム
昨日は聖女さんは神父ともどもこってり絞られていた。
ノエルさんは罰を与えると今日一日冒険に行かないといって教会のほうにこもりっきり。ガントルさんも昨日起きて眠れなかったのか、えっちなお店に行ったってあきれながらミリアさんが言っていた。
で、朝を迎える。
私は正直言って眠れてない。あの騒ぎで完璧に目が覚めてしまい、眠るに眠れなかった。執事の人が私の分の朝食を運んでくる。
私はとりあえず生肉を食べていた。
すると、キースさんの前にまた馬車が止まる。また王族が乗るような馬車。王子が慌てた様子で降りてきたかと思えば。
私の前に何かが立ちふさがる。
「あんたがこの屋敷の主人に飼われている同族?」
「……ワーナガルム?」
私の目の前にはもう一匹ワーナガルムがいた。
隣にはこの国の服装ではない上半身裸の褐色肌の男性が立っていた。このワーナガルムは戦う意思は見受けられない……。が、なんか観察されてる気がする。そういうのあまり好きじゃない。あまり見ないでほしいんですけど。寝不足ですし。
「腑抜けてるなぁこのワーナガルム。本当にお前と同じ種族か?」
「同族だ。だが……このワーナガルムはおいらと違う能力持ってる。相当強いよ?」
「ふーん……。どういう能力だ?」
「それは見せてもらうまでわからないけど……」
「ワーナガルムって火を扱うんだろ? 火の種類が違うのか?」
「いや、おいらも自分たちのことはあまりよくわかってないけど火は使わないっぽい?」
私の能力の考察を本人の目の前でするな。
「それより! その肉おいらも食いたい! 食べていーい!?」
「いいよ……」
「すまんな。お前さんの飯もらって」
私の肉が目の前のワーナガルムに盗られた。
一体何なんだこの人たちは。そう思っていると屋敷からキースさんが大慌てで飛び出してきたのだった。
「これはこれは、アズーロン国第一王子様。わが屋敷に何の用でしょう?」
「いや、魔物研究が一番進んでいるこの国にこのワーナガルムのことを聞きに来たんだが、つい先ほど王子差からモルガド伯爵がワーナガルムを使役していると聞いてな。一目見ておきたかったんだ」
「左様ですか! で、どうでしょう、私のエレキは」
「腑抜けてはいるが……イグニス曰く、強いという。どういった能力を持っているのだ?」
「うちのエレキは結構珍しく……雷を操るんです」
「ほう! 雷! やっぱ火ではないのか!」
「そちらのイグニスは……毛が少し赤いようですが? 燃えているのですか?」
「そう! おいらは火を操るんだ! こう、ね!」
そういって吠えるとぼわっ!と火が付いた。火だるまになっているイグニス。キースさんは私を見て負けじとやれという指示を目から出していた。
ペット自慢大会か? まぁ、指示ならやるけど……。
私は吠えて、雷を落とす。私の周りにはバチバチと電撃が放たれていた。
「おお! すごい! これは食らったらひとたまりもないな……」
「なので放電してる最中は私でも迂闊に近づけません」
「こっちも火だるま状態の時は近づかないようにしている。魔物は危険だからな」
だろうよ。触れたい輩がいたら馬鹿だよ。
「それより……同じワーナガルムでも能力が違うのか? 変異種だとこの前言われたが……」
「それについては今向かう魔物研究施設でノスタルに説明してもらう。わかったことがあるようだよ。ただ……エレキとノスタルくんにはちょっと申し訳ないんだけどね」
「申し訳ない?」
「というと?」
「来てみればわかる」
そういうので、私はついていくことにした。
もちろん、私たちは馬を怖がらせない位置でついていく。イグニスというワーナガルムは結構はしゃぐ子のようで、どこで生まれたかとかも聞いてきた。
私確か……。教えてもらったところが正しければパラト荒山という場所だった気がする。結構高所で森が多いが、雷雨が激しい場所らしい。
「おいらはね、溶岩の洞窟で生まれたの! だから爪はこういう溶岩みたいな感じになってるし、溶岩も泳げるんだ!」
「へぇ。すごいね」
「でもおいら雷は怖いんだ。雷に打たれたら死ぬかもしれないし」
「私生きてますけど」
雷に打たれて生きてますけど?




