元人間かもしれない?
ノスタルさんはしばらくしたら立ち上がり、こほんと咳払いをしていた。
「落ち着こう。まずは落ち着くことが大切だ」
「そうだ。落ち着け」
「はぁ……。だが、このエレキは魔物にしては少し妙なものもある。魔物というのは心から懐かないと……人間なんて心底どうでもいいというような態度を取るのだ。これは魔物共通の習性で人間は劣等種族と思い込んでる節がある。まぁ、アンデッドには当てはまらないが」
「それがどうした?」
「心から懐いているようには見えないのに、人間に気を許して、対等に接している。それが些か妙だ。まるで人間だったような感じだな」
何か見抜いているような視線を向けてくる。
前世人間だからなぁ。言ってることは間違いないんだけど、科学的でもなんでもないから信じてもらえるかどうか……。そもそも異世界から転生して来た人間だって言っても信じてもらえない気がするな。
「人間? エレキが?」
「まぁ、そんな感じがするってだけだ。もしかしたら前世の記憶とかそんなんがあるのかも……と思ったけど人間が転生して魔物になるのか、人間の記憶を持った獣の魔物なんて聞いたことがないからね。というか、本当に人間の記憶があるのかは誰にもわからん。俺がキースの頭の中を読めないように、誰にも自分の思考は汲み取れはしても読み取れはしないんだよ」
ノスタルさんはカップに注がれた紅茶を呷る。
言ってることはわかる。たしかに元人間だと言ってもそれは私がついている嘘かもしれない、私の記憶は私だけにしかわからないのは至極当たり前のことだ。
科学的に証明できるならまだしも……。転生なんていうのは科学的に証明なんて不可能だしな。
「エレキを引き取らせてもらえればもっと調べることが可能なんだがね! 魔物が喋るメカニズムを解明してみたい。どうかね?」
「いや、嫌だって言ってんだろ。ありがとよ。ただ見せに来ただけなのにそんなこと言われるなんて思ってなかったぜ」
「はっはっはっ。研究職だから常日頃観察が趣味なのさ。見せに来るということはイコールで少しだけ観察させてもらうということだ。たまに見せに来るといい。また、喋るなどのような不思議なことがあったらなんでも相談に来るといい」
「そうさせてもらうよ。魔物と戦うことはあれど飼うというのは初めてだしな……」
魔物研究施設を後にする。
キースさんは私の顎を撫でた。
「お前、もともと人間なのか……?」
「…………」
「いや、もともと人間とか、そんなことはないな。ありえない。死者が転生なんてそんなことはありえないな。もし仮にそうだとしても今はエレキだからな」
「……わふ」
まぁ、前世のことは今はどうでもいい。
前世の記憶があっても基本的に邪魔だしな。私の周りに同じ世界から転生して来た人がいない以上、あってもなくてもそんな変わらないしな。人間だった頃の尊厳はないってだけで。
「いい匂いだな……。もう夕方か。なんか買って食っていくか」
「いいね」
「何が食べたい?」
「肉」
「だな。狼が草を食うなんて考えられないな」
狼は肉食動物ですから。
キースさんは屋台で肉の串焼きを買い、串を外して店主から皿を借りてその上に置いてくれる。
私は肉を食べる。あまじょっぱいタレが美味い。この肉、牛でも豚でもないような味がする。鶏肉の食感なんだけど脂は豚肉に近いような……。
「美味い」
「そりゃ嬉しいねぇ。狼さん、こっちの肉も食べな〜。今日そこまで売れないからよ、肉が余るんだわ。もったいねぇし消費してくれよ〜」
「うん。口の中に放り込んで」
私は大きく口を開けて放り込まれるのを待つ。
「食べられそうで怖えな……。えいやっ!」
肉が舌の上に乗っかった。牙で噛みちぎり、飲み込む。
「美味かったです」
「そうかそうか。よかった」
売れ残りの肉をもらうだけでも食費浮くな〜。




