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やっぱり仲の悪い公爵姉妹。

 

「イルマ」


 日の沈む頃になって帰宅したぶっちょづらの妹に、ウルミリアは険しい目を向けた。

 今日は見慣れた焦茶の髪に同色の瞳、そして下働きのお仕着せ姿ということは、また街に行っていたのだろう。


「少しは自分の立場を理解して、出かけるのを自重したらどうですか」


 この家でイルマに苦言を呈することが出来るのは、ウルミリアのみだった。

 父公爵は、自分にも彼女にも引け目があって強く出られないからだ。


 ウルミリアの言葉に、イルマはふん、と目を逸らす。


「別に、お姉様に関係ないでしょ!」

「関係はあります。貴女は我が公爵家の令嬢であり、次期王妃であり、その振る舞いの奔放さゆえに家名を傷つけている自覚はないのですか。まして貴女の身に何か危険があれば、教会と王室の双方からお父様が責を問われることになるのです」

「ちょっと息抜きに街に出かけただけじゃない!」


 ウルミリアは、イルマの頑なさに息を吐く。


「また家庭教師のレッスンから逃げたでしょう。そのようなことで国母が務まるわけがありません」

「だったらお姉様がなればいいじゃない! 私はお姉様みたいに完璧には出来ないわよ!」


 ーーーそう出来るのなら、わざわざこんな事は言わないわ。


 内心の怒りを押し殺し、表情に出さないように努めながら、ウルミリアは彼女に言い募る。


「……10日後に、王宮での顔合わせが行われます。それまで屋敷を出ることを禁じます」

「何でよ!」

「ただでさえ、日に焼けた肌に付け焼き刃の礼儀しか持ち合わせていないでしょう。本来なら一人で外出することすら問題の身の上を、貴女を不憫に思う方々が特例で認めているのです」


 イルマはグッと唇を噛み締めてから、階段に向かってくるりと背を向ける。


「イルマ!」

「不憫に思うなら、辞めさせてくれたらいいじゃない! 皆口ばっかりでしょう!」


 駆けていく彼女の背を見送りながら、ウルミリアもギュッと眉根を寄せて目を伏せた。


「……わたくしにその力があるのなら……とっくにそうしているわ……」


 あの子の笑顔を、一体いつから見ていないだろう。

 ウルミリアだって、イルマの行く末を案じていないわけでもなければ、傷ついていない訳でもない。


 自由にそれを口にする彼女を羨ましく、そして愛する人を奪う彼女を疎ましく思いながら、ウルミリアも自室へと戻った。


※※※


 ーーーまたやっちゃった。


 部屋に駆け込んだイルマは、着替えもせずにボフッとベッドに伏せた。

 罪悪感で胸が押し潰されそうになる。


 イルマだって分かっているのだ。

 姉が口煩いのはイルマの為で、アルヴァ殿下と添い遂げられないことで傷ついていることくらい。


 ーーー私さえいなければ。


 二人の並ぶ姿は、イルマの憧れだった。

 お貴族様仕草でも仲睦まじくて、公爵邸の中庭を二人で歩く様子は本当に幸せそうで。


 あんな風になりたい、なれる相手を見つけたいって、あの頃は口答えしながらも勉強も礼儀作法も自分なりに頑張っていた。


 ーーーでも、無理なのよ。


 イルマでは、どれだけ頑張ったって姉には追いつけない。

 理想を体現したような聡明な努力家の彼女と、何をやったって平凡な自分では、同じことを習っても、努力をしても、かかる時間も完成度も全然違うんだから。


 イルマは知っている。

 姉は本当に、国母に相応しい完璧な人だって。


 優しくて、慰問に赴いた時だって皆に慕われてて。

 お茶会だって、姉とイルマを比べて蔑む連中から、ずっと庇ってくれてた。


『エーミラは、わたくしにとってはもう一人の母のような人ですもの。だから貴女は本当の妹で、守るのは当然のことなのよ』


 そう言ってふんわりと笑っていた。

 あの笑顔を、一体いつから見ていないのだろう。


 ーーー何の意味があるのよ、女神様。なんでお姉様ではなくて私なのよ。


 祝福なんかいらなかった。

 こんなもの、姉から幸せを奪う呪いでしかなかった。


 アルヴァ殿下と一緒に責任と重圧を負う覚悟なんて、イルマにはこれっぽっちもない。


 ーーー逃げたい。


 でもどこに。

 イルマみたいな小娘一人、逃げたってどうせすぐに捕まる。


 そんな醜聞が漏れたら、今みたいにイルマ一人じゃなくて、他の色んな人の評判が落ちて、すごく迷惑する。


 今でさえきっと、お姉様には憐れみという名の嘲笑が浴びせられているのに、アルヴァ殿下まで聖女に逃げられたと陰口を叩かれるかもしれない。


 がんじがらめで、どうしようもなくて。


「……助けて……ねぇ、お姉様と殿下を、助けてよ……皆に慈愛を与える女神様なら、それくらい出来るはずでしょ……」


 祈りとも呼べない暴言を、ベッドに向かって吐き捨てる。


 自分の意思じゃないのに、なんて理不尽なんだろう。

 なんで姉を傷つけて、愛する人を奪わなきゃいけないの。


 解放してほしい。

 死ねばいいのだろうか。


 でも、自分の命を投げ打つほどの覚悟もなくて。


 いつまでも離れない閉塞感に押し潰されて、イルマはいつの間にか体を丸めて、眠りに落ちていた。

 

すれ違いしかしない公爵姉妹。


次話はアルヴァ視点ですー。


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